外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年10月21日(金)

DC道場フェロー・レポート(上院編・10月20日)

[ 2011年DC道場 ]


 今日の午後は、ブッシュ政権の国家安全保障会議(NSC)で勤務した経験をもつマイケル・グリーン(Michael J. Green)氏にお話を伺った。グリーン氏はジョンズ・ホプキンス大学のSAISで修士・博士号を取得後、SAIS助教授を経て、国防分析研究所(IDA)研究員、国防省長官室アジア太平洋問題担当補佐官、外交評議会(CFR)上席研究員などとして働いたのち、ブッシュ政権下で2001~2004年はNSCアジア担当部長、2004~2005年はNSC上級アジア部長として勤務し、現在は戦略国際問題研究センター(CSIS)で日本部長を務めるとともに、ジョージタウン大学で教鞭を執っている。
 インタビューの概要は以下の通りである。
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 まず、NSCで働くことになった経緯であるが、過去に一緒に仕事をしたり、プロジェクトをこなしたりした知人が名前を挙げてくれたようである。選挙運動は手伝っていなかったので、過去の国防省、IDA、CFRなどでの仕事仲間が推薦してくれたということだ。
 NSCは200人程度の組織で、うち政策スタッフは70~80人、それ以外は事務官である。事務官は他省庁からの出向組とNSCのプロパーの両方がいる。自分の就任したポジションは、Schedule Aというカテゴリーで、「専門家」という位置づけであった。これ以外にもSchedule BとSchedule Cというカテゴリーがあるが、Schedule Cが「direct hire」といわれる、本当の意味での「政治任用者」である。なお、自分がいたときには、アジア部では自分が政治任用者、朝鮮半島が政治任用者、中国担当が出向者、東南アジアが出向者、インドも出向者という構成になっていた。ちなみに、政治任用者は「direct hire」と、出向者は「detailee」と呼ばれている。政治任用者として働く場合には摩擦もある。しかし、こういう摩擦を経てタフになった部分もあるので、あとから思えば悪くないことだったのかも知れない。
 一般に、具体的な政策決定を行う「action officer」になると、純粋な学者ではうまく行かないことが多い。これは、①学者はクレジットを求めてしまい(論文には著者の名前が出る)、成果を自分の手柄にしようとする。このため、結局、回りの人間にねたまれ、邪魔されることになるためである。(逆にいえば、自分の手柄にしようとさえしなければ、できることは少なくない。)例えば、政策を作ったとしても、これを「自分のイニシアチブ」ではなく、「自分のボスのイニシアチブ」としなければならない。もう1つは、②学者は根回しになれておらず、これがヘタであることがある。根回しについては、「いつ、どのくらい、どの省庁に話をするか」というさじ加減が極めて重要である。話をしすぎなくてもダメだし、しすぎてもダメである。
 米国では政治任用者の多くが議会のスタッフなどを務めた経験をもっているが、それでも半分くらいはうまく仕事ができない。議会と行政府では政治のゲームのルールが異なる。議会では時間をかけられるが、行政府では時間をかけられない。議会は外国政府と厳しい交渉を行わなくても済む。
 政治任用者として仕事ができたのは、それまでの経験のお陰であった。自分の場合は、上司が色々教えてくれた。IDAや国防省での勤務で仕事のやり方を覚えた。そして、CFRでは朝鮮半島プロジェクトを3年間にわたって担当したが、これによってコンセンサスの作り方を学んだ。仕事をこなす上では人間性も重要な要素である。一部には妥協をしようとしない人もいる。こういう人達とうまくやっていく1つの方法は、相手に「自分が勝った」と思わせることである。また、名を捨てて実を取ることも重要である。
 政治任用者の長所は、①いずれ辞めるのでリスクをとることができる、②メディアやシンクタンクとのネットワークがあり、外部からどのように見られるかについての感覚がある、③研究経験があり、戦略的思考ができる、などである。
 最後に、日本でNSCを作るのであれば、次のようにするのが良いと思う。

・NSCは官邸に置き、当初は20名、最終的には40名程度の組織にする。政治任用者と出向者の比率は1:1。重点政策分野の部署を設け、それぞれ2~3名ずつの人員を配置する。具体的には、①エネルギー、②通商、③開発、④アジア、⑤北米などとする。

・NSCの任務としては、①毎日、安全保障担当補佐官が総理にブリーフィングを行う、②「国家安全保障戦略(National Security Strategy: NSS)」文書を作成する。NSSの作成は法律で義務化するべきであり、これがあると各種省庁をとりまとめることができる、③NSCを核として、局長レベル、課長レベルで政策ディベートを行う、などとする。

・NSCの有効な運営に不可欠な要素としては、①関連省庁の公電や報告にすべてアクセスできる情報インフラである。ちなみに、ホワイトハウスにはCIAや国務省の公電や報告にすべてアクセスできる情報インフラがある。もう1つの要素は、②総理をはじめとする政治側が、出向者のキャリアを守ってやることである。また、総理の在任期間が長ければ、出向者も自然と総理に忠実になるものである。


道下徳成 政策研究大学院大学准教授・PAC道場第1期生