コラム 国際交流 2026.11.04
小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。
経済社会強靭化のため、「技術の事業化と技術者の育成を如何にすべきか」を議論している。
世界知的所有権機関(WIPO)が9月29日、Global Innovation Index (GII)を公表した。これに依れば、日本は昨年に引き続き世界第12位だ。また世界の10大innovation clustersでは、「東京=横浜」が昨年首位の「深圳=香港=広東」を抜いて首位となり、「大阪=神戸=京都」も第7位に入った。だが、関東と関西のinnovation clustersには問題が山積している。PDF版の図2が示す通り、世界シェアに関し関東は特許出願件数で10.1%、発表資料で1.3%、venture capital取引額で2.2%である。即ち特許件数は多いものの、先端技術の発表資料で北京の4.2%に遥かに及ばず、VC(venture capital)活動では米国西岸地区の6.9%にまったく及ばない。関西も特許では立派な2.8%だが、資料では0.6%、VCでは0.2%と悲しいぐらいシェアが低い。即ち優れた特許を抱えていても、それにふさわしい論文も経済活動も世界から見れば寂しい状況だ—換言すれば日本のecosystemがうまく“機能していない”のだ(昨年の小誌第10月(第198)号及び今月号PDF版の図1、2参照)。
こうした中、経済社会の強靭化のため、技術活用の「仕組み(制度・組織)」をいかに再編すべきか、また若人を優れた科学技術者としていかに育成すべきかという点に関して、日本の優れた人々と議論している。そうした活動の一環として、11月13日、幣研究所(CIGS)は、大阪大学産業科学研究所(産研)と共催で「新産業立国へ — 世界とつながる産学融合拠点」と題したイベントを開催する。大阪大学の優れた専門家と共に「日本の優れた科学技術を、いかなる方法で新産業創出や国際競争力強化につなげていくか」に関して議論する予定だ。
AIの開発・利用・事業化のためのecosystemに関する議論が続いている。
米国think tank (CEIP)のSingapore支部の研究者が9月23日に公表した資料を巡って友人達と議論した。資料はfirst-tier AI talentの国際移動に関する分析である(“Who’s Ahead in the Global AI Talent Race?” PDF版2の表1~3参照)。これに依れば、人材育成・活用に関し、米中両国が圧倒的地位を築いている事が理解出来る。国際移動に関し、米国やシンガポールに優秀な人材が流入し、中国やインドから人材が流出しているのだ。また資料は2022年と2025年における優秀なAI人材が所属する組織別のランキングを示している。これに依ると2022年から2025年の間におけるアジアの研究組織の躍進が著しく、中国(北京大学、清華大学等)、韓国(KAIST等)、シンガポール(NUS等)の組織がリストに名を連ねている。残念だが、日本の組織名が見当たらない。人材育成と組織体制改変に関し、関係者の努力に期待したい。
これに関しGoogleの元CEOであるエリック・シュミット氏は、10月21日のpodcast(“In Good Company”)のinterviewで、AI開発を巡り、中国が間もなく米国を追い越す事を警告している(“In the Battle for AI Supremacy, China Is Only Six Months behind the U.S. — Which Means It’s Winning”; “中国在AI竞赛中落后美国半年,为何这已是胜势”、22日のWall Street Journal紙を参照)。
こうした中、AI開発・活用に関して、前述したecosystemの重要性について友人達と議論している。例えば米think tank (RAND)は、10月5日に発表した論文の中で、hardware、software、AI modelsそしてstandardsといった広義のecosystemが重要だと述べた(“The Emerging Digital Battleground: The Critical Factors That Produce Advantage in the U.S.-China Competition for Digital Networks”、PDF版2参照)。またRAND Europeは、英国とオランダのecosystemに関した報告書を発表し、またOxford大学のChina Policy Lab (OCPL)は、中国のecosystemに関した報告書を発表している(PDF版の2参照)。
Roboticsについても、開発・利用・事業化のためのecosystemに関する議論が続く。
国際ロボット連盟(IFR)が9月末、2026年版の“World Robotics”を公表した。24日発表の産業ロボット分野では、中国のロボット設置台数が昨年比で20%増加し、世界全体の設置台数の59%を占めた事、そして日本の設置台数が昨年比19%減少し、台数では米国に世界2位の地位を譲り、3位となった事が注目される。30日発表のサービス・ロボット分野では、設置台数が昨年比で24%増加した事が報告された。機種別では、無人搬送用(AGR)や自律走行搬送用(AMR)の運搬ロボットが昨年の設置台数の47%を占め、第2位は飲食物の配膳ロボットや受付・案内ロボット等のホスピタリティ・ロボットで、設置台数22%のシェア、第3位は工場・事務所用清掃ロボットで18%だった。IFRは、service robotsの将来に関し、省力化という社会からの要請を受けて、広範な分野で普及が進展するという見解を示した。同時に、(a)人とロボットとの近接協働作業増加を起因とする安全基準の必要性と設定の難しさ、(b)学習・動作に必要不可欠なデータの集積に加え、性能維持に必要な費用、(c)活用分野が広範なために、大量生産よりも少量多品種となる事、以上3点が今後の課題として述べている。
