米国がイスラエルによるイラン攻撃に加わったのは2月28日だった。まもなく2か月になる。
現在、パキスタンが仲介する形で米国とイランの間で戦闘終結に向けた協議が行われている。
この動きの中で、中国がイランに対して一定の譲歩を示すよう促しているほか、その他の中東関係国にも協力を働きかけていると報じられている。
中国は原油輸入の42%を中東に依存している。日本の94%に比べれば低いが、エネルギー価格全体の高騰を考慮すれば、ホルムズ海峡封鎖が中国経済に及ぼす影響は非常に大きい。
とくに足許の中国経済は1980年代以降最も厳しい停滞が続いているため、国民の心理に与える影響は表面的な数字以上に深刻である。
そうした国内事情がインセンティブとなったことも背景にあると考えられるが、中国が戦闘終結を促す方向で積極的にイランや中東諸国に働きかけていることも間違いない。
これが国際社会における中国の存在感を高めている。
とくにグローバルサウスの多くの国々は原油備蓄が乏しいため、ホルムズ海峡の封鎖が国民経済に与える影響は日本以上に深刻である。
その中で、米国が原油価格高騰の火種を撒き、中国がそれを鎮火しようとしているのは対照的である。
そうした状況を反映して、シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所が4月7日に公表した東南アジア諸国調査報告は象徴的だった。
ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国が米中どちらかを提携相手に選べと言われたらどちらを選ぶかという質問に対して、中国と回答した国の比率(52%)が米国と答えた国の比率(48%)を上回った。
前年調査ではこの比率は逆だった(米国52%、中国48%)。
米中両国に対する東南アジア諸国の評価の変化を示しているこの調査結果は、グローバルサウス全体についても同様の変化がみられる可能性が高い。
この事実も西側諸国にとっては看過できない内容であるが、それ以上に深刻なのは米国と欧州の間の相互不信の溝の深まりである。
本来であれば、イランの核兵器保有リスクの問題等世界の平和安定に甚大な影響を及ぼす問題についてはG7が一致してリーダーシップを発揮し、世界秩序の安定を図るべきである。
しかし、G7はすでに内部分裂し、機能が低下している。
第2次トランプ政権発足直後の2025年2月、ミュンヘン安全保障会議において米国のJ・D・バンス副大統領が行った欧州を批判するスピーチが米欧間の溝を深めた。
さらに本年1月、トランプ大統領自身が米国によるグリーンランドの領有意欲を示した。これが欧州の強い反発を招いた。
以前から欧州諸国のトランプ政権に対する不信感は根強かったが、この2つの米国側首脳の姿勢が米欧間の相互不信を決定的なものとした。
欧州諸国は、米国と価値観を共有できないとの認識を一段と深め、防衛力の米国依存を脱却すべく本格的に自前の軍事力強化に舵を切っている。
ドイツ企業を中心に軍需産業の急速な拡大を図っており、2029~30年にも予測されているロシアによる欧州攻撃リスクに備えている。
ただし、当面のロシア・ウクライナ戦争において、ウクライナを支援するには米国の軍事支援が不可欠であるという現実を考慮し、上辺だけは対米協調を維持してトランプ大統領の機嫌を損ねないようにしているように見える。
そうした背景の中で、米国のイラン攻撃が始まった。
このため、欧州主要国は本心では米国を批判したいと考えていても、米国によるウクライナ支援継続の必要性を考慮し、表面上は米国批判を抑制している。
明確に米国のイラン攻撃を批判しているのはスペインのペドロ・サンチェス首相だけである。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領とイタリアのジョルジャ・メローニ首相は批判的な姿勢を慎重な表現で示唆した。
ドイツのフリードリッヒ・メルツ首相と英国のキア・スターマー首相は批判を示唆することさえ避けている。
表面上の外交姿勢にはばらつきがあるが、国際法や国連憲章を無視した米国を批判する本音の部分は欧州全体でほぼ一致している。
欧州諸国はこのようにトランプ大統領にとって耳障りなことはなるべく言わないようにしているため、戦闘終結を働きかけることが難しい。
日本は米国の防衛力の支援がなければ国家防衛の土台が崩れてしまうため、欧州以上に米国寄りの姿勢を示さざるを得ない。
それがG7諸国が戦闘終結に向けて中国のように働きかけることが難しい理由である。
以上のような事情からG7諸国はトランプ大統領の機嫌とりを継続せざるを得ない。
