本稿は、家庭用ガス給湯器をめぐる二つの制度変更を、給湯需要の少ない世帯の投資回収という観点から検討する。第一は、2028年度からガス温水機器の平均熱効率を85.0%から87.5%へ引き上げるトップランナー基準である。政府の試算では、これに伴い潜熱回収型ガス給湯器(エコジョーズ)の出荷比率は2022年度の37%から2028年度に57.1%へ上昇する。第二は、2034年度を目標として、製造事業者に給湯器一台・一人当たりの化石エネルギー消費量の削減を求める新制度である。政府が示す製品構成では、従来型を含む「その他給湯器」は2023年度の49%から2034年度に18.1%へ縮小する。
これらは消費者に従来型給湯器の購入を直接禁ずる制度ではない。しかし、供給側に平均値や製品構成の達成を求めれば、製品の型式数、在庫、販売時の推奨が変わり、消費者が実際に選択する機器の種類は狭まり得る。
2026年8月に確認した同一メーカーの16号・給湯専用機では、標準工事込み表示価格のエコジョーズとの差は2万1,659円から3万7,289円であった。そこで、本稿では追加費用3万円、ガス削減率13%、限界ガス単価175円/m³、使用期間10年、割引率3%を中心ケースとして分析した。この条件で追加費用を回収するには、従来型給湯器で年間154.6m³の給湯用ガス消費が必要である。これはシャワーだけなら毎日約12.1分に相当する。毎日5分の場合、年間節約額は約1,454円となり、単純回収年数は20.6年、10年間の正味現在価値はマイナス1万7,599円となる。毎日8分でも正味現在価値はマイナス1万159円である。
村川ほか(2000)が男性会社員寮11住戸で実測した給湯熱需要を同じ条件へ換算すると、中心ケースでは9住戸が損益分岐使用量を下回る。これは、同じ単身者向け住宅でも需要に大きな幅があり、しかもその多くはエコジョーズの導入において初期費用負担をガス代の低減によって回収できないことを示す。単身世帯は2036年に2,453万世帯へ達し、2050年には全世帯の44.3%を占めると推計される。単身世帯の全てがガス需要が少ないわけではないが、ガス需要が少ないう単身世帯という形態は、政策上、例外というよりは、注目すべきボリュームゾーンになっている。
以上から、本稿は二点を提言する。第一に、政府は2028年度基準をいったん撤回すべきである。第二に、政府の役割は、機器効率、実際の追加費用、予想節約額、回収年数に関する中立的な情報提供にとどめるべきであり、2028年度・2034年度の制度によって製品構成や消費者の選択を誘導・規制すべきではない。
キーワード:ガス給湯器、エコジョーズ、トップランナー制度、単身世帯、投資回収、消費者選択