キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2011年4月20日(水)
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3月11日に発生した東日本大震災では膨大な数の方が犠牲になった。震災発生から1ヶ月が経過した現在も16万人以上の方が避難生活を送られている。犠牲になった方とそのご家族には、心からのお悔やみを申し上げることしかできない。そして今も避難所で厳しい生活を余儀なくされている被災者の方々が一日も早く、安定した生活を取り戻すことができるよう祈るばかりだ。
ここアメリカでは東日本大震災は、震災発生後から2週間あまり、CNN他主要なニュース番組で最重要ニュースの扱いを受け、地震関連のニュースが一日中流れていた。これまで一度も日本に行った事がないであろうCNNその他米主要メディアの人気キャスターが日本から中継しているのを見て、なんともいえない気持ちになったものだ。特に、3月14日以降は、福島第一原発の事故が深刻度を増すにつれ、原発事故関連のニュースに関心が集中していった。リビアへの空爆が始まってからは、日本の状況に関する報道はかなり下火になったが、それでも福島第一原発の事故をめぐる新たな動きがあったりすると、すぐに報道されている。東京都で水道水の安全性が問題になったときや、8日に東北地方を大きな余震が襲ったときも、すぐに報道されていた。
ここ一ヶ月の日本の動きを海外から見ていて、気になることは色々あるのだが、今後の課題としてすぐにでも検討すべきではないかと思うのが「報道官」制度の導入である。特に、官房長官が報道官も兼任しているかのような今の状況は、一刻も早く是正するべきではないだろうか。
実は官房長官に求められる仕事は多すぎるのではないか、と常々感じていた。アメリカの制度的に言えば、官房長官は「副大統領+大統領首席補佐官+国家安全保障問題担当大統領補佐官+ホワイトハウス報道官」といってもいいほどの仕事量を普段から一人でこなしている。また、官房長官としてよい仕事をするためには①総理の信頼が厚く、②与野党の主な政治家と、少なくとも話はできる関係にあり、③各役所の利害関係を調整することができ、④メディアともそつなくつきあえる、といった各条件が必要だ。これらの条件をすべて備えている人はそうそういないだろう。「24時間戦えますか」というキャッチフレーズのコマーシャルが昔、流行ったことがあるが、実際はどんなに優秀な人間でも24時間は戦えない。これだけの職務を一人の人間に抱え込ませることは、正常な判断能力の維持を難しくする。しかも、官房長官の最も重要な仕事は「総理の右腕として各政策問題における省庁間の利害を調整し、総理が決断をしやすい環境を作ること」だが、官房長官がメディアの対応まで一手に引き受けている今の状況では、今回の大震災のような「有事」の際に、官房長官がともすれば記者会見に忙殺され、その一番肝心の機能が果せなくなってしまう。
官邸の立場を代弁する「報道官」が記者会見はじめメディアとのやりとりは一義的に行う制度を作っておけば、今回のように官房長官が平均4時間に一回、記者会見にひっぱりだされ、その結果肝心の意思決定における役割を果たせなくなる事態は回避できる。また、「政策広報」に専念するポストの位置づけを明確にすることで、政府としての情報発信もより効果的になることも期待できる。幸い、既に内閣官房には「内閣広報官」というポストがある。今回の震災における政府の情報発信を教訓に、「報道官」制度の確立を考えてみてもよいのではないか。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員