これに対して中国は防衛面で米国から完全に自立しているほか、米中貿易戦争でもレアアースの輸出制限によって米国に対して優位に立つ手段をもっているため、米国に対してほぼ対等に行動することができる立場にある。
この状況が続くと米中2大国によるパワーポリティクスが世界秩序形成を支配する状況になる。
これは軍事力および経済的威圧力頼みの力による統治であり、国際的な対立を招きやすい。この状況が長期的に継続すれば、世界はいずれ第3次世界大戦に向かうリスクが高まると言わざるを得ない。
本来そうしたリスクを防ぐために生まれたのが国際連合であり、その理念は国連憲章に示されている。
国連憲章第1条第1項には「国際紛争の解決は平和的手段によって、かつ正義および国際法の原則によって実現する」という主旨が明記されている。
国際法の原則とは、国家主権の尊重、武力行使の禁止、紛争の平和的解決、条約遵守などが中核的概念である。現在、米国、ロシア、イスラエル等は明らかにこれらを無視している。
加えて、第2条では、主権平等の原則を明記している。
このような状況に対して、本来であればG7、G20等の主要国が一致団結して国際法や国連憲章が無視される事態を防ぐ姿勢を示すのが、世界秩序形成の土台である。
残念ながら、そうした動きは非常に少ない。これは戦後の世界平和の基礎を築いてきた国連、G7等世界秩序形成のための枠組みの機能が低下していることを示している。
このような世界秩序が不安定化している状況に対して米中両国以外の国々が世界秩序安定のために積極的に貢献し、安定化をリードする動きが見られていない。
この状況を短期的に抜本的に改善する方法は見当たらない。これは法治に基づく世界秩序形成の限界を明示している。
確かに短期的には現在の世界秩序の不安定化を改善する対策は見当たらない。
しかし、長期的には現在の不安定な世界秩序に強い危機感を抱いているZ世代の人々が自発的なモラルに基づいて「民」(企業、大学、シンクタンク、NGO、個人等)として何ができるのかを考え、実践していくというチャレンジの仕方がある(注)。
(注)詳しくはJBpress掲載の「米国中心の自由貿易体制が終焉、新秩序形成に求められる民主導のグローバル会議と日本政府のリーダーシップ」(2025年6月17日)参照。
日本、米国、欧州、中国、韓国、南アフリカ等の有識者とその周辺のZ世代の若者たちが一緒になってこのプロジェクトを推進している。
この活動は8年前に細々とスタートした。2020年以降、主要メンバーによる対面およびオンラインの会合がスタートし、その後各国のZ世代の若者が構成する研究会などにおいて具体的な「民」の役割に関する検討を重ねてきた。
昨年以降、この活動への参加を希望するZ世代の若者が加速的に増加している。
それに合わせて昨年10月、日本において活動の母体となる一般社団法人GEN Global Citizens Forumを設立した(ウエブサイトは現在構築中)。
筆者はこの活動の中で、日本、米国、欧州等で世界秩序不安定化の実情について説明し、それに続いて筆者とともに活動する数か国の中心メンバーとZ世代の若者たちによる世界秩序形成安定化に向けた取り組みを紹介している。
その説明の終了後、参加者の大学生、高校生らが、自分も活動に加わりたいと希望するケースが増えている。のみならず、40歳以上の有識者・専門家の中にも支援者が拡大している。
こうした最近の状況変化を見て、筆者とともに本活動を推進する中核メンバーは一様に活動を取り巻くステージの変化を肌で感じている。
その主因はトランプ大統領による世界秩序形成の不確実性の増大がもたらす将来への危機感の高まりにあると考えられる。
トランプ政権が続く今後3年弱の間に、活動に参加するZ世代の学生、若手社会人、および応援に加わる有識者・専門家はさらに増加し続けると考えられる。
こうした志を共有するメンバーの輪を広げて、「民」としてできることを実行し、自発的なモラルベースの世界秩序安定への貢献の輪を持続的に拡大することを目指している。
この活動に加わる若い世代の人たちのように、危機感を共有して互いに励まし合い、社会が直面する事態に真正面から向き合い、今の自分にできる具体的な課題解決に着手し、実践活動を通じた努力を地道に継続することが重要である。
このような形で活動の輪を長期的に拡大すれば、利他の精神を土台として国家の枠組みを超えるグローバル社会の問題解決に取り組む人物が世界中に広がるはずである。
筆者とともに活動しているメンバーはこの活動を22世紀まで地道に継続し、その志を共有する人々の輪を拡大することを目指している。
それによってルールベースの国家の機能をモラルベースの「民」が補完して世界秩序の安定に寄与する時が来ることを切に願っている。