コラム  国際交流  2026.10.13

『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第210号 (2026年10月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

米州 欧州・英国 ロシア 科学技術・イノベーション

AI・Robotics等の先端技術が、競争政策や国際政治と複雑に絡み合ってきた。

先月も引き続き内外の友人達と共にAIに関する様々な見解の評価をおこなった。即ち①“規制の虜(regulatory capture)”、②米中間の対立、そして③Anthropicのダリオ・アモデイ氏が示したAIの危険性(“We Must Pace the Frontier”)、以上3点だ。

AIは開発・適用分野・活用方法に関してまさしく日進月歩で進化している。第2次AIブームの時、筆者はexpert systemを友人・知人と共に作成した。当時の正直な感想は「AIとはこんなものか」だった。だが、2008年頃からHarvard大学の知人・友人がAIを語り始め、素人の筆者にとっても2016年の“AlphaGo対Lee Sedol(이세돌)”は衝撃的なニュースだった。それ以降、AIの開発・適用分野や活用方法に関して毎日のように新たな情報が筆者の許に届いてくる。誰にとってもAIの進歩の速度・方向性を予測する事が難しい。こうした中、アモディ氏の小論が、周知の如く専門家から政治家、更にはあたかもAIを熟知したかのような人を巻き込んで議論している状態である。これに関して小誌の後半でもう少し詳しく解説する。

欧州の政治経済に暗雲が漂い出した—過激派が優勢の独仏両国、対露警戒感の高まり。

9月24日に公表された複数のドイツ主要経済研究所による合同短期予測(Gemeinschaftsdiagnose (GD))を読んでいる。表題は「構造問題を抱えたままの景気回復—逸脱した財政政策(Aufschwung mit Strukturproblemen – Finanzpolitik auf Abwegen)」だ。この短期予測は、年2回、春と秋に公表される。春の予測より上方修正されたが、その回復力は、過去の回復期間に比して、“異常なほど弱い(ungewöhnlich schwach)”らしい。

こうした中、先月、2つの旧東独圏連邦州—ザクセン=アンハルト、メクレンブルク=フォアポンメルン—の議会選挙では、極右政党(AfD)が快勝した。また首都(特別市)ベルリンでは前回の選挙(2023年)で優勢だったCDUとSPDが大敗し、左翼党(Die Linke)と極右のAfDが躍進した。選挙翌日(9月21日)の独Frankfurter Allgemeine Zeitung(FAZ)紙は、「Berlin選挙: 過激派支配の都市へ(Wahl in Berlin: Hauptstadt der Extreme)」と題する記事を掲載した。同紙は同日の別の記事でCDUのメルツ首相の姿勢を「大惨事にも拘わらず改革に突進(Merz will trotz des ‚Desasters‘ an Reformen festhalten)」と評している。また8月31日の同紙は、特別文化芸術行事(Die Berliner Thementage)で、アンゲラ・メルケル元首相が「朝から晩まで我々の全ての話題(alle unsere Gespräche von morgens bis abends zu bestimmen)」を、AfDが占めている事に疑念を呈したと報じた(PDF版の2参照)。メルケル元首相は東独出身だがeliteだ。東独圏に住む一般市民が感じる生活不安を理解出来ないかもしれない。

Berlinの友人達はCDUとSPD、そしてmass mediaを批判し、同時にドイツの民主主義制度の強靭性にまだ希望を持っていると語った。筆者のドイツの友人達も、殆どが旧西独圏出身のeliteであるため、彼等の情報もやはり偏っていて、旧東独圏の一般市民の不安・不満を理解出来ないのだろう。そして筆者は「昔も今も、ドイツのeliteは人々の苦労が理解出来ないかも? 聡明なアデナウアー元首相でさえ、ケルン市長時代、1933年1月、大衆を煽動して権力を掌握した直後のヒトラーのケルン訪問を軽視したために、直ちに市長を罷免されたよね」と語った。続けて筆者は、FAZ紙の9月14日付記事に触れ、「親露派のAfDが政権を握れば、NATOは分裂するかも?」と、彼等に語りかけた(「秘密の防衛計画が露側に漏れるという恐怖(„Die Angst, dass geheime Verteidigungspläne in russische Hände kommen“)」、PDF版2参照)。

