キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2011年10月14日(金)
[ 2011年DC道場 ]
日本では全くと言っていいほど見かけないが、アメリカにはパワーブレックファストいう、私のように朝は二度寝を楽しみたい人にとってはタフな会合がある。研修をさせてもらっている下院議員事務所でもそうなのだが、6時くらいになると大方のスタッフが帰宅してしまう。勿論、自分の抱える法案が正念場を迎えているときは、深夜まで激しく働いているのだが、概ね早帰りを奨励する傾向にあり、日本の定番である夜の「飲みュニケーション」によるビジネスミーティングは、あまり無いらしい。その代り、朝食や昼食を共にして、そこで情報交換や商談を行うのである。アルコールもなく、時間も1時間程度と制限があるので、無駄な話は排してひたすら目的の事案について語り合うのだ。
今日は、私にとって人生初のパワーブレックファストであった。目的は、政治任用の在り方について、過去において実際に政治任用職として政府機関で働いた経験を持つ人物にお話を伺うこと。お会いしたのは、M博士という軍事学の権威で、学者として著名な方でもあるが、政治任用で政策立案担当の国防副次官補(Deputy Assistant Secretary of Defense for Policy Planning)として活躍された方である。上院議員事務所でフェローをされているDC道場の道下さんの、SAIS留学時代のご学友ということで私もインタビューに同席をさせて頂いた次第である。道下さんは安全保障の研究者としてよく知られた方であり、英語で執筆された著書もあるというすごい方である。そんなにすごい方だが、大変フレンドリーであり、ワシントンDCの右も左も分からない私に日常生活のちょっとしたことから、DCの政策マーケットの様子などまで幅広く、毎日何かしらを親切に教えて頂いている。相方が道下さんで、私は大変ラッキーであったと思う。
さて、そのM博士であるが、見るからに切れ者という感じで、話す言葉にも全く無駄がない。さぞや論理的に役人を詰めまくって政治任用職の使命を全うされたのかと思いきや、「役所とうまくやるコツは、政策立案とかを役人が自分でやったと思えるように仕向けていくことだよ」と、実に人間臭い気遣いをなさっていたそうだ。勿論、軍事学の大家として、当該分野の政策に精通していること、国防省のスタッフと共通の言語で話ができるということも重要な要素であるが、それらを完璧に備え持ったM博士にしてなお、そういう細やかな気遣いをされるのである。人間同士の付き合いという根本を誠実に行うということが、不可欠であることを改めて認識した。しかし同時に、夜の「飲みュニケーション」による人間同士の付き合いだけで押し切ろうという、体育会出身の私のようなのは論外であることは、言うまでもない。
柄山直樹 PAC道場第2期生