メディア掲載  エネルギー・環境  2026.10.13

「脱炭素」投資は成長戦略に非ず

産経新聞【正論】(2026年9月22日付)に掲載

エネルギー政策

政府は「日本成長戦略」で、2040年度までに官民合わせて370兆円超の投資を掲げた。このうち次世代型太陽電池、水素等、グリーン鉄、次世代型地熱、洋上風力、脱炭素関連の化学品の「グリーントランスフォーメーション」6項目だけで、23兆8000億円に上る。

≪政府丸抱えで成長の柱?≫

何れも、政府による補助金、公共調達、ないしは規制による需要の人為的創出に依存する。そもそも財務省は、脱炭素関連の税制優遇について、対象は「民間として事業採算性に乗りにくい」投資だとする。政府自身が採算の難しさを認める、かかる投資が、一体なぜ成長戦略だというのか。

水素等には6兆2000億円の官民投資を見込む。しかし天然ガスなどの既存燃料より高価であるため、政府は既存燃料との価格差を15年間にわたり支援する。

4兆2000億円を見込むグリーン鉄も同様だ。製造時の二酸化炭素(CO2)排出を減らした鉄鋼製品だが、通常の製品より高く、需要の見通しが立たない。このため設備投資補助に加え、政府による公共調達で需要を作り出す。

洋上風力では、採算悪化によって秋田県と千葉県の沖合3海域の事業から企業が撤退し、政府は公募制度を改めた。次世代型太陽電池では製造設備や導入への補助を重ね、公共施設への導入で市場を作り出す

政府の補助が前提となる採算の合わない事業が、なぜ成長の柱になりうるというのか。

≪波及効果の正体はコスト≫

政府は巨額の「経済波及効果」があるという。水素等だけで85兆3000億円という。試算は、設備への投資や生産の増加を前提に、原材料や部品の注文が増え、所得や消費も増えるという連鎖を計算したものだ。高価な水素を補助金漬けで導入すれば、その製造や輸送などを担う企業の売り上げは増える。だがこの波及効果が大きいというのはコストが高いことの裏返しでしかない。

むしろ、燃料を高価な水素に代えることで工場も家計も光熱費が増し、その分、他の投資や消費はしわ寄せを受ける。産業全体の競争力が落ち、工場が海外に移転すれば、成長戦略どころではない。政府の波及効果の数字は、こうした損失面を全く考慮していない。

政府が投資をすることで技術のコストが下がるというなら話は別だが、政府の技術開発事業は往々にして経済性評価が甘く、撤退もままならず、筋の悪い技術に囚われて失敗する。

海外の電気を水素に変換して輸入し、それを再び電気に変換するとか、発電所の煙突から大量に出るCO2を反応塔で吸収したのち地中に埋めるなどと聞けば、専門家でなくとも、いかにもロスが大きく、コストが嵩みそうなことは分かるだろう。どの発電技術も、既存の火力や原子力に太刀打ちできるコスト水準からはかけ離れた結果しか望めない。
政府は、将来はグリーン技術を海外に売って儲けるというが、わざわざ高価な技術を買う国があるとも思えない。

≪産業空洞化で国が滅ぶ≫

いま世界ではAI革命が起きており、そのための電力確保が焦眉の急である。特にデータセンターは電力多消費であり、その電気代は設備投資額に匹敵する。

このため、米国はガス火力を、中国は石炭火力を基軸にして、安定的で安価な電力供給を図っている。その一方で日本は脱炭素に邁進することで電気代を高くしている。これでは日本にデータセンターも半導体工場も立地しなくなり日本はAIでも敗戦する。

日本企業は政府から補助金を受け取って国内ではグリーン技術の推進に協力している。だがその一方で、海外では大規模に化石燃料事業へ投資する。関税と投資に関する交渉の影響もあって、日本企業は米国へ莫大な投資を進めているが、その多くはエネルギー事業である。日本企業が関連する米国事業のCO2の合計は年間3億トン規模に上る。この一方で日本はいま年間10億トンのCO2排出をゼロにすることが政府計画である。これは矛盾している。

日本企業がかかる行動をとるのはいまの政府の脱炭素政策の下では合理的である。だが国全体としてみれば、安定的で安価なエネルギー供給をもたらす化石燃料と、それを前提とするデジタル投資が国内では妨げられ、海外に向かっている。資金も、技術も、産業も、CO2排出も、すべて海外に移転する。

中東では不安定な戦況が続いており、アジアの天然ガス価格は高騰している。だが石炭火力の稼働率を上げることで天然ガス火力の稼働率を下げ、天然ガスを節約し電気代を抑制することができる。

今年から本格導入された排出量取引制度を筆頭に、石炭利用を妨げ電気代を高騰させる脱炭素政策は廃すべきだ。
エネルギー分野における本当の成長戦略とは、安定的で安価なエネルギーを実現することだ。それがあらゆる経済成長の基盤となる。