外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2011年6月27日(月)

日米2プラス2共同発表:「共通の戦略目標」にみる「4つのトライアングル」

[ 日米関係 ]


 6月12日に発表された日米安全保障協議委員会(2プラス2)共同発表は、民主党政権が成立して初めての日米安全保障体制に関する本格的な共同文書となった。東日本大震災では、海外から実に160カ国以上が日本に対する支援を行ったが、「人員2万名以上、艦船約20隻、航空機約160機を投入(最大時)」(外務省)した米国のプレゼンスは抜きんでていた。
 震災に対する日米協力は、二国間の特別な絆を示しただけでなく、人道支援・災害救助に関する共同対処の成功及び運用調整(於:市ヶ谷・横田・仙台)の経験も、将来の事態への共同対処のためのよいモデルともなった。日本国内の政治状況の混迷や、ゲーツ国防長官の退任間近というタイミングにも関わらず、震災から3カ月間の共同行動の成果を文書として示せたことをまず評価したい。
 今回の2プラス2では、2005年に合意され、2007年に更新された「共通の戦略目標」を再確認し、更新した。合計24項目掲げられた「共通の戦略目標」の中でも、筆者は地域安全保障のパートナーシップを謳った以下の項目に注目している。


・豪州及び韓国の双方のそれぞれとの間で、三か国間の安全保障及び防衛協力を強化する。
・日本、米国及び東南アジア諸国(ASEAN)間の安全保障協力を強化し、民主的価値及び統合された市場経済を促進するとのASEANの努力を支援する。
・強く揺ぎないアジア太平洋のパートナーとしてインドを歓迎し、インドの更なる地域への関与及び地域的枠組みへの参加を促す。日米印三か国間の対話を促進する。


 ここで提示されたオーストラリア、韓国、ASEAN、インドは、(韓国を除き)これまでの共同発表でも協力の強化が謳われてきた。しかし、それぞれの協力内容やその濃淡は異なれど、日米+αの安全保障協力枠組みとして「日米豪」「日米韓」「日米ASEAN」「日米印」という「4つのトライアングル」が明確に志向されていることは注目に値する。
 多くの国内紙の論調が指摘するように、こうしたトライアングル形成が中国の軍事的台頭や2009~10年にかけての南シナ海、東シナ海をめぐる緊張関係を反映した「バランシング」行動であることは事実である。しかし同時に指摘したいのは、米国の東アジア地域へのプレゼンスを支える質的変化として、同盟国・友好国の役割分担の構図に「ハブ・スポーク」関係のみならず「スポークス間協力」という軸が生まれつつあることである。
 このうちオーストラリアについては、「日豪」で「安全保障協力に関する日豪共同宣言」(2007年3月)を締結、「韓豪」で「韓豪安全保障共同宣言」を締結し、地域及びグローバルな領域における安全保障協力の推進に合意した。「日米韓」は90年代後半以来、安全保障政策の調整を協調を続けているが「日韓」の軸にも徐々に物品役務相互提供協定(ACSA)や軍事情報包括保護協定(GSOMIA)といった分野で安全保障協力の可能性が高まっている。
 インドについても、2007 年 9 月に米印両国が主催する多国間海軍共同訓練「マラバール」に海上自衛隊が参加するなど、「日印」及び「日米印」 3カ国の安全保障協力が形成されるに至っている。「韓印」でも2010年1月に両国関係を「戦略的パートナー」に格上げし、安全保障分野の協力深化を謳っている。
 こうしたなかで注目されるのが、東南アジアである。ゲーツ国防長官は6月の「シャングリラ・ダイアローグ」でアジア太平洋地域において「地理的に分散し、作戦面で強靱で、政治的に持続可能な防衛態勢」を掲げ、そのために東南アジアからインド洋にかけてのプレゼンスを強化することを提唱した。同会議ではシンガポールに米国の「沿岸域戦闘艦」(LCS)を配備することが注目されたが、6月24日の米比外相会談では米比相互防衛条約を南シナ海に適用し、比軍の装備の増強、更新を行うことに合意している。またベトナムとの間でも6月17日「米越政治・安全保障・防衛対話」の開催し、7月後半にはベトナム沿岸での米越合同訓練の実施を行う予定である。南シナ海をとりまくASEAN諸国と米国との安全保障協力は、ここへきて急速に進展を深めている。
 ゲーツ国防長官が以前の『フォーリン・アフェアーズ』に寄せた論文で米国の「パートナーの能力を高める」ことが重要と指摘しているとおり、現代のアジアの安全保障環境と米国の財政的制約のなかでは、同盟国・友好国が防衛により大きな責任を持てるように、能力向上(キャパシティ・ビルディング)を図る必要が強調されている。 その背景にあるのは、中国の軍事的台頭のスピードと、東南アジア諸国の能力との間に存在する大きなギャップである。米国は単に東南アジア諸国へ単に防衛コミットメントを強化するだけでなく、同盟・友好国自身の自律的な安全保障能力を強化することも重視している。そこに更に日本、韓国、オーストラリア、インドを含めた軍事的・経済的アセットが、包括的に動員できるようになれば東南アジアにおける「バランシング」はより有効に機能するかもしれない。
 日米2+2の「共通の戦略目標」における「4つのトライアングル」は、米国と同盟国・友好国のパートナーシップの新しい発展の可能性を示唆している。重要なことは、日本の「スポークス間」協力の進展こそが「4つのトライアングル」を日本の安全保障政策のアセットとして活かせるかどうかの成否を分けていることである。日本がオーストラリア、韓国、ASEAN、インドとの戦略協力を深める意義は、このようなアーキテクチャの下に位置付けられるのである。


神保 謙  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員