こうした中、10月1日、ミュンスターで開催された式典で、メルツ首相が言葉に力を込めて語った言葉は印象的だ。

「ドイツ国内の分裂を許しません。ロシアのハイブリッド攻撃、モスクワのbotsがコントロールするsocial mediaによるアジテーション、そしてAfDのスローガンと親露派から守ります(»nicht spalten lassen – nicht durch hybride Angriffe, nicht durch von Moskauer Bots gesteuerte Hetze in den sozialen Medien und nicht durch die Parolen der AfD und ihrer russischen Hintermänner«)」。

そして今、友人達とドレスデン工科大学ハンナ・アーレント研究所(HAIT)のウーヴェ・バケス教授が4月に発表した旧東独圏の現況を分析した本(Die AfD im Osten: Analysen anlässlich der Wahlen 2024/25)等を巡って議論している。

ドイツ政治以上に不安を感じているのはフランス政治だ。仏国経済は独経済以上に深刻だからだ。フランス国立統計経済研究所(INSEE)が9月10日に公表した経済短期予測資料(«Vigilance orange sur croissance: Note de conjoncture»)やOECDが23日に公表した短期予測に依れば、仏国経済は、好調のスペインはおろか不調の独経済にも及ばず、特に民間消費支出と国内投資が脆弱だ(PDF版の図1、2参照)。

こうした状況では、ルペン氏の勢いが増すだけだ、と友人達と話し合っている。

米中大国間競争における政治的駆け引きにも、目が離せない。

9月の米中首脳会談についても、内外の友人達と議論した。米Wall Street Journal紙は24日、“Trump Welcomes Xi to White House with Pageantry but Few Concrete Gains(特朗普在白宫盛情接待习近平, 但实质成果寥寥; WSJ日本語版: 成果乏しい米中会談、トランプ氏が盛大に歓待でも)”と報じ、英BBCのpodcast(“World Business Service”)は、25日に“Much Ceremony Little Substance between Xi and Trump”と報じた。会談後。こうした見解が出現する事は予想されていた。筆者は5月の北京での首脳会談と同様、「具体的成果物は限定的(concrete deliverables are limited)」と語り、UC San Diegoの中国専門家であるスーザン・シャーク教授の言葉を引用した。即ち前回の首脳会談直前の5月11日、Washington Post紙は、習近平主席が権力を保持し、共産党幹部を満足させ、国民からの支持を得るためには、実質は別としても形式的な会談成功は極めて重要な事だと教授が語った事を報じている(“Confident in China’s Power, Xi Is Ready to Host an Unpredictable Trump”)。

今回の会談直前には友人達が各種メディアで自らの見解を述べていた。幣研究所(CIGS)で2014年2月に講演したデンマークの専門家リズロテ・オドガード氏は、9月18日、日本を含む第三国の視点から観た米中会談に関する小論をForeign Policy誌に載せた(“US Allies Will Be Watching Xi Jinping’s Washington Visit Closely”、PDF版2参照)。彼女は米中が①威圧(coercion)と軍事的冒険主義(military adventurism)に関して誤断を回避するための相互理解、②同盟国に示す具体的内容、③同盟関係の関係強化、以上3点を実現出来るか否かという点に注目する。彼女とは11月に直接面談の予定である。また、23日の『日本経済新聞』紙は、米国think tank (PIIE)のアダム・ポーゼン所長や南京大学の張雲教授のinterview記事を掲載した。今月、来日する張雲教授との昼食面談を楽しみにしている。

上述の米中大国間競争も絡んで、AIの開発に関して様々な議論がなされている。

9月24日のホワイトハウスでの晩餐会には、米中首脳に加え、AI関連大企業のトップ—例えばイーロン・マスク、ジェンスン・ファン、マーク・ザッカーバーグ、サム・アルトマン—が参加したが、Anthropicのダリオ・アモデイ氏は現れなかった。彼の欠席が話題となった事で、小誌の冒頭で示したアモディ氏の小論の影響の大きさを計り知る事が出来よう。AIを巡る問題・課題は、実に複雑に絡み合っている。①AIの規制という政策的課題、②AIの開発競争という国家間・企業間の協調・対立問題、そして③AIの危険性という技術的問題という形に三分して、簡単に述べてみたい。

①の“規制の虜(regulatory capture)”は、小誌前号でも触れた通り、我々の想像を遥かに超えた適用範囲と開発速度でAIが進歩している事に起因している。従ってAI開発企業の関与は不可避と考えている。②の協調・対立問題は、技術的な覇権を狙い、相互不信を抱えながら実施している米中の競争が原因だ。ベッセント財務長官は、AIに関する米国の優位性を保持したままで、米中の“2つのシステムの分岐を避ける(avoiding bifurcation of our two systems)”と語ったが、中国が彼の考えに唯々諾々と従う事は考えづらい(これに関しPDF版2に示したBloomberg誌の“Five Ways the US and China Clash over AI”やThe Economist誌の“Deep Mutual Distrust Will Scupper US-China Co-operation on AI”を参照)。

