外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2010年9月23日(木)

日米評議会(US-Japan Council、USJC)の年次総会

[ 米国 ]


 9月19-20日の二日間にかけて、日米評議会(US-Japan Council、USJC)という非営利団体が主催する初の年次総会に顔を出してきました。このUSJCは日系アメリカ人が、日米関係の向上、次世代の日系アメリカ人リーダーの育成、日系アメリカ人コミュニティーと日本との交流の促進などを目的に一年半ほど前に設立された非営利団体です。2008年までロサンゼルスで日系アメリカ人国立博物館の初代館長を20年余りにわたって務めていたアイリーン・ヒラノ女史が所長を勤めています。(http://www.usjapancouncil.org/)
 
 USJCが通常のシンクタンクと異なる点は、理事や評議員に、民主党議員の重鎮であるダニエル・イノウエ上院議員ほか、著名な日系アメリカ人(CNNでアンカーを務めていたサチ・コトーやフレッド・カタヤマなど。日本に馴染みのあるところでは、かつてUSTRで対日貿易交渉にあたり、現在はエアバス・ジャパン社長のグレン・フクシマも理事に加わっています)を据え、会員である日系アメリカ人の人脈を活用してシンポジウムや交流事業を行うことを目指していることです。事実、2日間にわたって行われた会議には、全米から日系アメリカ人が多数出席したほか、ワシントン界隈の日本人や、日本研究者も出席してはいましたが、アジェンダ自体は一日目こそ日米関係を概観するパネル・ディスカッションの時間を設けましたが、それ以降は語学を含めた留学生の状況、高速鉄道、グリーン技術、女性の社会進出など、日米それぞれの社会で関心を持たれてはいるけれども、「日米関係」そのものを扱う会議ではあまり議題に上ることが少ないテーマの議論が続きました。

 2日間の会議の中でもっとも注目を集めたのが20日午前中の基調講演です。なんと、アジア政策に関しては殆ど演説をしたことがないバイデン副大統領が登場したのです。ワシントンではこの手のシンポジウムでは「誰が基調講演をするか」で集客力に大きな差が出ますが、その意味ではこの会議は大成功と言えるでしょう。さすが、イノウエ上院議員が評議員に加わっている団体は違います。普段は日米関係にあまり関心を持たない欧米のメディアも、副大統領が基調講演をするとあってはやはり気になるようで、講演の内容はAFP通信でも報じられました。(http://www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5gSfPOSud-pQhta-_C47KOkEl85bw)日本のメディアでは読売新聞、毎日新聞、共同通信などが報じていたほか、会場にはテレビ朝日やNHK特派員の姿も見受けられました。

 バイデン副大統領の講演を聴いていた私は、このスピーチを書いたバイデン副大統領のスピーチライターと、その仕事を支えるスタッフに感心しました。アフガニスタンにおける日本の支援などにも触れつつ、現在の国際関係が「ゼロ・サム」では成り立たないという大きな文脈の中に日米関係の重要性をきちんと位置づけている、内容の非常にしっかりしたスピーチだったというだけではありません。副大統領になって初の外遊にヨーロッパを選び、これまでアジアには殆ど足を運んだことのないバイデン副大統領が、あたかも自分の言葉で日米関係の重要性について力をこめて語っているようなスピーチを書くには相当の技量が必要です。スピーチライターだけでは当然、あのようなスピーチは書けるはずがなく、副大統領室の外交政策スタッフのサポートがあればこそのスピーチです。
 そういえば、バイデン副大統領のアジア政策担当の補佐官って誰なんだろう?とちょっと興味が湧いたイベントでした。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員