日本政府はGX政策の一環として「水素社会計画」を進め、水素およびアンモニアの利用拡大を重要分野に位置づけている。2026年6月に示された戦略17分野の官民投資ロードマップでは、「水素等」について2040年度までに6.2兆円の官民投資額が掲げられた。本ノートは、その具体例として、インドで再生可能エネルギー由来の水素を用いてアンモニアを製造し、日本に輸入して発電燃料等として用いる計画を取り上げ、費用対効果を検証する。公開資料および報道値に基づく概算では、インドの再エネ電力1 kWhをアンモニアに転換し、日本の石炭火力で発電して得られる送電端電力量は約0.20〜0.21 kWhにとどまる。石炭火力混焼による石炭代替効果として評価すれば、年40万トンのアンモニアによるCO2削減量は最大限好意的に見ても年間約70万トン、15年間で約1,056万トンである。報道される投資額4,800億円だけで、15年間の支援期間に対するCO2削減費用は約4.6万円/t-CO2となる。さらに、アンモニア価格を1,000、1,200、1,500ドル/tとするシナリオで価格差支援を試算すると、支援のみで約8.3万〜12.9万円/t-CO2となる。事業投資額4,800億円を社会的に拘束される資本として併せて評価すれば、CO2削減費用は約12.9万〜17.4万円/t-CO2に達する。これは石炭燃料価格を事実上約18〜24倍にする水準である。また、仮にこのような高コストな方法で日本の年間CO2排出量10億トンを削減しようとすれば、年間費用は約129〜174兆円に達する。この計画は、エネルギー収支、CO2削減費用、国民負担、国際的な削減効率のいずれから見ても合理性を欠く。政府の水素利用に関する政策は、その費用対効果について十分な事前検討を実施すべきである。
キーワード:水素社会推進法、価格差支援、低炭素アンモニア、グリーンアンモニア、石炭火力、CO2削減費用、エネルギー収支