キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2010年9月10日(金)
[ 米国 ]
ヒラリー・クリントン米国務長官は9月8日に米外交評議会にて、米外交に関する包括的な演説を行った。昨年7月の「マルチ・パートナー世界」を謳った演説以来、2度目の外交演説として注目されていた。日本の国内メディアでは、同演説でアジア太平洋の同盟国を列挙する際に「韓国を日本よりも先に読んだ」「格下扱い」として紹介された。その気持ちはわからないでもない。しかしより重要なのは、クリントン演説にみる米外交構想を読み解くことであろう。
前年の演説と同様に、クリントン国務長官は米国のリーダシップは他国との協力によって強化されるという視点にたち、それが「パートナーシップの再編」や多国間協調主義を標榜する基盤となっている。今回の演説では、新興国の台頭や新しい脅威に対応する「グローバル・アーキテクチャ」を同盟、パートナーシップ、地域・グローバル組織の再編を通じて構築することが強調されている。クリントン国務長官は、①同盟関係の更新と深化(義務の分担の強調)、②途上国の能力構築を通じた問題解決能力の向上、③新興国(中国、インド、トルコ、メキシコ、ブラジル、インドネシア、南アフリカ、ロシア)への関与と包括的な協力体制の構築、④大西洋と太平洋を跨ぐリーダーであり続けること(APEC/EAS/US-ASEANサミットに言及)、⑤グローバルな組織を実効性の高いものにしていくこと、⑥人権・民主主義等の普遍的な価値を促進してくこと、という6つの外交戦略を掲げている。
米国務省は数週間後に「4年毎の外交と開発政策の見直し」(Quadrennial Diplomacy and Development Review: QDDR)を発表する予定である。これは国防総省の「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)のレビュープロセスを、国務省と国際開発庁(USAID)も採用したものである。米国の外交政策にも、その理念、戦略、プライオリティ、手法に関するベンチマークが策定されることになる。QDDRは日本外交にとっても他人事ではない。日米関係を外交面で更新し深化させるためには、米国の戦略と世界観を理解し、積極的に(共有すべきは)共有していくことが求められるからである。おそらくQDDRは上記6つの外交戦略を反映したものとなるだろう。次世代の日米関係の外交的協調がどこまではかられるかは、6つの外交戦略と日本の外交戦略の調和と実践にあるとみてよいのではないだろうか。
神保 謙 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員