ワーキングペーパー グローバルエコノミー 2026.07.09
本稿はワーキングペーパーです。
人々は、物価の変化を十分に考慮せず、名目上の金額を実質的な価値と取り違えてしまうことがある。経済学では、こうした問題を「貨幣錯覚」とよぶ。デフレからインフレの時代に突入した日本にとって、貨幣錯覚を考えることは一定の意義があると考えられる。
本稿では、現代的なニューケインジアンモデルに貨幣錯覚を導入し、日本経済を対象とした実証分析を行う。具体的には、家計が現在のインフレ率を十分に認識できない場合と、将来のインフレ率を十分に認識できない場合を区別して考えた。
まず、シンプルなモデルによる理論分析では、現在のインフレ率誤認は実質賃金の誤認を通じて労働供給に影響を与えること、将来のインフレ率誤認は実質利子率の誤認を通じて消費・貯蓄の意思決定に影響を与えることを示した。また、これらの誤認は、均衡の決定性とよばれる、マクロ経済の安定性の性質にも大きな影響を与えることを示した。
さらに、現実経済に重要と考えられる様々な要素を取り込んだ中規模DSGEモデルに拡張した上で、日本の1995年から2019年までのデータを用いて推定した。その結果、貨幣錯覚を含むモデルは、人々がインフレ率を正しく認識していると仮定する標準的なモデルよりも、日本のマクロ経済データをよりよく説明することが分かった。さらに、貨幣錯覚は単にモデルの当てはまりを良くするだけではなく、景気変動の伝わり方にも影響することを明らかにした。したがって、貨幣錯覚は、日本経済の景気循環を理解するうえで無視できない要素であると考えられる。
ワーキング・ペーパー(26-008E)Money Illusion and Business Cycle Fluctuations: Evidence from Japan