10月12~16日に上海で開催された中国国際工業博覧会(CIIF)に関して、筆者自身は残念ながら参加出来なかったが、多くの友人達から届いた情報に基づき簡潔に報告する。今年の特徴として、humanoid robotsが昨年と異なり、「“歌い踊る(会唱会跳)”—から“活用する(会干活)”」に転じた事が指摘されている。そして“大手4社(四大家族—发那科(FANUC)、ABB、安川、库卡(KUKA))”や“新興4社(四小龙—新时达、柴孚、新松、节卡)”が興味深い展示をした。開幕時、中国工程院(CAE)の王坚氏は、上述したrobotsの学習・動作に必要なdataの問題を指摘し、「dataが依然として個別に秘匿されている(数据还锁在每个人的抽屉里)」、即ち“分断的data保存(siloed data)”問題を語った。他方、Unitree(宇树)の王兴兴氏は、各企業がdataを秘匿する必然性に触れた。また清華大・Stanford大出身でHesai Technology(禾赛科技)の向少卿氏は、3種類のdata(数据)—“人の作業(人类操作)”、 “simulation(仿真)”、“フィジカルな動作(真机运行)”—が不可欠である事を述べた。また、課題山積のhumanoid robotsは、「業界の内外で少し食傷気味(行业内外的人早已疲惫)」の状況にある事も会場で感じられたという。これに関しIFRは、humanoid robotsの発展には、動作の機敏性や頑強性、経済的効率性、そして国際標準化された安全基準が不可欠であると記している。
広範な分野で“human-robot interaction (HRI)”が拡大し、“協調安全(collective safety)”の標準化に関する意見交換が盛んに行われている。米国think tank (SCSP)は、国際基準を巡る中国の動きに関する報告書を9月に公表した(“The Standards Road to Shanghai”、小誌前号PDF版の2参照)。他方、中国国家標準化管理委員会は、①9月14日、“AI Safety Governance Framework 3.0(«人工智能安全治理框架 3.0»)”を公表し、②10月16日、国際標準化機構(ISO)・国際電気標準会議(IEC)の専門委員会(SC27: Information security, cybersecurity and privacy protection)に関する中国の活動を公表した。こうした海外情勢に関し、我々は決して座視してはならない。綿密なる情報収集と行動を積極的に起こす時を迎えているのだ。
中間選挙を直前に控えた米国政治から目を離す事が出来ない。
11月の米国中間選挙に関する情報を毎日調べている。だが、選挙結果を正確に的中させる事は至難の業だから、選挙後の小誌来月号で論じる事にする。周知の通り、トランプ大統領の行動は誰にも予想出来ない。こうした中、筆者は米国政治経済の専門家達の見解に加え、連邦議会と財界の反応に注目している。これに関して、優れたjournalistのトーマス・エドサル氏が10月20日、New York Times紙に掲載した寄稿論文が簡潔で素晴らしい(“Trump Can No Longer Mask His Real Agenda”)。同氏は、元大統領経済諮問委員会(CEA)委員長でHarvardのジェイソン・ファーマン教授、UC Berkeleyのエマニュエル・サエズ教授、Yaleのジェイコブ・ハッカー教授等専門家の見解を引用して、大統領の政策(特にOne Big Beautiful Bill Act (OBBA))が逆進課税的に作用し、貧富の格差が拡大したために社会的混乱を一段と悪化させたと述べている(これに関しWall Street Journal紙の9月19日付記事“The Gap between the Rich and the Very, Very Rich Getting Wider”も参照されたい)。
以前、筆者が在籍していたHarvard Kennedy School (HKS)のCenter for Business and Government (CBG)に、元カナダ副首相のクリスティア・フリーランド氏が今年1月から加入した。彼女は10月16日、Financial Times紙上に小論を載せた—米財界は、大統領との対立を恐れて、今は発言を控えている。だが、“現在のplutopopulism(金権的大衆迎合主義)”に不安を抱いているとの事(“US Business Leaders Are Waking Up to the Perils of Plutopopulism”、PDF版2を参照)。そして筆者は今、彼女の新刊書到着を待っている(Unreliable Boyfriend: An Insider's View of Dealing with a Chaotic Superpower, Plutocrats, and Other Complicated People, October 2026)。米国制度に詳しくない筆者だが、大統領のplutocratic或いはkleptocraticな資産運用行為に対し、政府倫理法(EIGA)や政府倫理局(OGE)、更には司法省やFBIを含んだ制度改革の必要性を感じている。
