外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年1月19日(水)

前原外務大臣のワシントン訪問

[ 米国 ]


 クリントン国務長官との会談などのために1月6~10日までアメリカを訪問中の前原誠司外務大臣が、6日にワシントンDCに到着直後、戦略国際問題研究 所(CSIS)で「アジア太平洋に新しい地平線を拓く(Opening a New Horizon in the Asia Pacific)」という題目の演説を行いました。国会議員に当選して以降、頻繁に定期的にワシントンDCを訪問している前原大臣の知名度は高く、講演開 催の案内が出されたのが多くの人が休暇に入っている年末(12月28日)だったにも拘らず、150名ほどの聴衆が集まりました。
 通常、日本の政治家がワシントンDCで講演をすると、日本の新聞には「ワシントン市内で講演」と大きく取り上げられますが、聴衆のほとんどは在ワシント ン日本人で、それに加えて、もはやワシントンでは極めて少数になった日米関係の専門家である場合が殆どです。ですが、6日の前原大臣の講演には、これらの 所謂「お馴染みの人たち」に加えて韓国やドイツ、トルコ、イギリスなどルーガー上院議員の補佐官や下院外交委員会スタッフ、各国の大使館のアジア・ウォッ チャーや、台湾や韓国などアジア系メディア、さらにはウォール・ストリート・ジャーナルやブルームバーグ・ニュース他米国メディア関係者も集まり、いつに なく多彩な聴衆となりました。これまでワシントンを頻繁に訪問し、役所や各シンクタンクの研究者と地道に意見交換を重ねてきた前原大臣の努力の成果ではな いかと思います。
 さて、演説そのものについては既に日本の新聞でも内容が報じられていますので省略しますが、事後のアジア政策専門家の間での評判は、日本が世界に積極的 に関与していく意思を明確にした演説であるとして、すこぶる良いようです。特に、鳩山政権期間中、「対等な日米関係」のキャッチフレーズが一人歩きをした 結果、「民主党政権=日米同盟軽視」のイメージがともすれば抱かれがちで、昨年6月に菅政権が発足したあとも、民主党政権下でも日本は日米関係を最重要視 していくのだ、というパンチのあるメッセージが今ひとつ欠けていたので、前原大臣による今回の演説はその意味でも効果的であったと思います。
 ただ、演説を聴いていて気になったこと。前原大臣は、演説事態は英文の原稿を読み上げ、質疑応答のみ同時通訳を介するというスタイルをとりました。通訳 にかかる時間を省くという意味で、これは悪くない選択なのですが、問題は演説の英文原稿です。おそらく、書き言葉が主体で作成された日本語の原文を英語に そのまま訳しているためなのでしょうが、口語には馴染まない、特に英語に慣れていない人には発音が難しい単語が多く登場し、大臣が言いよどんだり、言い直 したりする場面が何度もありました。「ここでその言葉を使わなくてももっと平易や言葉で言い換えれば、大臣もスラスラと読めるでしょうに」と言いたくなる 場面が頻繁にありました。その間、なんとなく気まずい間が空いてしまうのです。大臣の英語力を勘案して、もっと砕けた、口語体の英語にすれば、より演説自 体のメッセージ性も高まったのではないでしょうか。さらに、演説後の質疑応答も通訳がいま一つ正確でなかったのでしょうか、なんとなく噛みあわないものに なってしまい、消化不良な感じの残るものとなってしまったのが残念です。

辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員