2010年10月6日(水)
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米国
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この週末は「政治主導」や「政治任命者」について考えさせられました。考える契機となったのは先週の木曜日、9月30日にワシントンを駆け巡った「ラーム・エマニュエル大統領首席補佐官、辞任、シカゴ市長選出馬へ」という報道でした(http://www.washingtonpost.com/wp-yn/content/article/2010/09/30/AR2010093004061.html?sub=AR)。
「大統領首席補佐官」というと、日本の官房長官をイメージする人も多いかもしれませんが、大統領首席補佐官は官房長官より遥かに政権の黒子的な役回りを演じることが多いポストです。在任中に大統領の政策実現に役割をどのくらい果たすことができたかでその評価が決まる首席補佐官には各省庁との折衝、大統領府内の官僚機構の調整、議会への根回し、場合によっては政策をPRするためのテレビやラジオ出演、ととにかく大統領の政策を実現するためなら何でもする馬力はもちろん、大統領からの絶対的に信頼されていることが、必要不可欠な資質です。
その職を今回辞任したエマニュエル氏は、1993~98年、クリントン政権時代にホワイトハウスで大統領補佐官を務めた後、2003年イリノイ州から連邦議会の下院議員に当選し、2009年に大統領首席補佐官となってホワイトハウス入りするまで下院議員として活動していた人です。オバマ大統領がまだ無名の、イリノイ州議会の上院議員だった時代からの長い付き合いで、オバマ大統領の政治的資質に早くから目をつけていた人の一人です。日本の政治家を語る際に「武闘派」という言葉が使われることがありますが、エマニュエル氏の「熱血武闘派」ぶりもなかなかのもので、「政治的に自分を裏切った人間に腐った魚を送りつけた」「政敵のことを夕食にステーキを食べながら話していて熱くなり、ステーキナイフを肉に「死ね!死ね!」と連呼しながら突き刺していた・・など、彼の闘争心を窺わせるエピソードには事欠きません。パレスチナで活動していたシオニスト運動系の武装集団のメンバーだった経歴を持つ父親のDNAかもしれません。
また、それだけ熱いと、当然、彼のことを嫌う人も多いわけですが、エマニュエル氏は首席補佐官の間、大統領の政策のメッセンジャーに徹し、大統領を支えるためにありとあらゆる根回しを行い、メディアで共和党の論客と渡り合い、「政治的に対立している人間も個人攻撃で悪し様には言わない、いつも冷静なオバマ大統領」のイメージを守るために彼自身が率先して悪役を引き受けてきました。大統領が職務を執行するためには、彼のような悪役を買って出るような側近の存在が不可欠なことの裏返しでもあります。また、そこまで自分に惚れ込んでくれる人間をどれだけ回りに集められるかが、大統領の器量とも言えるのでしょう。
果たして日本でこれから増えていくことになるであろう政治的任命者は、自分を任命してくれた政治家の政策を実現するためなら悪役を買って出ることも厭わない人たちでしょうか?その答えがイエスかノーかで、日本における政治的任命者の価値が見えてくるような気がします。
辰巳 由紀
キヤノングローバル戦略研究所主任研究員