③AIの技術的危険性に関して素人の筆者は、様々な専門家の意見を聞くだけである。だが、AIの“再帰的自己改善(recursive self-improvement (RSI))”というプロセスに魅力を感じている。筆者は友人達に「AIのRSIは恐ろしい現象だが、人間のRSIは大歓迎だよ。即ち他人に頼らず、自ら顧みて自己改善出来る事は大変素晴らしい」と語った。そして、我々は人間や自由主義に対するAIの持つ危険性に関心があるが、中国は共産党の独裁体制に対する危険性に関心があり、この考え方の“違い”が、①②で触れた問題と複雑に絡んでくると思っている。

AIに関しノーベル賞を受賞したジェフリー・ヒントン博士は、9月16日、米国連邦議員に対する非公開ブリーフィングの後、記者達の前で“AI has now reached the point where AI is designing better AI”と語った。このAIの危険性に対し、我々人間自らが政治経済社会制度の再編する時期を迎えているのだ—それも国籍・人種・宗教・専門分野にかかわらず、全ての人間が考えなくてはならない課題である。

国際間での技術開発競争の激化が誘因となり、愚かで誤った恐怖心と猜疑心が生まれる危険性が生じた。

技術開発競争に関して、9月22日、Foreign Affairs誌が、AIと核を巡って歴史的類比(historical analogy)をする事の誤りを指摘した小論を公表した(“The Trouble with the Nuclear-AI Analogy”)。確かに、歴史的類比を安易に行うと、確証バイアス(confirmation bias)や極端な単純化(oversimplification)に陥りやすく、我々の判断に誤りをもたらす。だが、現在の過熱したAI開発競争の状況下では、冷静な判断を下す事が非常に難しい。こうした中、ダリオ・アモデイ氏は、自らがマンハッタン計画でレオ・シラードが果たした役割と同等の事をしていると感じ、サム・アルトマン氏は、AIの規制に関して核の管理に携わる国際原子力機関(IAEA)に相当する機関の創設を唱えている。

これに関して友人達と議論した時、筆者は第二次大戦中の原子爆弾の開発時に、米国が抱いた恐怖心と猜疑心に関する歴史の一側面を語った。なかでも、MITの副学長で、原子爆弾の開発を主導したヴァニーヴァー・ブッシュ博士が告白した対独恐怖心は印象的だ: 
「ナチスは原爆を望んでおり、それを我々は知っていた。… 緊張が続いた1945年までの間、ナチスは我々と肩を並べて競争していると思っていたし、我々より半年程先行しているとさえ思っていた。シュツットガルトが陥落した後になって、アルゾス調査団が入った結果、真相が分かったのだ(The Nazis wanted an atomic bomb; we knew that. . . . in the tense years up to 1945 we thought that they were close competitors, even that they might be six months ahead of us. The after Stuttgart fell and the Alsos mission did its work, we found out)」。

また米独原爆開発競争における猜疑心から、ドイツへの原爆投下を諦め、ドイツの主導的科学者であるヴェルナー・ハイゼンベルクを暗殺しようとした計画も、記録に残っている。1943年5月5日、マンハッタン計画の軍事政策委員会は、ドイツではなく、日本に対する原爆投下を決定した。何故なら、ドイツに投下すれば原子爆弾の技術が敵側に漏れてしまうと恐れたからだ。また米戦略情報局(OSS)は、1944年12月、ハイゼンベルクが中立国スイスのチューリッヒ工科大学(ETH Zürich)の招待を受けて講演する事を察知し、スパイを送り、暗殺を計画した。だが、ドイツの原爆開発が遅れていると悟ったスパイ(Moe Berg)は、無意味になる暗殺を取り止めた。この史実を友人達に語った後、筆者は「暗殺を中止したBergやキューバ危機の時に核魚雷発射を止めたソ連潜水艦(B-59)の副艦長(Arkhipov/Архи́пов)のような冷静に判断出来る人がAI分野でも必要だ。何事にもHuman-in-the-Loop(HITL)が重要なのだ」と告げた次第だ。

