キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2011年10月17日(月)
[ 2011年DC道場 ]
今日は、現在、ワシントンDCにあるシンクタンクに研究員として勤務している、大学院時代の友人に彼のキャリアについて話を聞くことができた。
ジャーナリストであった彼は、40代にさしかかる頃、人生の転機を迎えた。このままジャーナリストとして働くと、記者ではなくマネージメントの仕事をこなさざるを得なくなる。しかし、軍事・安全保障問題のプロとしてやっていきたいと考えた彼は一念発起して仕事を辞め、大学院で安全保障を学ぶことにした。そして2年後に修士号を取ったとき、偶然、議会選挙で共和党が勝利を収め、議会スタッフが入れ替わることになり、彼は下院軍事委員会(HASC=ハスク)のスタッフになった。
HASCの仕事は激務であったという。議員オフィスで働いているスタッフに比べ、委員会のスタッフは専門性が高く、仕事も忙しい。特に巨大な米軍の監督を行い、これに予算を付ける仕事を担うHASCの業務は多様かつ膨大である。また、上院の委員会は、あわよくば大統領になろうとしているようなベテランかつ発言力を持つ少数の議員が牛耳っているのだが、下院の委員会では議員の人数が多いため議員の発言権は分散され、相対的にスタッフの役割が重要になる。そして、HASCのスタッフは議員の代理人となるので、米軍へのアクセスレベルは極めて高く、移動に米軍機を利用できる上、厚遇を受けるのだという。当時のHASCスタッフは4人であったという。
しかし、HASCで5年間勤務した彼は、そろそろ転職を考えることになった。米国では、1つの組織に5年程度勤務すると、「そろそろ次に」と考えるようになるのはよくあることである。そこで彼は防衛関連の企業に転職した。しかし、彼には細かい規則に縛られる職場環境が窮屈に感じられ、仕事内容にも意外に興味を持てなかった。
その時、もう1つの転機が訪れた。現在のシンクタンクから移籍の誘いがあったのである。政策志向的な研究と学術研究を両立できる環境を与えてくれる現在の職場は、彼にとっては魅力的なものであった。今、彼は、政策提言や委託研究をこなしつつ、著書の執筆を進めている。
最後に、「もし政府の仕事に誘われたら」と尋ねたところ、「自分を信頼してくれる人がいて、その人が誘ってくれるのであれば、ノーとはいえないだろう」とのことであった。(了)
道下徳成 政策研究大学院大学准教授・PAC道場第1期生