本論文では、鉄鋼生産に対する生産力拡充計画のインパクトを検証した。まず実施計画に計上された個別設備の建設経過を追跡し、特に製銑設備、製鋼設備(平炉・転炉)の多くが戦時期に完成されたことを示した。こうした設備拡充を支えた条件の一つが物資動員計画における継続的な資材配当であった。生産力拡充計画に基づいて建設された設備の生産能力は、終戦直後の1945年末、製銑(高炉)、製鋼(平炉・転炉)、圧延の全生産能力のうち、それぞれ47.8%、42.1%、26.2%を占め、第一次合理化を経た高度経済成長の出発点、1955年にも引き続き高い比率を維持した。さらに、鋼材のプラントレベルのデータを用いた回帰分析によって、生産力拡充実施計画に圧延設備の拡充が計上されたプラントは、生産力拡充計画の実施前に比べて、それ以外のプラントより1942年から生産量が多くなり、1950、1955、1960年にもその関係が有意に認められた。これらの結果は、生産力拡充計画が、設備拡大を通じて戦時期から戦後高度成長初期にかけて日本の鉄鋼生産にプラスのインパクトを与えたことを示唆している。
Key words: 戦時経済、生産力拡充計画、設備投資、鉄鋼、日本
JEL classification numbers: L52, L61, N45, N65, O25