CIGS主催による9月の公開セミナー: 「フィジカルAIと日本の戦略」の紹介。

9月16日午後、幣研究所(CIGS)は、AIとロボットに関する専門家を招き公開セミナーを開催した。科学技術振興機構(JST)の茂木強氏に「フィジカルAIの潮目(Sea Change)と日本の目指すべき方向性」を、ファナックロボット機構研究開発本部の森岡昌宏氏に「フィジカルAI: ロボット業界の対応」をお話して頂いた。続いてパネル討論会「フィジカルAIとその社会的課題」を早稲田大学次世代ロボット研究機構の淺間一先生に司会をして頂き、大同大学の吹田和嗣教授、日本ロボット学会(RSJ)会長で川﨑重工業の久保田哲也氏、産業技術総合研究所(AIST)の山野辺夏樹氏、東京大学の江間有沙准教授、計5名のパネリストで、協調安全、9月の日本ロボット学会、産官学の国際化・人材育成、倫理問題について議論して頂いた。近日中に概要がCIGSのwebsiteで観れる事が出来る。ご関心のある方は参照して頂きたい。

不確実性が高まる国際環境の下、中露の動きにも注意を払わなくてはならない。

約2ヵ月前の8月18日、米国メディア(CNN)が伝えたロシアの報道に驚いた(“Top Russian Economist Replaced after Warning of Economic Costs of Ukraine War”)。戦争で疲弊しているはずの露経済だが、筆者の情報収集能力では断片的情報しか得られず、正確な判断は不可能だ。だが、ロシアの優れた経済専門家が、如何なる発言で要職を追われたのかが気になり、彼の発言をまとめた資料を辞書と相談しつつ読んでみた(Никитский клуб: Цикл публичных дискуссий: «Россия в глобальном контексте»)。資料はモスクワで開かれた討論会(Никитский клуб/Nikitsky Club)の記録で、5月21日に公表された『世界情勢下のロシア(«Россия в глобальном контексте»/“Russia in a Global Context”)』第145号である。討論会の演題は「露経済と地政学的課題(Экономика России и геополитические вызовы/ Russia’s Economy and Geopolitical Challenges)」。追放された専門家は、経済開発貿易省副大臣を務めた国営開発銀行(ВЭБ.РФ/VEB.RF)の主席エコノミストのアンドレイ・クレパチ氏だ。

彼は連邦中央銀行(ЦБ/CB)の政策を非難し、ロシア経済の現況を次のように語った:

「グローバル競争下、ロシアは技術面・経済面で敗北しつつある。更には…中国と米国に負けているだけでなく、幾つかの点でウクライナにすら負けている。それが、私個人としても、どんなに不愉快な事であっても真実だ(Мы проигрываем и технологическую, и экономическую конкуренцию в мире. Причём, . . . мы её проигрываем не только китаю и сШа, мы в чём-то её проигры- ваем Украине, как бы это ни неприятно было и мне самому)」。

「従って今の消耗戦で勝ち目はない。我々は敵の崩壊を想定しているが、未だ崩壊していない。他方、我々の代償は増大しつつある。… 我々の経済は持ちこたえられても、社会的危機は起こり得る。そしてその時期は誰も予測出来ない。だが、警告しておく。誰も(ロシア帝政を崩壊させた1917年の)二月革命を事前に予測していなかった、と(Поэтому мы в этой в войне на истощение не выиграем конкуренцию. У нас есть иллюзия, что там всё рухнет. Не рухнуло и не рухнет. У нас нара- стают издержки. . . . По моему мнению, экономика выдержит, но может возникнуть социаль- ный кризис, причём тогда, когда его никто особо не ожидает. Но никто не ожи- дал, я напомню, и Февральскую революцию)」。

母国ロシアを愛するが故にクレパチ氏は率直に語ったが、それに対して露政府の首脳は怒髪天を衝く形相になったに違いない。

この資料を読み、或る記事を思い出した(“How Aesop’s Fables Fostered a Secret Language of Protest in Russia,” The Economist, Mar. 14, 2024)。即ち政権批判は“教養溢れる暗喩(Aesopian language)”で巧みに表現すべきなのだ。クレパチ氏は率直に語り過ぎたために、自ら不幸を招いたのだ。こうした事はロシアに限らず中国でも起こり得る。筆者は10月1日に施行された改正国防動員法を読んで(特に情報交換を禁止した第11条の“不得泄露或者向他人非法提供”の部分)、軍民両用技術(DUT)に関し、中国の友人達とは注意して話し合わなくてはと思った次第だ。

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『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 第210号 (2026年10月)