キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2011年10月12日(水)
[ 2011年DC道場 ]
今日は上院議員が本会議場で発言した(floor statement)。内容は「中国通貨法案」および「米国雇用法案」に反対する理由ついてであり、自身が属する民主党会派の方針と異なる方針をとることもあって、事前に立場を説明するのが適切と考えたということであった。上院では、特にセッションが開かれていないときには自由に発言することができ、今回は、1730時に予定されているこれらの法案への投票を前にして発言を行った。(ただし、雇用法案は、議会における討論終結(cloture)=審議入りを承認するための投票であった。)
まず、「通貨為替監督改革法案」=「中国通貨法案(制裁法案)」については、中国元が安いことによって米国が安価に原材料や製品を購入できていること、中国元を切り上げてもすぐに貿易収支が変化するとは限らないことなどを挙げて、法案への反対を表明した。次に「米国雇用法案」については、雇用が生まれるのは民間の経済活動からであって、政府の財政出動によって生まれるのは真の雇用ではないこと、ただでさえ財政赤字が危機的状況になっているのに、それを解決しないまま、これ以上の大規模な支出を行うのは危険であることなどを指摘した。いずれもリーズナブルな意見であり、80年代の日米貿易摩擦の際にこのような見解を表明していた議員がどのくらいいたか、比較してみると面白いであろうと感じた。結局、中国通貨法案は可決され、米国雇用法案は審議入りが否決された。
今回の反対投票を決定するに当たっては、特に中国通貨法案についてはオフィス内でかなりのディベートがあったとのことである。スタッフの中でも同法案に対する考え方には違いがあり、政治的には同法案に賛成するのが「人気のある」政策であり、経済の視点から見ると法案には問題があるという見方であったという。このため、スタッフのレベルでは両論併記しつつも反対投票することを勧めるメモを作成した上で議員に渡し、最終的な決定は議員が行ったという。(了)
道下徳成 政策研究大学院大学准教授・PAC道場第1期生