外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年10月12日(水)

DC道場フェロー・レポート(上院編・10月11日①)

[ 2011年DC道場 ]


Congressional Research Service (CRS) 訪問

 今日は議会に附属している調査研究機関であるCRSを訪問し、Ms. Emma Chanlett-AveryとDr. Mark Manyinの二人に話を聞いた。内容は以下の通り。

【CRSについて】
・CRSの人員は約700名で、うち外交・防衛・貿易部は90名程度。90名のうち、研究院は70名、司書が15名、事務5名程度とのこと。CRSの予算は1億ドル程度で、その大部分は職員の給料であるという。
・CRSの分析官は、大学院修了者、ジャーナリスト、研究者、シンクタンク、米国政府から採用する場合が多い。
・CRSは非常に魅力的な職場である。その理由は、①1つの専門分野について腰を据えて、何年も研究できる、②客観的・中立的な立場に立つことができる、③仕事の成果に自分の名前が残る。
・分析官は、他省庁に短期出向したり、海外勤務したりする場合もあるが、多くはない。
・仕事内容は、主に、①議会からの問い合わせへの対応、②報告書の作成、であるが、それぞれの具体的内容は以下の通りである。
①議会からの問い合わせ
・年によるが、多いときで年間100万件の問い合わせを受ける。多くは単純なデータについての問い合わせだが、詳細な分析についての情報も求められる。例えば、最近では中国に関する海洋係争問題についての問い合わせがあった。
・議会とのスタッフとのやり取りが中心、特に委員会のスタッフとの接触は多い。単純なデータなどについての問い合わせは若い議員スタッフから沢山受け付けるが、より本格的な問い合わせは委員会の専門スタッフから来ることが多い。また、北朝鮮が核実験を行ったときには、議員の依頼で、どのような制裁が可能かについて、米国政府、国連、各国政府、専門家などから広く聞き取りを行って報告書を作成した。
・また、議会から、特定の政策分野についての行政府のパフォーマンスを評価するように求められることもある。従って、行政府の人間とは頻繁にやり取りするものの、一定の緊張関係がある。
②報告書の作成
・報告書のテーマは自ら決めることが多い。場合によっては、議会が関心をもっていなくても、先手を打って、将来、問題になる可能性があるテーマについて作成することもある。
・報告書の草稿ができると、同様の専門を持つ同僚にチェックをしてもらい、また、議員やスタッフが読んでも分かりやすい内容になっているか、政策についてのものであれば両論併記してあるか、などをチェックする。

【CRS以外について】
・議会のスタッフには、議会のインターンなどからたたき上げでなっている人物が多い。これは、政策決定を理解するためには、議会の内部事情や動き方を理解している必要があるためである。
・議会の委員会のスタッフは、多数党が変わるとかなり入れ替わる。その場合、職を失ったスタッフたちはロビイストなどになることが多い。
・毎朝、Congressional Quarterlyに目を通している。これを読むと議会の動きがよく分かる。巻末には行事のカレンダーもついている。
・米国でも「horse trading」と呼ばれる根回しは一般的であり、色々な取引が行われる。これは民主政治では普通のことである。
・CRSと似たような組織として、政府説明責任局(GAO)と議会予算局(CBO)がある。GAOは本格的な政策評価を行うのが中心で、1件に付き1年以上かかるようなプロジェクトが多い。CBOは議会の各委員会に依頼されて業務を行う場合が多く、ある政策を実現するためにどの程度の予算がかかるかを算定したり、将来の税収や経済状況の予測を行ったりする。このため、職員は予算の専門家や経済学者が中心である。(了)


道下徳成 政策研究大学院大学准教授・PAC道場第1期生