ワーキングペーパー  エネルギー・環境  2026.06.05

ワーキング・ペーパー(25-006J)メガソーラーによる湿原損失の費用評価

本稿はワーキングペーパーです。

エネルギー政策

平易な要約

メガソーラーが湿原に立地する場合に、その生態系損失を金銭換算して、発電の売り上げと比較した。

環境省は湿原保護政策の観点から、湿原の生態系サービスの価値を計算し公表している。湿原の価値は、二酸化炭素吸収3.1万円/ha/年、水量調整58.5万円/ha/年、水質浄化342.5万円/ha/年、生物多様性保全163.1万円/ha/年、自然景観保全94.6万円/ha/年の合計である。

3.1 + 58.5 + 342.5 + 163.1 + 94.6 = 662万円/ha/年となる。

次に、同じ1haの土地をメガソーラーに利用した場合の年間発電量を計算する。本稿では森林・原野・湿原周辺型メガソーラーの土地利用密度を2.5ha/MW、すなわち0.40MW/haとし、設備利用率を18.3%とする。1年は8,760時間であるから、年間発電量は、

0.40MW/ha × 8,760時間/年 × 0.183 = 641.2MWh/ha/年 = 64.1万kWh/ha/年となる。

この電気を8.9円/kWhで売電するとすれば、年間売上は、

64.1万kWh/ha/年 × 8.9円/kWh = 571万円/ha/年となる。

したがって、1haあたりで比較すると、メガソーラーの年間売上は約571万円/ha/年であるのに対し、失われる湿原の価値は約662万円/ha/年である。

つまり、湿原をメガソーラーで覆うことによって失われる生態系サービスの価値は、年間の電力売上を上回り得る。

本稿では上記の計算の前提条件についての感度分析も行っている。

概要

釧路湿原国立公園の周辺で太陽光発電施設が急増し、自然環境保全との衝突が顕在化している。再生可能エネルギーは化石燃料を代替し得る一方で、湿原、草地、森林等を改変して設置される場合には、生態系サービスの喪失という外部費用を発生させる。だが通常の発電事業の収支には、この外部費用は現れない。本稿は、釧路湿原またはその周辺湿地を太陽光パネルで覆う場合に失われ得る生態系サービスの価値を、既往の環境経済学研究を用いて円/ha/年に換算し、太陽光発電の売電収入および発電コストと比較した試算である。

主な結果は以下である。栗山浩一による釧路湿原の選択実験では、保全価値の集計値は年360億円と推計されている。これを評価対象面積151,361haで割れば約24万円/ha/年、当時の釧路湿原国立公園面積26,861haで割れば約134万円/ha/年となる。他方、環境省の湿原生態系サービス評価に基づき、水量調整、水質浄化、生物多様性保全、自然景観保全、二酸化炭素吸収を積み上げると、約662万円/ha/年となる。これに対し、森林・原野・湿原周辺型メガソーラーの土地利用密度を2.5ha/MWac、すなわち1haあたり0.40MWac、設備利用率18.3%とする標準ケースでは、年間発電量は約64.1万kWh/ha/年である。売電単価8.9円/kWhでの年間売上は約571万円/ha/年であり、環境省積上げケースの湿原価値は売上を上回る。発電量あたりに換算すると、湿原価値喪失の外部費用は、保守的なCVM低位ケースで0.37円/kWh、CVM高位ケースで2.09円/kWh、環境省積上げケースで10.32円/kWhとなる。事業用太陽光のモデルプラント発電コスト10.9円/kWhに環境省積上げケースを加えると、社会的発電コストは約21.2円/kWhとなる。

なお、同じ太陽光発電であっても、屋根、工場跡地、造成済み遊休地に置く場合と、湿原および湿地性生態系を改変して置く場合とでは、社会的費用は異なる。だが再エネであるというだけで、立地に伴う環境破壊が免罪されることはない。国および自治体は、エネルギー基本計画、FIT/FIPなどのエネルギー政策はもとより、環境影響評価、自然公園法、都市計画、条例、金融・調達基準等においても、土地利用別の外部費用を明示的に考慮すべきかもしれない。

キーワード:釧路湿原、太陽光発電、外部費用、生態系サービス、環境経済学、便益移転、FIT/FIP、立地規制

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