外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年10月25日(火)

DC道場フェロー・レポート①(上院編・10月24日)

[ 2011年DC道場 ]


 今日の午前はCenter for Strategic and Budgetary Assessments (CSBA) を訪問し、AirSea Battle (ASB) について意見交換した。意見交換の概要は以下の通りである。
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 過去2年間、ASBについての議論を続けてきた。今では、国防省の各部署でもASBを基本に議論を行っている。海兵隊でもASBが重要な課題になっている。
 一時、海空軍の間に主導権をめぐる争いがあったが、すでにスタッフレベルではそのような問題は無くなった。逆に、今、問題となっているのはいわゆる「Christmas ornament effect」といわれるもので、ASBを口実にして伝統的な装備や新しい装備を獲得しようとする動きが活発化している。
 国防省や各軍ではASBは広く浸透してきたが、議会では十分支持を得られているとはいえない。しかし、今年の7月まで国務副長官を務め、中国に対して「戦略的保証(strategic reassurance)」を行うべきだと主張していたジム・スタインバーグ(Jim Steinberg)でさえ、最近では中国に対する考え方を変えてきている。
 対中政策で考えるべきことは次の通りである。①中国の台頭を受け入れるのかカウンターバランスするのかについての決断、②中国は戦争しようとしているのではなく、戦争しないで地域の覇権を握ろうとしているとの理解、③どのようにして資源を調達するかについては、A)地上軍を減らす、B)同盟国がより重要な役割を果たす。特に日本の役割は死活的で、弾道ミサイル防衛、防空、対潜水艦戦(ASW)などの面で日本が果たせる役割は大きい。特に、南西諸島にASWバリヤーを張る努力を行うことが重要である、C)海空の必要な戦力を増強する、D)相手側に高コストとなる戦略(cost-imposing strategies)を考える。具体的には長距離攻撃能力をもつシステムを調達し、中国が360度どちらから攻撃されるか分からないという状態にするのは有効。現在、米国は短距離の戦闘機を多数保有しているが、これではあまり効果がない。
 ASBは対中戦略であると思われており、それも重要な要素ではあるが、ASBは飽くまで作戦概念であって、戦略概念ではないことを忘れないで欲しい。ASBは作戦概念であるので、中国以外にも適応できる。例えば、ペルシャ湾などにもASBを適用できる。
 ASBの作戦概念を簡単にいえば、まず、①Blinding/scouting campaigns が最初にくる。これは、敵の衛星、潜水艦、OTHレーダーなどを破壊することによって達成される。つぎに、②長距離攻撃が続くが、これによって中国の弾道ミサイル能力などを破壊する。同時に、③前方展開されている基地の抗堪性を向上させるとともに、すでに存在する滑走路などを利用することによって代替基地を開設する。また、④BMDで防衛するが、その時に重要施設に向かうミサイルを優先して破壊するなどのpreferential MDを行う。また、紛争のシナリオについては、短期戦なのか長期戦なのかについてのコンセンサスもないため、長期戦に備えるのであれば資源の使い方が異なることも理解しておく必要がある。
 それでは、中国に対する戦略とはどういうものかといえば、①西太平洋に焦点を当てる、②現在の防衛システムを再編成する、などの高次のものが戦略となる。ただし、今のところ中国の海軍力は我々にとって問題とはならない。対艦弾道ミサイル(ASBM)についても心配していない。しかし、10年後にこれがどのようになっているかは不明である。
 ASBには危機管理の概念は埋め込まれていない。危機管理はより高次の政治・軍事レベルで対処されるべきである。しかし、中国共産党は中国軍を確実にコントロールしているとはいえないので懸念される。
 軍種間の相互運用性については、①ソフトの手続き的な面と、②ハードの技術的な側面がある。①は比較的改善しやすいが、②はなかなか改善するのが難しい。海空でシステムが異なると情報交換さえできない。なお、米国海兵隊も役割があり、特に特殊部隊が重要な役割を果たすであろう。(了)


道下徳成 政策研究大学院大学准教授・PAC道場第1期生