外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年10月6日(木)

DC道場フェロー・レポート(上院編・10月5日②)

[ 2011年DC道場 ]


 現在、議会提出の準備が進んでいる法案の中に、「テロ組織に加盟した者や協力したと疑われる者から、国務省による調査を経て、国務省が米国籍を剥奪することができるようにする」というものがある。これは、すでに存在する、「米国と交戦状態にある他国の軍隊に勤務した者からは米国籍を剥奪する」という法律に、非国家主体のテロ組織への参加者を含めようとするものである。この法案が成立すれば、国務省の判断でテロ組織に加盟した米国民から国籍を剥奪したうえで、軍事裁判所で裁くことができるようになるという。こうなると、通常の米国民に対するより、はるかに強力な対応が可能になり、いわゆる「enhanced interrogation technique」が使えるようになるのである。なお、万が一、軍事裁判所で無罪判決が出た場合でも自動的に国籍が回復されるわけではなく、無罪となった容疑者は改めて裁判を通じて国籍を回復しなければならない。
 この法案にはメディアなどから強い批判の声が上がっており、①行政組織である国務省がそのような判断を下すのは無理がある、②「疑いがある」だけで国籍を剥奪されるのは行き過ぎ、③政策の効果が不明、などである。
 本法案はすでに昨年、ニューヨークにおけるテロ未遂事件を受けて提出されていたものであるが、その時は成立しなかった。今回は改めて成立を目指している訳であるが、準備を進める担当者たちは協議を行い、法案を成立させるために必要な妥協点を探っている。
 なお、昨年提出されたとき、法案は「Terrorist Expatriation Act」、別名「TEA Act」と呼ばれ、「Tea Party」を連想させるものであったため、今回は違う名称を用いることによって、「Tea Party」とは関係ないものであることを明確にする必要があるとのことである。(了)


道下徳成 政策研究大学院大学准教授・PAC道場第1期生