キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2011年10月19日(水)
[ 2011年DC道場 ]
衆議院議員会館に勤務する秘書の毎朝の仕事として、衆議院公報を受け取るというのがある。この公法は、参議院にもあるが、委員会等の開催日程やその他の行事、各種連絡事項等が記載されており、代議士のスケジュール策定等に活用されたりしている。国会開会中は、月曜~金曜まで毎日発行される。今では委員会日程などはサイト上でもチェックできるようになったが、スケジューリングを担当する秘書は毎朝公報を確認している(と思う)。ワシントンDCのキャピタルヒルでも、公報に似たようなものがある。所謂政治業界紙と言われるもので、代表的なものが4紙(誌)。私が所属している下院議員事務所でも、4紙(誌)とも購読しており、スタッフは毎朝目を通す。"The Hill"という、その名もずばりのもの、「Roll Call」という、投票の際の点呼を名前にしたもの、それから"CQ Today"はCongressional Quarterly、つまり議会季刊という名前だが日刊のもの、そして"Politico"、つまり「政治的な動きをする人」という意味のものの4通りである。どれも立法過程の進捗や、それにまつわる政治的な駆け引きといった議会の動きを報じている。私は、CQの巻末にある委員会開催情報を重宝している。上院・下院で行われるもの、また関連した会議で外部にて開催されているものについて、数日先までを網羅しているので非常に便利だ。事務所のチーフも「これらは我々スタッフにとって、バイブルのようなもの(常に傍らに置き、日々開くということであろう)。」と教えてくれた。
その他にワシントンDCの政界関係者に多く読まれるのは、ワシントン・ポストだそうだ。創刊は1877年と古く、「ワシントンの脈拍に最も肉薄している」と連邦議会事情に通じた日本人の方から教えて頂いた。そのワシントン・ポストだが、宿舎にしている建物の1階と2階に、住人が無料で持っていけるように積んである。毎朝一部頂いてから事務所に向かうのだが、何しろすらすらとは読めないので、ざっと見出しを眺めて興味のある記事だけを読むようにしている。本日は小さな記事であったが、「インテリジェンス関連予算の大幅カット」というのが載っていた。インテリジェンス関連組織全体で年間800億ドルからある予算を、今後10年で二桁削減するという話があるらしい。政府は下請けの整理等によるコスト削減も行うそうだ。 DIA(国防総省の情報機関)長官であるJames R. Clapper Jr.は、サンアントニオで行われたU.S. Geospatial Intelligence Foundation(合衆国地理情報基金)のシンポジウムにおいて、OMB(Office of Management and Budget;行政予算管理局)が示した予算削減の考えについて、「削減は即ち、情報機関職員の行動を締め付けることを意味する」、「コスト節減のうちの半分は、16のインテリジェンス機関で使用しているコンピューターシステムの重複を無くすことで実現してほしい」と述べた。彼の考えでは、米国のインテリジェンス機関は、自分たちがあるべき姿に比して、まだまだ練度が足りず、政府による予算削減は大規模になって厳しい状況を迎えようとも、人材の確保に努めたい、とのことである。
確かに米国の情報機関の質については、近年疑問視されることが多い。曰く、「カーター政権の人権外交以来、予算カットとリストラが進んで士気が低下し、よき伝統を失った」とか、「技術の進歩に頼りすぎてヒューミントを疎かにしたため、本当にコアな情報が取れなくなった」等である。確かに9.11のテロを防げず(諸説あるが)、イラクの大量破壊兵器に関する誤った情報提供(これも、政治的エクスキューズに利用されたようだ)をする等、ヘマが続いている。そうは言っても、国民の安全を守り、国家の生存を懸けて戦うために必要な情報活動について、これほどドラスティックに予算削減をするというのは大変なことであり、米国の財政の苦しさが垣間見えるようである。しかし、目と耳を塞がれた状態で、米国が国際政治の舞台でかつてのように立ち回れるようになるのだろうか。インテリジェンスにかける金をケチったつけが、いずれ回ってくることになるかもしれない。これは、独自の情報機関を育てずに、米国に情報を頼りっぱなしでやってきた日本にとっても、由々しき事態になる可能性があるのではないだろうか。勿論日本でも、士気も能力も優れたインテリジェンス・オフィサーがご活躍であることも存じ上げているが、先進諸外国比して人材も少なく待遇も良いとは言えない。日本の場合は、これからもっと予算措置を増やして強化の方向でいくべきだと思う。(了)
柄山直樹 PAC道場第2期生