外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年10月18日(火)

DC道場フェロー・レポート(上院編・10月17日)

[ 2011年DC道場 ]


 今日はウィルソンセンターで開催された研究会「Congress' Influence on Foreign Policy: For Better or Worse?」に参加してきた。以下、主要な論点のメモである。

【スヌヌ元議員】
・外交政策についての議員の立場を決定するのは以下のような要素である。
 ①議員のバックグラウンド(地域、人種、家庭環境、学校など)
 ②支持層(アラブ系米国人の多い地域であれば中東情勢)
 ③どの委員会にいるか(外交委員会。軍事委員会。誰が委員長であるかも重要)
 ④時事(イラク戦争、テロ)
・外交問題に本格的な関心をもつ議員は全体の5~10%(=新聞の見出しにならない問題にも取り組んでいる人)
・議員が外交に関心をもつのは、①国民の関心が高いとき(PATRIOT Act)、②何らかの結果を生み出す力を持つ議員がいる場合(ヴァンデンバーグ、ルーガー、ナン、ケリー、マッケイン)
・ロビーの影響は必ずしも大きくない。影響があるときでも議員によってインパクトに大きい差がある。ロビーといっても情報収集する程度のことも多い。
・議会にとって、改革や監督の仕事は大変な労力を要する。しかし、法案を書くのは比較的容易である。例えば、開発援助に付随する各種の規制を見直すと相当効果が上がるのだが、これを実行するのは容易ではない。
・スタッフとして良い仕事をするためには博士号よりも実務経験の方が役に立つ。例えば、ビジネス、海外、製造業、為替市場、雇用法、マーケティングなどについての勤務経験は有益である。
・軍事委員会には防衛産業があるが、外交委員会には利益集団はあまりない。軍事費は600~700億ドルという額だが、開発援助の額は50億ドルに過ぎない。但し、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)などは組織も大きく、統制もとれており、影響力がある。グラスルーツ、州レベル、連邦レベルと複合的な組織を持っており、役員会をDCで開催するなどしている。

【マッキーン元上院外交委員会スタッフ(ジョン・ケリー議員補佐官)】
・議会の最も重要な役割は政府の政策の監督(oversight)である。
・ケリー議員の外交政策スタッフは2名程度で、委員の時代には20%の時間を、委員長になってからは50%の時間を外交委員会の仕事に費やしていた。議会が休会の期間には、アフガニスタンやダルフールを訪れるなど、実地主義を貫いていた。
・外交委員会は他の委員会と異なり、委員長が強い主導権を取って引っ張っていくという運営方式をとっていない。また、外交政策には地元の利益が関係しにくいので、意味のある仕事をしていなければ委員が集まらないという特徴があった。
・委員会スタッフの時よりも、議員スタッフの時の方が多くのロビイストに会った。企業の利益追求や、規制に関するロビーが多かった。委員会スタッフの時はあまりロビイストに会う必要性がなかった。
・自分にとってはタフツ大学で学んだ経験はスタッフの仕事に役に立った。Patrick MoynihanもフレッチャースクールでMAとPh.D.を取得している。外交に関心をもっていた。

【リンゼイ米外交評議会研究主任】
・3つのポイント
①議会は大統領に対して不利な立場にある。冷戦が始まってから大統領が優位に立つようになった。世界における米国の役割が増大し、軍、国務省、情報機関も巨大化し、その業務も膨大なものとなった。また、三権分立といっても、司法は外交政策に関与しない。
②政治が議会の外交政策を決定づける。上院はマシだが、下院は党派性が強い。
③直接的なものより間接的な役割の方が重要。議会は行政組織を作る権限によって外交政策に影響を与え、また、世論に働きかけることを通じて大統領の政治的計算を操作し、間接的に外交政策を動かすことができる。しかし、直接、法律によって外交政策委に影響力を行使することは不可能である。
・ジョンソン大統領が議会にトンキン湾決議を採択することを働きかけた。これはジョンソンが議会にも戦争に対する支持を表明させておいた方が後でやりやすいと考えてそうしたのである。しかし、それにもかかわらず、のちに議会はベトナム戦争に反対するようになった。
・特定の問題に関心をもっている議員が少なければ少ないほどロビーの影響は大きくなる。

【シャドック『クリスチャン・モニター』紙記者(議会担当)】
・最近では外交政策に関与したがらない議員が増えた。何故なら、外交政策に口出しすると、あとで批判される原因になることがあるからである。ある議員スタッフは、「(選挙のある)2012年までは外交政策について尋ねないでくれ」とさえ語った。また、外交政策を取り扱っている時間もないという議員が多い
・議員スタッフは、議員の名前が迅速にグーグルで取り上げられるように、議員の意見も聞かずに議員名で情報を垂れ流している。
・昔の議員は、年1度の帰省手当てのみでカネがなかったため、地元に帰るのは年1度のみというケースが多かった。このため、腰を落ち着けて政策問題に取り組むことができた。
・外交と政治の関係について、「『政治』は水際でストップする」というVandenberg議員の有名な言葉がある。昔は、こうして外交問題については「政治」を離れて与野が協力していたのだ。
・フルブライトはベトナム戦争が失敗することを悟り、これに反対を表明しつつ、国民に対する啓蒙活動を行った。
・これまでで、外交に最も重要な影響を与えた議会からのイニシアチブとしては、Nunn議員とLugar議員の「Cooperative Threat Reduction (CTR)」がある。これによって旧ソ連諸国の大量破壊兵器が多数解体された。しかし、のちにCTRに関連してLugar議員は批判されることになり、のちに選挙で不利になる原因となってしまった。こうした現象も、議員が外交に触れたがらなくなる背景である。
・ケリー議員は歳出委員会か外交委員会という選択肢の中から、外交委員会を選んだ。今ではあり得ない選択である。
・過日、中国通貨法案が上院で可決されたが、上院は下院が取り上げないことを知っていてこの法案を可決させたのである。昨年は、下院が似たような法案を共和党の支持で可決したが、本会議には持って行かなかった。ことほど左様に、皆がgamesmanshipをやっているため、議会が意欲を失っており、議員もやる気を失っている。やる気のある人は外交委員会をやめてしまう。
・選挙資金の内訳などが不透明であるため、ロビーの影響はよく分からない。また、ロビーは一枚岩ではない。対中政策では、中国に進出している企業にとっては元安はポジティブな結果をもたらす。
・昔、「K Street Project」というものがあり、「共和党のロビーを雇わないと共和党に影響力を与えられない」と言って企業を脅して回っていたことがあったが、共和党のロビイストと共和党の議員ではそもそも立場が似ているので、共和党のロビイストがどの程度、影響力を行使できたかどうかは不明である。
・最近、共和党議員のEric Cantorがネタニヤフに会って、「私は民主党員よりも親イスラエルです」などと発言した。こうした動きが今後どのような影響をもたらすのか興味深いところである。オバマはカイロ演説などでイスラエルに厳しいというイメージになっているので、2012年の選挙にも影響が出るかも知れない。

【ドンさん・司会者】
1995年に共和党が多数になったとき、800人ほどいたスタッフのかなりの人数を解雇した。これによって監督機能が弱体化し、後悔することになった。「議会のトップスタッフ」というリストが出回っているが、昔はトップクラスには委員会のスタッフが多かったのだが、最近では議員のスタッフや選挙スタッフが多数を占めている。優秀な人材が向かう方向性が変わってきた。

 以上、2時間にわたる密度の濃い議論は極めて有用であった。(了)


道下徳成 政策研究大学院大学准教授・PAC道場第1期生