外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年10月25日(火)

DC道場フェロー・レポート(下院編・10月24日)

[ 2011年DC道場 ]


 下院のリセスが終わり、今週から通常運転である。事務所のスタッフもスーツ姿に戻って、仕事モードになっている。朝からアフリカ某国の人権団体が事務所に訪れ、当事務所の外交担当の立法スタッフに向かって、やたら滑舌の強烈な英語で人権蹂躙の実態を訴えて帰っていく。地元の陳情だけでなく、議員が関与している委員会や各種議員連盟、慈善団体等に関連する人々や企業が頻繁に陳情やら挨拶やらに訪れるのは、日本の議員会館でも同じだ。しかし、英国の議員会館に半年いたことがあるが、その時にはそうした陳情客には会ったことが無い。しかし各種陳情はきちんとファイルされ、議員は確実に陳情処理を進めていた。英国の下院議員は日米よりは随分庶民的で(House of Commonを庶民院と訳す人もいる)、自分からちょくちょく地元に戻っては直接陳情を聞く。地方議員の選挙の手伝いをしたとき、下院議員が自分の推す候補のために戸別訪問(イギリスでは合法)をするのに随行して歩いたが、そういう時は陳情を汲み上げる絶好の機会であったようだ。日本の選挙では戸別訪問は禁止だと教えてあげると、「どうやって有権者に自分の党の政策を説明するんだ?」と不思議そうな顔をしていた。
 
 さて、委員会も活発に開催されるようになり、本日はArmed Service委員会(国家軍事委員会というところだろうか...)を傍聴した。軍需産業基盤についての公聴会であり、参考人として戦略予算評価センター(CSBA)、戦略国際問題研究所(CSIS)、航空宇宙産業協会(AIA)から一人ずつ出席していた。AIAからは、やはり昨今の国防予算の削減に関しての悲痛な訴えがなされた。このまま軍需産業が先細れば、技術開発の面でも困るし、多くの雇用を生み出す産業なので、失業にも影響が大きいという。CSISからも、時代遅れの兵器で戦わねばならない軍隊のことも考えて欲しいという援護射撃があった。委員会メンバーの下院議員達も概ね、「軍事費削減の流れに忸怩たる思いを持っている」という論調が目立つ。 
 軍事費削減と言えば、本日のPolitico 紙の記事では、「国防総省の綱渡り:サイバーセキュリティvs. 予算削減 (DoD's Balancing Act: Cyber security vs. Cuts)」というのが載っている。パネッタ国防長官は「サイバー攻撃は、真珠湾攻撃と同じようなものだ」と言って、サイバーセキュリティの重要性を訴えているという。(週末に行ったスパイ博物館のビデオ上映コーナーでも、サイバーアタックへの注意喚起のための最初の映像に真珠湾攻撃のフィルムが使われていた)

 余談だが、戦史を紐解けば真珠湾攻撃というのは、対ドイツ戦で苦境に立たされていた英国と、ニューディール政策が上手くいかなくて苦境に立たされていた米国の双方が結託し、起死回生を狙った米国参戦のための大義名分作りとして、わざと攻撃をさせたという話が出てくる。昭和16年12月2日と3日における無線傍受の結果、既に米軍は日本軍の動きを詳細に掴んでいたのだが、このことについては14部だけコピーを作成し、ルーズベルト大統領、ハル国務長官、ノックス海軍長官、スターク海軍作戦部長、海軍通信局長ノイズ少将、海軍作戦部作戦部長ターナー少将等をはじめとするごく一部の首脳陣にのみ配布された。そして12月8日当日、元々対日本用として構築されたはずの真珠湾軍港には、何故か空母は一隻もいなかったのである。数日前に空母は真珠湾を離れており、日本の諜者が空母不在を知らせた時には、既にわが連合艦隊は行動に出てしまっていた。そう言えば、「イラクに大量破壊兵器があった」というあやふやな話をきっかけにして戦争を仕掛けたことは、記憶に新しい。このように極めて胡散臭い「真珠湾攻撃=米国が一方的な被害者」説を、サイバー攻撃の恐怖を語るために引き合いに出すパネッタ国防長官の図々しさは、指摘しておきたい。さらに余談ながら、米軍の誤算は、ほんの囮のつもりが想定外に日本海軍航空隊が強く、撃沈撃破戦艦8隻、航空機の殆どを失ってしまったことである。 

 元々、連載初日から全体的に余談のようなブログではあるが、一応先を続ける。「ネットワークシステムを死守することの重要性は高まっており、予算の事情がどうあれ、もっときちんと金をかけるべきだ(元国防次官:ウィリアム・リン)」、「今や軍事の殆どの部分は、サイバーセキュリティだと指摘しておく(マック・ソーンベリー下院議員)」等の発言を引き合いに出しながら、同紙はサイバーセキュリティの確保を訴える。まだ現時点では、関連の予算に目立った影響は出ておらず、2012年度の国防総省におけるサイバーセキュリティ改善を支援するために32億ドル強の予算が見込まれている。これは2011年度より微増である。しかしこの分野は、次々に新しいウィルスへの対応をしなければならない等、きりがない世界であり、ゆくゆくは国防予算全体の削減の影響を受けるという懸念は拭いきれない。ワシントンDCの政治業界紙は、こうして危機感を煽っている。 

 米国の行政は概ねアカウンタビリティが徹底しており、GAO (Government Accountability Office:政府説明責任局)の厳しい検査・評価を受けている。しかし国防予算についてはコードネームで記されている部分が結構あり、どこまで開示されているかは実のところ分からない。もしかしたら「ダメな振り」をしながら、しっかり準備を進めていて、その上でなお将来的な予算の確保のためのプロパガンダを行っている可能性もある。真珠湾を思い起こせば、あながち妄想ではないのではないか。 (了)


柄山直樹 PAC道場第2期生