もう一つ米財界の意見で気になるのは、Wall Street Journal紙の10月13日と18日の社説だ(“NATO’s Message to Putin? ‘We Will Fight’: Gen. Alexus Grynkewich Sends a Strong Deterrent Message, but Does Mr. Trump Agree?”及び“To Russia with Love, Signed Donald: Trump Waives Sanctions and Tariffs under the Lindsey Graham Law”)。特に後者は映画“007 Series”のFrom Russia with Loveを思い出させてくれたので笑ってしまった。
欧州からの政治経済情報も不安材料に満ちている。
英The Economist誌の10月8日付記事に面白い表現を発見した—「明日出来る事は今日しない主義」に陥っている欧州の指導者による一種のリレー走(a sort of relay race of political mañana-ism)、(“Europe’s Lame-Duck Year Could Hardly Come at a Worse Time: Elections Will Sap What Little Resolve Europe Has to Make Tough Decisions”、PDF版2参照)。欧州全体の結束のためには、各国の政治家達は譲歩をする必要がある。だが、選挙前のためにそれが出来ず、能力と意志のギャップが生まれている事を同誌が指摘した。かくしてロシアの脅威と対ウクライナ支援、全地球的な地政学的対応、更には低成長という困難な状態を、結束力を欠いたまま、欧州諸国は経験する事になると同誌は予想している。
筆者は友人達に、「政治経済的に優れた提言書を提出しても、今は指導者の実行意志が弱いから、「馬の耳に念仏(fall on deaf years; auf taube Ohren; tomber dans l'oreille d'un sourd)となる」と告げ、また「ナチの政権掌握を阻止するため、トーマス・マン先生は1930年10月に講演(“理性に訴える (Ein Appell an die Vernunft)”)を行い、アルベルト・アインシュタイン先生も1932年6月に“緊急請願書(Der Dringende Appell)”を公表したが、効果が無かった。生活に苦しむ庶民にとり、支離滅裂でも“よどみ無く流れ、力強い”Hitlerの演説の方が魅力的なのだ」と語った。ドイツの友人からは、「Humor好きの君にDer Spiegel誌が褒めた本を薦める」との連絡が届いた。その本とは今年8月の新刊書(Make Nazis Afraid Again: Wie man Rechte im Internet mit Humor und Fakten fertigmacht und nebenbei die Demokratie verteidig; 仮訳『再びナチスを怯えさせよ: ユーモアとファクトを武器に右翼をネット上で破り、民主主義を守る』)。彼の助言に対し筆者は、ニーチェ先生の言葉—「信念は真理に対して嘘よりも危険な敵だ(Überzeugungen sind gefährlichere Feinde der Wahrheit als Lügen)」—に触れ、「我々の“humorとfact”に比べ、彼等の“理性・根拠なき信念”は無敵だ」と語った次第だ。いずれにしろ、政治的困難に直面している独仏の友人達とは、12月に直接面談し、意見交換する事を楽しみにしている。
独仏両国経済も心配だ。10月15日、仏Le Monde紙は、仏独両国が自動車産業の«Made in Europe»に関し合意した事を伝えた(«La France et l’Allemagne s’accordent sur l’avenir d’une industrie automobile ‹made in Europe›»、PDF版2参照)。中国の安価なEV流入に対する対策であるが、これに関し多くの人々が疑念を表明している。例えば翌16日の独Frankfurter Allgemeine Zeitung(FAZ)紙は、自由貿易を放棄し保護主義に走る事を非難し、単に“Made in Germany”に執着する事は効果が乏しく、非効率的だと論じた(„Handel mit China: Deutschland ist ganz schön scheinheilig“及び„Spielebranche unter Druck: ‚Made in Germany geht einfach nicht mehr‘“、PDF版2参照)。同日、独think tank(IfW Keil)のモリッツ・シュラリック所長もglobal supply chainsを活用した“新たな製造業”を目指すべきという小論を発表した(„Nicht ‚Made in Europe‘, sondern ‚Made with Europe‘“ (英文も公表: “Forget ‘Made in Europe.’ Think ‘Made with Europe’”)、PDF版2参照)。
