2011年2月7日(月)
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2011年外交・安保カレンダー
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今週予想される動きと留意点を取り纏めました。これらは「事前予想」ではなく、あくまで研究者としての「心構え」です。
今週もエジプト情勢から目が離せない。先週はリスクを取って踏み込んだコメントを試みたが、「エジプト騒乱」の基本構造は今週も変わっていないと見る。要するに:
①エジプト内政の影の主役である軍は、ムバラク大統領を見限り、政治的実権維持に向けて具体的シナリオを着々と実行に移しているのに対し、②野党勢力は全体として統一を欠いたまま、軍に対し有効な手をほとんど打てていない、③欧米諸国はこうした軍の動きを実質的に側面支援しながら、急激な変革ではなく、あくまで漸進的手法で、旧来の軍部独裁体制を徐々に変えていくしかないと達観しているようだ。
特に、2月2日、いわゆる「ムバラク大統領支持派」が反政府デモ隊に対し火炎瓶などで攻撃を開始した時点から、今回の政治劇の「流れ」は大きく変わったと思う。軍が物理的介入を控える中、(恐らく軍が黙認する形で、警察・公安主体の)親ムバラク勢力が絶妙のタイミングでデモ隊を分断する一方、小出しの譲歩を繰り返して反政府運動の「ガス」を徐々に抜いていく。どうやら政治的策略については、野党側よりも軍部の方が一枚も二枚も上手のようだ。
中途半端な状態が長引けば長引くほど、付和雷同分子たちの不安は高まる。彼らは決して筋金入りの活動家ではなく、それぞれ家族と仕事を持っているからだ。「革命ごっこ」に付き合えるのはせいぜい一週間、一回戦は軍部の「一本勝ち」だろう。
なお、内外マスコミの一部はエルバラダイIAEA前事務局長の動向を注目しているが、彼のチャンスはまずないのではないか。一般大衆にとって、エルバラダイは「外国人」か「外国語の上手い特権階級」でしかなく、エジプト人全体の代表にはなり得ないと思うからだ。
更に、オバマ大統領がムバラクに対し「正しい決断を求めた」ことも大いに気になる。誇り高きエジプト人の多くは米国が「エジプト人の面子を潰した」と感じるのではないか。プライドの高い人々ほど自尊心も脆い。米大統領はこのことに気付いていないようだ。
二回戦が始まる今週は治安情勢の悪化が気になる。穏健派のムスリム同胞団を中心とする野党側が軍部との話し合いを開始すれば、過激派・急進派が不満を募らせ、情勢が制御不能となる可能性も否定できないからだ。
更に気になるのは、軍内部の過激イスラム主義の動きだ。中堅以下の将校たちは事態をどのように見ているのだろうか。情報がないので全く分からない。万一、現在シナリオを書いているスライマン副大統領以下軍上層部に対する暗殺テロなどが起きれば、二回戦は大乱戦となる。いずれにせよ、今回の騒乱が長期戦となることだけは間違いないだろう。
2月7日 鉱業会議「マイニング・インダバ2011」(ケープタウン、10日まで)
2月7-9日 第2回中東・北アフリカ天然ガス供給サミット(カイロ)
今のエジプトの状況では延期になるのだろうか。
2月7日 石川知裕衆院議員ら小沢氏の元秘書3人の初公判
1月31日の小沢一郎代議士「強制起訴」後、民主党の対応振りが注目されている。現在日本には、直面する内外諸問題克服のため、国家・国民全体として「自己変革」の努力が求められている。「政治とカネ」の問題も日本が決別すべき1955年体制の残滓の一部だろう。
いわゆる「小沢問題」は基本的に民主党が解決すべき「コップの中の嵐」ではあるが、ある意味では、今回の疑惑はこうした日本の「自己変革」が如何に難しいかを象徴しているのかもしれない。
2月7日 日豪経済連携協定(EPA)交渉第12回会合(東京、10日まで)
今回は物品・サービス貿易、投資、政府調達、エネルギー・鉱物資源、ビジネス環境整備が議題となるらしいが、問題はやはり農業だろう。農産物に関する話し合いが進むことを期待したい。
2月7日 第2回「国連持続可能な開発のための教育(ESD)の10年円卓会議」
文部科学省中心の、地味だが真面目な会議である。
2月8日 ウズベキスタン大統領来日(10日まで)
これも地味だが、地政学的に考えても、日本にとっては重要な公式訪問だ。
2月8日 トルコのエルドアン首相のエジプト訪問延期
2月9日 党首討論
10ヶ月ぶりの党首討論だが、「政治とカネ」だけでなく、財政再建問題、消費税の取り扱い、社会保障のあり方など本来の政策議論が一層深まることを期待したい。まず無理だろうとは思うけれど・・・。
2月9-12日 菊田外務大臣政務官のパプアニューギニア及びソロモン訪問
2月10日 ベルリン国際映画祭(独)
2月10日 実習船えひめ丸と米原潜「グリーンビル」衝突から10年
2月10-16日 第15回国際トレードフェア「ACITF」(アジズアベバ)
2月11日 シカゴ自動車ショー
2月13日 グラミー賞授賞式(米)
2月13日 スイス国民投票(武器暴力からの保護に関する国民発議)
【来週の予定】
2月14日 世界携帯電話会議(スペイン・バルセロナ、17日まで)
2月14日 国際エネルギー関連システム技術会議 (カイロ、17日まで)
2月17-19日 第8回クラスノヤルスク経済フォーラム(ロシア・クラスノヤルスク)
2月18-19日 G20財務相・中央銀行総裁会議(パリ)
2月18日 日本アカデミー賞授賞式
2月18日 ウガンダ大統領選挙・国会議員選挙
2月20-24日 国際防衛見本市(アブダビ)
宮家 邦彦
キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問