ワーキングペーパー  エネルギー・環境  2026.07.27

ワーキング・ペーパー(26-015J)洋上風力発電の問題点

エネルギー政策

要旨

洋上風力発電は、二酸化炭素を排出せず、大量に導入でき、安価になると説明されてきた。政府は2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万〜4,500万kWの案件形成を掲げ、浮体式についても2040年までに1,500万kW以上を目標としている。加えて、風は国内に存在する資源であるためエネルギー安全保障に役立ち、風車産業を国内に育てれば雇用と地域振興も生まれると期待されてきた。これらの説明が成り立つなら、初期の政策支援には一定の合理性がある。

しかし、政策の前提として置かれた低コスト化は、すでに実績によって揺らいでいる。2023年以降、英国、米国、デンマーク、ドイツなどで、開発中止、契約解除、入札不成立が相次いだ。英国では、洋上風力の応札がなかった後、政府が支援価格の上限を大幅に引き上げた。日本でも、三菱商事グループが2021年に低価格で落札した秋田・千葉の3案件から、2025年8月に全面撤退した。政府の事後分析によれば、風車の調達費は公募時の見込みから2倍以上に増加していた。安価になるという当初の期待は実現してこなかった。

政府の発電コスト試算にも注意が必要である。2040年に新設する着床式洋上風力について、発電所そのものの費用は1キロワット時当たり14.0円とされている。ところが、太陽光や風力が大量に導入された電力システムを想定すると、同じ洋上風力の費用は18.1円、20.5円、23.1円へ上昇する。後者は、余った電気を捨てる損失や、風力の変動に合わせて火力を非効率に動かす費用などを織り込んだ試算である。これでも、地域間を結ぶ送電線や大規模蓄電池の建設費は十分に含まれていない。したがって、14.0円なる数値は国民が最終的に負担する費用からはかけ離れている。

風力発電は、本質的に二重投資となる。風が吹く時間には火力発電の燃料を節約できるが、需要の大きい無風時に備えて、火力や原子力、水力など、必要なときに発電できる設備を減らすことは出来ず、その設備を維持した上で、風力発電所に加えて、海底ケーブルや基地港湾などを整備しなければならないことになる。蓄電池を置く場合も、それは更なる投資が追加されることになる。洋上風力を政府目標どおり大量導入すれば、「電力系統統合コスト」と呼ばれるこれらのコストは電気料金、託送料金、再エネ賦課金または税負担を通じて、家庭と企業に及ぶ。

電気料金への影響は甚大になりうる。第七次エネルギー基本計画に沿って太陽光・風力を大量導入し火力発電も低炭素化を進めるケースを、既存の火力・原子力発電設備を活用するケースと比較した。近年の洋上風力の費用上昇と、政府試算に十分含まれない送電・蓄電費用を織り込むと、日本全体の発電コストの増分は年間30兆円にも達し得る。このことは、大量導入の目標を固定したまま、費用上昇を政府支援で埋め続けるならば、国民負担が極めて大きくなり得ることを示している。

「国産エネルギー」という説明も、その意味を分けて考える必要がある。風そのものは輸入燃料ではないが、大型風車は国内に製造拠点がなく、主要設備を海外から輸入している。政府は2040年までに国内調達比率65%を目標とするが、これは現状からはほど遠い。世界の風車市場は少数の大手企業が主導し、大型化のたびに巨額の研究開発費と量産投資を要する。日本が後発で中核機器を国産化する道のりは容易ではなく、そのための政府補助の費用も精査すべきである。なお保守部品、制御ソフト、遠隔監視を海外に依存する場合には、供給途絶やサイバーセキュリティへの備えも必要になる。

洋上風力は地球環境対策として導入されるが、その地域環境への影響は無視できるものではない。沿岸景観への影響に加え、建設時の騒音と水中音、海鳥の衝突や生息域の減少、海洋哺乳類や魚類への影響、海底改変、漁業との競合などが問題となる。影響の大きさは海域ごとに異なり、知見が不足する分野も多いため、影響を事前に調べ、運転後も公開データで監視しなければならない。さらに、ブレードに用いるプラスチック複合材は再資源化が難しい。欧州委員会共同研究センターは、欧州の廃ブレード由来の産業廃棄物が2040年に約40万トンへ増えるとの推計を紹介している。撤去、廃棄、再利用、事後監視等に必要な費用は、事業実施に合わせて積み立てる必要がある。

以上を総合すると、政府は、現行の数値目標に沿って大量導入を進めるべきではない。まず、電力系統統合コスト、環境対策コスト、廃棄・リサイクルコスト等を含めて、発電所の外で生じる費用まで含めた総合的な国民負担を検証する必要がある。その結果、洋上風力発電の総費用が、他の発電方式を大きく上回るならば、政府目標に沿った大量導入は停止すべきである。根本的な低コスト化を目指した基礎的な研究開発は続け得るが、国民に巨額の負担を伴う大量導入ならば継続すべきではない。

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