外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年2月16日(水)

外交・安保カレンダー(2月14日-20日)

[ 2011年外交・安保カレンダー ]


今週予想される動きと留意点を取り纏めました。これらは「事前予想」ではなく、あくまで研究者としての「心構え」です。


2月13-14日 マレン米統合参謀本部議長、イスラエル・ヨルダン訪問
 米軍トップがネタニヤフ首相、アブドラ国王らと「ムバラク退陣」後につき意見交換している。というわけで、今週もエジプトについて書かざるを得ない。確かに、2月11日の独裁者一派追放は慶賀すべきことだろう。
 しかし、先週エジプトで起きたことは、本質的に「民衆による民主革命」には至らず、民衆騒乱を引き金に軍主流がムバラク一派を追放した「宮廷クーデター」に止まると思っている。
 二週間前に指摘した①内政の主役である「軍エリート」と腐敗した「ムバラク家」との対立、②軍部と警察・治安組織との確執、③「軍エリート」と「イフワーン・アル・ムスリミーン(ムスリム同胞団)」との対立、④軍内の(世俗的)上層部と(宗教的?)中堅将校との温度差、というエジプト内政分析の基本軸は今も変わらない。
 簡単に言えば、①については既にムバラク家は放逐された、②警察・治安組織は今や軍に協力しつつある、③ムスリム同胞団などイスラム主義者たちと軍との本格的対決はこれから始まる、④軍内部の状況は今もよく分からない、ということだ。
 今週の注目点は、軍がどこまで政治的実権を放棄するつもりか、という一点に尽きるだろう。今も軍主流は1952年にナセルが作った軍主導の世俗主義的政体を、「1981年以降ムバラク一族が腐敗させてしまっただけ」と考えている可能性が高いからだ。
 1、仮にそうであれば、国家統治権を握った「軍最高評議会」は基本的に政治的実権を放棄しないのではないか。これに対しては全ての野党勢力から強烈な反発が予想されるので、エジプト国内の混乱は長期化するだろう。
 2、軍が「トルコ軍型」の「世俗主義の守護者」に脱皮すると決意すれば、エジプトの民主化がある程度進む一方で、イスラム主義者への弾圧が強まるだろう。これに対してはイスラム主義勢力からの強い反発が予想され、やはり混乱は続くと思われる。
 3、更に、軍がイスラム主義者の政権参加まで容認し、米国が望むような「民主主義の守護者」となろうとする、またはこれまで享受してきた政治的実権の完全な放棄を決断すれば、その時点でようやくエジプトで真の「民主革命」が成就するだろう。
 但し、そのような脆弱な「民主主義」はあまり長続きしないかもしれない。あまり考えたくないことだが、近い将来エジプトの「民主主義」が「イスラム主義」に取って代わられる可能性すらあるかもしれない。
 そうなれば、1990年代前半にアルジェリアで起きた「悲劇」が、エジプトでも繰り返されるだろう。最終的には軍による再クーデターすら予想される。勿論、それはエジプト民衆にとって決して利益とはならない。やはり今週もエジプトから目が離せない。

2月14日 民主党役員会
 民主党という「コップの中の嵐」になりつつあるので、あまり関心はない。世界は大きく動くかもしれないのに、日本ではいつまで「政治とカネ」の話をし続けるのだろうか。

2月14-17日 国際エネルギー関連システム技術会議 (カイロ) 
 開催されるかも含め詳細は全く不明だが、一応挙げておく。

2月14-15日 第3回ARF海上安全保障会期間会合(ISM)(東京) 
 ARFといえば、昨年7月ハノイでクリントン米国務長官が「南シナ海での航行の自由」を「米国の国益」と言明する有名な演説を行ったフォーラムだ。この会合で日本はインドネシアとNZとともに共同議長を務める。今回は今後優先的に取り組む課題が決まる予定だ。「航行の自由」など刺激的な話にはならないにしても、地道な議論が期待される。

2月14-18日 第5回環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉(チリ・サンティアゴ)
 24の作業部会で条文の草案作りが続いているが、交渉は難航しているようだ。米国は本年11月のTPP妥結を目指しているが、果たして日本は間に合うのか?

2月15、17日 WTO加盟国通商政策レビュー:日本(ジュネーブ) 
 いつものことだが、日本の農業保護が批判されている。TPPとも絡む話だが、今の国内政治状況で農業問題に関する議論は本当に進展するのだろうか?

2月15日 第16回CIS金属サミット(モスクワ、17日まで) 
2月15日 第2回CIS製薬フォーラム(モスクワ、17日まで)
2月16-17日 金星煥(キム・ソンファン)韓国外交通商部長官の訪日
 外務省賓客としての訪日である。日韓がこのように地道な協議を続けることは非常に意義深いことだ。
 
2月16-18日 2011世界太陽エネルギーエキスポ(韓国・京畿道)
 アジア最大規模の太陽光エネルギー関連展示会なのだそうだ。

2月17-19日 第8回経済フォーラム(ロシア・クラスノヤルスク) 
2月17-19日 第5回「AUTOINVEST 2011」(自動車関連、サンクトペテルブルク)
2月18-19日 G20財務相・中央銀行総裁会議(パリ) 
2月18日 日本アカデミー賞授賞式 
2月18日 ウガンダ大統領選挙・国会議員選挙 
2月18日 台北国際フランチャイズ見本市(21日まで)
2月20日 国際防衛見本市(アブダビ、24日まで) 
2月20日 ドイツ・ハンブルク州議会選挙
 ドイツでは、同州も含め、2-3月に4つの州で議会選挙が行われる。連立与党のCDUが地方政治で政権を維持できるかに関心がある。

【来週の予定】
2月21日 ナイジェリア石油ガス見本市(アブジャ)(24日まで) 
2月21-24日 第11回「Ecology of Big City 2011」(環境、サンクトペテルブルク) 
2月21-25日 イスラエル・ペレス大統領、スペイン訪問
2月22-24日 「Eilot 2011」(環境関係国際会議、イスラエル・エイラット) 
2月22日 WTO一般理事会(ジュネーブ) 
2月22-24日 第5回国際太陽エネルギー産業・太陽光発電展覧会(上海)
2月23日 09年衆院選をめぐる「1票の格差」訴訟で最高裁大法廷弁論 
2月23日-3月12日 ジャナドリヤ祭(サウジの伝統・文化祭典、リヤド)
2月25日 北京自動車用品・改造自動車展覧会「CIAACE 2011」(27日まで)
2月26日 国連東ティモール統合支援団(UNMIT)任期満了? 
2月26-28日 金属・鉄鋼加工展示会(カイロ)
2月27日 チリ地震から1年


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問