キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2011年9月27日(火)
[ 日米関係 ]
野田総理は、今週、国連総会出席のためにNYに滞在しています。オバマ大統領との初の会談が9月21日に行われました。21日はオバマ大統領が国連総会で演説した日であることもあり、こちらでの報道の焦点は、オバマ大統領が国連総会演説の中で述べたイスラエル・パレスチナ関係についての発言です。オバマ大統領の会談の相手として一番の注目を集めているのはリビア暫定政府の代表、次がカルザイ・アフガニスタン大統領でしょうか。もういつものことなので慣れっこですが、日米首脳会談は全く話題にされていません。
日本の報道を見ていると、今回の日米首脳会談を、日本側は「顔合わせ」と位置づけているようです。9月16日にホワイトハウスで国連総会でのオバマ大統領の日程について事前ブリーフをしたベン・ローズNSC次席補佐官も、日米首脳会談についてたずねられ「日本ではこの数年、首脳の交代が頻繁にあった。今回は野田総理とは初めての会談なので、同盟に関する基本的な問題、日本を含むアジアの経済、APECなどについて議論することになると思う」という答え方をしています。
いつも思うのですが、日本の総理はどうして最初の首脳会談をもっと有効に活用しないのでしょう。アメリカに住んで18年経ちますが、アメリカ人との付き合いで大事なのは「最初の印象」であると感じる場面が多くあります。つまり、最初に会ったときにどんな話ができるか、どんな関係を築けるかに、その後の関係構築がかかっている部分がかなり多いということです。つまり、アメリカ人を相手にする場合、最初に面と向かって話をする機会は「自分は信頼に足る人物であること、真剣な話ができる相手であることを売り込む最初で最後のチャンス」といっても過言ではないわけです。
それほど重要な最初の会合となる最初の日米首脳会談を、日本側はいつも「初顔合わせだから」と称して当たり障りのない話で終えようとしてしまいます。首脳会談とは、アメリカの大統領に日本の総理が、自らの日本という国や日米関係に対する思い、自らの政治信条などについて伝えられる絶好の機会だというのに、です。勿体無いことをしているなぁ、と思います。もちろん、2006年以降、毎年総理が代わっている今の状況ては、個人的な関係の構築など望むべくもないのですが・・・
私の記憶にある限り、その常識を覆したのはレーガン大統領に自らの同盟観を初対面で話した中曽根総理、クリントン大統領と深夜にアイリッシュ・ウイスキーを飲み交わした橋本総理、ブッシュ大統領とキャッチボールで意気投合した小泉総理ぐらいです。いずれの総理も、その後、強固な個人的関係を基盤に日米関係の舵取りをしました。いずれの総理にも共通しているのは、官僚に煙たがれれつつも、官僚組織をそれなりに使いこなして国を運営していたということです。
初対面で自分の言葉で話している相手に物を伝える、これが意外とできておらず、それが日米の首脳同士の関係が他人行儀な関係に終始している理由の一つなのではないかなぁ、と日米首脳会談5時間後に「Japan」をワシントン・ポスト紙で検索しても出てくるのは台風被害に関する記事ばかりで、日米首脳会談に関する記事が出てこないコンピューターの画面を見ながら感じました。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員