キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2011年10月13日(木)
[ 2011年DC道場 ]
段々と金属探知機の前でベルトを外す動作がスムーズになり、意気揚々と出勤する今日この頃である。米国で普通に食事をしている限り、ベルトが無くても困ることはなさそうだが。
本日も幾つかの委員会を傍聴したが、中でも面白かったのは「US-ヘルシンキ委員会」である。この委員会に、本日は駐米モンゴル大使がお見えになる。何故、米国とフィンランドの委員会にモンゴルが?と思うのだが、背景を考えるとかなり興味深い。本日の趣旨は、"Mongolia Moves Toward Europe"と題して、駐米モンゴル大使が欧州安全保障協力機構への参加の意向を表明することである。因みに同機構の概要だが、ウィキペディアによれば、以下のような説明であった。
「欧州安全保障協力機構(OSCE、Organization for Security and Co-operation in Europe)は、ヨーロッパの国境不可侵と安全保障・経済協力などを約束したヘルシンキ宣言を採択して全欧安全保障協力会議として1972年に発足し冷戦終結後、紛争防止とその解決へ向けた新機構として、1995年に現在の名称に変更した国際機関である。」
モンゴルは現在、同機構の協力国というポジションを取っているが、協力国からさらに歩を進めて加盟国になることを検討している(アジア諸国のうち、協力国になっているのは、アフガニスタン、モンゴル、韓国、タイ、日本の5か国)。大使の声明は概ね、「モンゴルは民主主義と市場経済を目指しており、選挙の自由や報道の自由を促進する。地理的にはロシア・中国という大国と国境を接しているが、ロシアの隣国であることはヨーロッパとの繋がりという意味で、非常に重要である。広大なユーラシア大陸において、外交という点からのみでなく、国際社会が直面するテロリズムとの戦いについても貢献していきたい。」
歴史的にモンゴルは中国とはせめぎあいを続けてきており、中国嫌いであると聞いたことがある。近年でも「汎モンゴル運動」と名乗る団体によって、国内の中国資本のスーパーやホテルが襲われる事件があったという。アジアでプレゼンスを高める中国に対し、モンゴルはヨーロッパ側につきたいという声明をアメリカの議会内で発表する辺り、モンゴル外交の苦労と工夫が伺える。私も「常に大国とせめぎ合う大陸国家ならではの戦略・戦術は、非常に興味深い」などと呑気に構えている場合ではなく、日本にとって対岸の火事では済まない問題かもしれないと気を引き締めたい。中国という存在とどう向き合っていくのかは、今後更なる重みをもって我が国にものしかかってくる問題だろう。同委員会でも、ある有識者からは「モンゴルの同機構への参加は喜ばしいが、中国の領土的野心には注意すべきだ」という指摘があった。中国と付き合うことのメリット・デメリットを精査して、日本の国益に適った付き合い方を真剣に考えなくてはいけない。そういえばワシントンDCの地下鉄の切符の図柄でパンダ柄のものがあったので思い出したが、日本がパンダのレンタル料金に気前よく年間8000万も円払っているのは、どんな戦略に基づいているのだろうか?(了)
柄山直樹 PAC道場第2期生