ワーキングペーパー エネルギー・環境 2026.10.09
確率表現の誇張とシミュレーション依存
本稿はワーキングペーパーです。
2026年7月の西日本を中心とする猛暑について、極端気象アトリビューションセンターは「地球温暖化がなければ起こり得なかった」と発表した。これはイベントアトリビューション(事象帰属)という手法に基づくものであり、シミュレーションに依存して、温暖化した地球と、温暖化のない地球を比較し、猛暑などの発生確率を計算するものである。
本稿は、この説明が温暖化の影響を針小棒大に伝えていることと、その根拠となるシミュレーションが観測された気温上昇を再現しているかという問題を検討する。
誇張の仕組みは、パトリック・ブラウンが示したバスケットシューズの例で説明できる。ある選手が新しい靴に替えると、跳ぶ高さが平均70 cmから71 cmになったとする。それぞれの跳躍が1cm高くなるだけでも、72cm以上を「大ジャンプ」と決めれば、その回数が10倍になるような場合がある。本稿の例では、100回中3回から30回へ増える。
これを「大ジャンプが10倍になる靴」と宣伝すれば、性能が飛躍的に向上したように聞こえる。しかし、新しい靴がなくても選手は跳ぶし、高いジャンプもする。靴を替えても跳ぶ回数は同じで、変わったのは高さである。1cmという効果を、任意の基準を超える回数の10倍化に置き換え、はるかに大きな効果があるように伝えている。筆者が「バスケットシューズ詐欺」と呼ぶのは、この誇張である。
今回の猛暑についての説明にも、同じ問題がある。公表図から読み取れる二つの気温分布の位置の差は1.6℃で、これが温暖化の影響である。ところが、観測された気温を基準として、それ以上になる確率だけを比べると、温暖化のない条件では0.006%と極めてまれになる。一方で、基準よりも少しだけ低い気温の猛暑は、この基準を超えないため算入されなくなる。
この結果を「温暖化がなければ起こり得なかった」と伝えると、温暖化がなければ猛暑そのものが生じなかったかのような印象を与える。実際には、温暖化によって1.6℃暑くなったというだけのことである。1.6℃という気温差を、猛暑の有無に置き換え、温暖化の影響を著しく大きく感じさせるこの手法は「気候詐欺」と呼ばれても仕方あるまい。
もう一つの問題は、推計がシミュレーションに依存していることである。今回使われた大気モデルの改良版を組み込む気象研究所のシミュレーションMRI-ESM2-0は、日本上空について、UAH衛星観測の約1.8倍、すなわち約2倍の速さで温暖化している(UAH衛星観測の0.168℃/10年に対しMRI-ESM2-0では0.302℃/10年)。観測された気温上昇との間にこれほどの隔たりがある以上、モデルの計算を根拠に「温暖化がなければ起こり得なかった」と断定することには疑問が生じる。
キーワード:イベントアトリビューション、猛暑、確率比、MRI、UAH、CMIP6