キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2011年10月20日(木)
[ 2011年DC道場 ]
今日の午後は、政治任用者として勤務した経験のある方にお話を伺った。インタビューの概要は以下の通りである。
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国務省には4タイプの職員がいる。①キャリア外交官(FSO)、②一般行政官(civil service)、③契約職員、④政治任用者である。自分が就いたポジションはヒエラルキーの中に位置づけられていない、高官のための「シンクタンク」という位置づけであった。
外交政策に関していえば、政治任用者には、①政府・業界出身者(30%)、②学者(5%)、③政治的に任命された者(65%)の3種類がある。学者出身で成功した政治任用者もおり、彼らは専門性に加えて、政治的スキルと対人関係のスキルをもっていた。
政治任用者とキャリア官僚の関係は常に困難であり、互いに不信感を持っている。政治任用者のなかにはこういう問題に気づくのが遅れる人も多く、気づいたときには手遅れとなる。こうした問題を避けるために、言葉遣い、言葉のトーン、対応ぶり、会議を招集する方法、ブリーフィングのやり方にまで気をつけた。ただ、こうした態度を取りすぎると官僚になめられる場合もあるので気をつける必要がある。
政府で働くことになった経緯については、自分自身が直接、担当者に「政府で働きたい」と頼んだ。政治任用者として就任するためには、①政治クリアランス、②セキュリティ・クリアランスという2つのプロセスを経なければならない。
①については、省庁の人事部にはどこにでもある「White House Liaison Office (WHLO)」に話が行く。(ちなみに、WHLOは大統領選で新しい大統領が決まり次第、大統領府から人員が送られてきて、必要な人事を行い始める。ここで働いているのは、大統領・副大統領・長官の知人および政党関係者、政党への献金ドナー、党員、大統領選挙の支援者などである。)そして、WHLOは、候補者の政治信条、大統領選で寄付をしたかどうか、政治活動を積極的に行ってきたかどうか、どのような発言を行ってきたかなどをチェックする。
次に、FBIが行うセキュリティ・クリアランスであるが、これは候補者の小学校からの交友関係、資産状況を含め、とにかくあらゆることを隅々まで調べる。このため、セキュリティ・クリアランスには1件につき5万ドル程度の費用がかかるといわれており、政府にとっても負担となる。これは候補者にとっては大きいハードルであり、必要な書類を作るのだけで1カ月かかり、書類の記載事項は小さい誤りであっても一々指摘された。なお、通常は、とりあえず低いレベルのアクセス権を与えて仕事を始めさせ、徐々にクリアランスレベルを上げていくという方法をとり、作業は3~4カ月で終わる。
自分の仕事は政策に影響を与えることができたと思う。また、政治任用者としての業務から色々学ぶところがあった。以前、シンクタンクで働いていたが、今では、シンクタンクで言っていたことがいかに非現実的であったかが分かる。
研究と実務のどちらがよいかについては、政府での仕事は私にとって「価値のあること」であり、「国のために働ける(serve)ことは自分にとって特権である」。キャリア外交官たちもこう思っている。(了)
道下徳成 政策研究大学院大学准教授・PAC道場第1期生