キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2011年10月17日(月)
[ 2011年DC道場 ]
米国の下院の議員会館(永田町でいうところの、衆議院議員会館と衆議院別館を合わせたようなもの。各議員の事務所と委員会室等があり、全部で3つある。)と、上院の議員会館(同様)は、連邦議会議事堂を間に挟んで向かい合っている。向かい合っているといっても、それぞれかなり広大な面積を有しており、下院から上院に移動しようとすると相当の距離がある。地上の直線距離にして1㎞近く離れているのではないだろうかと思われるが、地下道を経由していくと曲り道も多くあるのでさらに長くなりそうであり、なかなか大変そうだ。ところが面白いことに、下院と議事堂、上院と議事堂をそれぞれ結ぶ地下鉄があるのだ。地下鉄と言っても、下院のそれはトロッコのような感じで運転手がおり、上院のそれは遊園地のゴンドラのようなボックスタイプで、自動運転である。この地下鉄に乗れるのは、それぞれの院からIDを付与された関係者(議員、スタッフ、職員等)のみである。
ミーティングのために、初めて上院の議員会館に行くことになった。下院からトロッコに乗って議事堂に着くと、警備の警察官に道を尋ねながら国会見学で賑わう議事堂の中を進み、「関係者以外立ち入り禁止」というエリアに入る。すると今度は、上院行きのゴンドラの駅に到着する。下院の乗降駅は1か所だが、上院は2ヵ所設けられている。上院の方が、予算が多いのではないかといった雰囲気を感じるが、果たして建物内に入ってみて驚いた。下院に比べると近代的な内装であり、上院議員の事務所入り口はガラス張りのドアでとても明るい。レセプションデスクもしっかりしたものが備え付けられており、企業や大手弁護士事務所の受付という趣がある。中に入ってみると、下院議員事務所よりもスペースがあり、大きな会議室には巨大なモニターや電話会議の設備が整っている。下院議員事務所には会議室などはないので、打ち合わせ用のスペースは自分たちのレイアウトによって何とか作り出しているという感じだ。
日本でも、参議院会館の方が衆議院会館よりも設備が良かったと思う。私が秘書の道に入った15年以上前は、衆議院議員会館の各事務所では、お湯も出ず、冬場に湯呑等を洗う時にはボイラー室に行っていた。その後改善され衆議院議員会館の部屋でもお湯が出るようになったり、ドアに暗証番号式のキー(これも参議院議員会館にはとっくに設置済み)が付いたりした。何故このようのことになっていたかというと、衆参ともに平等に予算が配布されるが、同額の予算で衆議院は2棟の議員会館を運営し、参議院は1棟だったので、設備にかけられる金額が違ってくるためだったらしい。米国でも上院議員は100人、下院議員は435人と、圧倒的に数が違う。両院それぞれ3つのビルを持っているが、議員一人当たりの割り当て面積は当然異なってくるわけだ。日本の場合、議員一人当たりの専有面積に衆参の差はない。
上院はSenateと呼ばれてローマの元老院を語源としているという。対して下院はHouse of Representativesという。Upper House(上院)、Lower House(下院)という呼称は、上院は条約批准権や連邦職員指名人事認証権など下院には無い権利を有することから、上下関係を意味して上院・下院と呼ばれているのかと思いがちだが、実は違うそうだ。18世紀末に連邦議会がフィラデルフィアで開催されていた頃に、建物の1階を使用したのが人数の多いHouse of Representative、2階を使用したのが人数の少ないSenateであったことから、上院・下院となったとは、米国議会に精通する方に教えて頂いた話である。
因みに、英国の議会には貴族院と下院(庶民院とも呼ばれる)があり、貴族院議員は文字通り爵位を有する貴族であり、対して下院議員は選挙で選ばれる。貴族院議員は基本的に貴族であれば自動的に義務として就任するが、貴族の義務なので歳費は払われず無休(交通費程度の経費は出るらしい)である。自動的な義務ということなので、人数もどんどん膨らんだのだが、私が英国の下院議員事務所にいた当時のブレア政権が貴族院改革を行い、人数を700名程度にまでスリム化した。下院の方は小選挙区で選出され、定数は650名であり、法案の可決に際しては下院が優先されている。
ところ変われば議会の成り立ちや様相もそれぞれに異なっており、比較してみるとなかなか興味深い。 (了)
柄山直樹 PAC道場第2期生