本稿は、電気事業制度を、発電、送配電及び小売を分断した現在の仕組みから、地域ごとに供給責任を負う垂直統合型の事業者を中心とする制度へ戻すための法律として「電力の安定供給体制の再構築に関する法律(略称:電力安定供給法)を提案する。法案の目的は、電気料金を複雑な官製市場と短期取引に委ねるのではなく、長期の電源投資、燃料調達、送配電投資及び需要家への供給を一体で計画できる主体を再建することにある。
東日本大震災後に進められた電力システム改革は、広域系統運用の拡大、小売及び発電の全面自由化、法的分離による送配電部門の中立性確保を柱とした。しかし、制度は複雑化し、卸電力市場、容量市場、需給調整市場、非化石価値取引市場、長期脱炭素電源オークションなどが林立した。安定供給と低廉な電気料金を実現する主体は不明確になり、発電投資、送配電投資、燃料調達、小売需要の長期的整合性は弱まった。
本稿は、この問題の根源を、電気事業における「供給責任を伴う垂直統合主体」の消滅に見る。電気は、一般の商品市場と異なり、在庫による調整が困難であり、停電時の社会的損失が大きい。送配電網は重複建設が非効率な自然独占であり、発電投資も長期・大規模である。このような財について、短期市場と官製補完市場を多数組み合わせても、長期安定供給の責任主体は形成されにくい。
そこで本稿は、「電力安定供給法」を提案する。本法案は、第一に、供給区域ごとに発電、送配電及び小売を一体で担う地域電力供給事業者を置く。第二に、同事業者に供給義務、最終保障供給義務、災害復旧義務、長期供給計画作成義務を課す。第三に、料金制度は、安定供給に必要な投資と燃料調達を回収できる総括原価型の認可料金に戻す。第四に、現行の発電・送配電・小売分離を前提とする官製市場、制度的託送、最終保障供給、容量確保制度等を、移行期間を置いて整理する。第五に、既存契約、発電事業者、自治体、需要家に急激な混乱を生じさせないため、段階的な移行措置を置く。
法形式については、電力安定供給法を新法として制定し、本則に目的、基本理念、地域電力供給事業者、供給区域、供給義務、電力安定供給計画、料金規制及び移行基本ルールを置く。そのうえで、電気事業法等の改正は、附則又は「電力安定供給法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(略称:関係法律整備法案)」において具体的に処理する。
本稿では、第I部で制度改革の必要性と法案の基本設計を論じ、第II部で議員立法を想定した国会提出資料一式を提示する。
キーワード:安定供給、垂直統合、電気事業法、地域電力供給事業者、供給義務、総括原価方式、電力システム改革