メディア掲載  エネルギー・環境  2026.04.15

化石燃料の調達多様化断行せよ

産経新聞【正論】(2026年4月10日付)に掲載

エネルギー政策

米国とイスラエルが2月末にイランに攻撃を開始し、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続いてきた。2週間の停戦合意が伝えられたが予断は許さない。

≪予断許さぬ石油危機≫

日本は石油の95%と天然ガスの10%を中東に依存してきたが、多くはホルムズ海峡経由であった。既にその積み出しが1カ月余りも滞っている。

供給量が元通りに回復するには時間がかかる。湾岸諸国のエネルギー関連設備も多くが損傷を受けたためだ。無論、この戦争が長く続けば、供給途絶も、それだけ続き復旧にはさらに時間がかかる。

イランは屈服せず、ミサイルやドローンによってホルムズ海峡を封鎖する能力を保ち続ける可能性の方が高そうだ。広大な国土と険しい地形を利用しイランはかかる非対称戦争能力を構築してきた。

停戦合意で、イランは当局との調整を通じて海峡の安全な通航が2週間可能になるとしているが、今後の展開は不透明だ。中東情勢は不安定なままであり、またいつ封鎖されるかわからないだろう。

エネルギー危機の影響は日本だけではなく、世界全体、就中(なかんずく)、アジア諸国に及んでいる。中東は世界の石油生産の3割を占めているが、その8割はアジア向けであるためだ。日本より備蓄日数が大幅に少ないアジア諸国ではすでに石油の不足が起きており、ガソリンスタンドに行列ができている。自家用車利用を制限するなどの政策対応も相次いでいる。

≪平時から供給多様化を≫

1973年度に日本はエネルギー供給の実に75%を石油に依存していた。そこに石油ショックが起き、反省からいまでは石油が35%に対し石炭が24%、ガスが21%とバランスは改善された。だがこの石油供給がほぼ中東に依存していたことは致命的な失敗であった。

いま日本政府は、ホルムズ海峡ルート以外からの石油輸入に奔走しているが、どの程度の供給が確保できるかは全く楽観できない。いざ調達先を変えるといっても、諸国との競争になる。加えて輸送するタンカーが足りない、積み出しのための港湾が足りない、原油の質が日本の製油所に合わない、といった様々な問題が生じる。

教訓は、やはり平時から取り組んでおかないと、にわかに供給源を多様化することは難しいということだ。したがって今後、中東からの輸出が再開するとしても、日本は世界各地からの調達を強化して多様化を図らねばならない。

天然ガスに関しては、いまの日本は危機的な状況にはない。世界各地に供給源を多様化してきたことが奏功した。加えて、長期契約によって安定供給を確保した。採掘事業にも投資をして、一定量のガスを現物で受け取る契約も結んできた。これと同じことを、今後は石油でも実施すべきだ。

また、日本は石炭火力をフル活用しなければならない。日本の発電の3分の1はいまなお石炭火力である。この能力を最大限発揮することは、日本の電力供給の安定に大いに寄与する。

≪脱炭素政策を廃止せよ≫

6年前に当時の菅義偉首相が2050年CO2ゼロを国の目標として以来、日本は脱炭素を最優先とするエネルギー政策を実施してきた。だが今や廃止すべきである。脱炭素政策こそが石炭と石油の調達強化を妨げるからである。

この4月からは排出量取引制度も本格導入された。これは日本の発電所や工場からのCO2排出を総量として規制するもので、かかる制度の下では、石炭火力は存続できない。また石油の利用も制限されるから、民間企業は多様な調達先を開拓する動機を失う。

これまでも政府は、脱炭素政策の強化を通じて、石油には将来性がなく需要は減る一方であるという誤ったメッセージを発し続けてきた。このことは、過度な中東依存という致命的な問題が放置される地合いを作った。

太陽光・風力の導入をすれば電気代はますます高くなる。いまなおエネルギー供給の8割を占める化石燃料こそが日本の生命線だ。

気候が危機にあるが故に直ちに脱炭素が必要だという言説は全くの非科学である。台風や大雨などの災害の激甚化などは、統計的に観測されていない。不吉な予測をするシミュレーションは、過去の再現すらできない代物である。

そしていま、世界諸国は、石油とガスの確保に奔走し、また、石炭を埋蔵する国は一斉に増産に舵を切っている。仮に日本が2050年にCO2をゼロにしても、それによって下がる気温はせいぜい0.006度に過ぎない。

石油の中東依存を放置する一方で脱炭素に邁進してきた日本のエネルギー政策は完全に失敗した。国民の安全と財産を守るために根本的な変更が必要である。それはまず何よりも化石燃料資源の多様な調達を強化することである。

原子力発電についても速やかに再稼働を進めるべきである。稼働させることによるリスクを過大視すべきではない。原発を動かさないことでエネルギーが欠乏するリスクこそがいま差し迫っている。