FAZ紙にもう一つ面白い小論を見つけた。10月5日掲載のハロルド・ジェイムズPrinceton大学教授によるドイツ産業を巡る小論だ(„Zukunft der Industrie: So ein Problem hatte Deutschland schon lange nicht mehr“; 仮訳: 「ドイツ産業の未来: 久方ぶりの深刻な問題」、PDF版2参照)。教授は、独機械工業連盟(VDMA)会長が2024年、“中国はもはや(我々にとり)市場ではない(China existiert als Absatzmarkt nicht mehr)”と語った事に触れ、またハンガリーの国家経済大臣が2025年、中国企業BYDのハンガリー工場建設時、「これでドイツは驚愕する」と発言した事に触れた。こうした発言は、独経済が1970年代の米国経済危機以来、最も深刻な問題に直面している事を示す証拠だと教授は語った。教授は更に時代を遡り、第二次世界大戦時の米独間の生産体制比較を行い、優れた技術者による多品種少量の優れた独型生産体制と、未熟練労働者でも従事可能な標準化された米型大量生産体制との対照性を示した。その一例としてドイツ空軍のジェット戦闘機(Me262)を挙げ、同機の生産機数は僅か1,430機で、しかも実戦配備されたのは200機程。他方、米陸軍の双発攻撃機(Douglas A-20 Havo)は7,487機と大量生産された。即ち緻密で洗練化され逐次的改良を得意とする独型生産方式に対して、臨機応変であるため飛躍的な変革が可能な米型生産方式を比較したのだ。そしてドイツ製造業が中国製造業に対抗するためには、従来の考え方を棄てて、AIを援用した生産体制の飛躍的な変革を図るよう提言している。残念な事に、ドイツ語ではあったが、筆者はこの教授の正確で詳細な説明に魅了されて一気に読了した。
こうしてドイツ産業は、中国産業の台頭により構造転換に迫られている。これに関し中国問題専門のthink tank (MERICS)は10月22日、報告書を公表した(MERICS China Essentials、PDF版2参照)。冒頭、同書は「厳しさを増すEUの対中貿易姿勢(Härtere Linie der EU im Handelskonflikt mit China)」と記している。そして中国の“武器化した”輸出管理政策に関して、“中国側の輸出額(Export wert für China)”と“輸入国側への影響(Auswirkungen auf Importland)”をX軸とY軸で示して、中国からの輸入品目別に見た影響度と輸入規模を一目で理解可能な図を掲載した。この図を見ると、輸入金額として少額だが、レアアース(Sttene Erden)が輸入国の製造業に与える影響が大きい事が容易に理解出来る。
こうした中、Morgan Stanleyが中国の新生産方式に関する報告書を9月25日に公表した(“China’s Industrial Era”、PDF版2参照)。中国調査部門長の衷晟氏は、中国製造業が「“Made in China”から“Made by China”(从“中国制造”到“中国创造”)」を念頭に、“世界の工場(the world’s factory)”から“世界の産業OS(the world’s industrial operating system)”へと姿を変えようとしていると語った。この中国産業の変革及びドイツ産業の苦悶を、我々日本は傍観する立場にない事を銘記すべきであろう。
上述の海外情勢を勘案すれば、情報収集の制限下であっても、“親中”でなくとも“知中”であるべきだ。
10月12日、Washington, D.C.のthink tank (CEIP)の中国専門家が、中国のロボット産業に関する小論を公表した(“Chinese Robots Could Decide the AI Race: How Beijing’s Bet on Hardware Could Leave Washington Behind,” Foreign Affairs、PDF版2参照)。“Embodied AI(具身智能)”の開発を通じて、“AI-powered robot industry(人工智能驱动机器产业)”育成を企図する中国の姿を記している。これを読んだ筆者は、日米中欧亜の友人達と情報交換し正確な中国の実態を探究しなければ、日本の戦略は“的外れ”になると感じた次第だ。こうした考えに基づき、先月議論した本を、紙面の制約から、著者・書名のみを記す—①ダニエル・ベル香港大學教授: Why Ancient Chinese Political Thought Matters (Apr. 2026)、②徐國琦香港大學教授: The Idea of China: A Contested History (Mar. 2026)、③Stanford大の許成鋼氏: Institutional Genes: Origins of China’s Institutions and Totalitarianism (Jun. 2025)(原本: «制度基因: 中國制度與極權主義制度的起源» (Nov. 2024))、④Steve Tsang(曾銳生)London大学教授: China’s Global Strategy under Xi Jinping (Sept. 2026)、⑤ロジウム・グループのローガン・ライト氏: Broken China: How the Economic Miracle Shattered (Sept. 2026)、以上。