衆院選で圧勝した自民党の高市早苗政権は責任ある積極財政を旗印に新たな成長戦略を夏までにとりまとめる予定だ。これを機に、脱炭素に偏重してきたエネルギー政策は抜本的に改めるべきだ。
高市政権の発足以来、メガソーラーの乱開発については規制が強化されつつある。だがいまなお2050年CO2ゼロという実現不可能な脱炭素目標を掲げており、その手段として再生可能エネルギー最優先を掲げ、化石燃料の利用を罰する制度を強化している。
特に問題なのは、政府が今年4月から本格的に導入しようとする排出量取引制度である。これは全国で約400社の大企業に排出枠を割り当て、それを上回る排出をする企業には政府または他企業からの排出枠の購入を義務付けるものだ。制度の名前こそ取引制度であるが、実態としてはCO2の総量規制である。日本全体の排出削減目標が2013年度比で30年度に46%、40年度に73%、50年に100%という無謀な数値に設定されている中で、かかる総量規制が導入されるとどうなるか。
事業者はいつ排出枠を大幅に減らされて、高額の排出権購入を余儀なくされるか分からない。火力発電や、高炉製鉄、石油化学などのエネルギー多消費部門では、誰も設備投資をしなくなる。新設はおろか、既存の設備も、その維持費すら手当てされなくなる。これら重厚長大産業は、地方経済の要になっていることも多い。壊滅する自治体が続出することになる。
現行の政府エネルギー基本計画は再エネを最優先としている。すなわち2020年時点で全電力の1割に過ぎない太陽光・風力発電等を40年度には3割から4割にするという。だが天気任せの再エネを大量導入すると、間欠的な発電を調整するための蓄電池等のコストがかさむ。政府の試算通り万事順調に進んだとしても、発電コストはキロワット時あたり30円前後となる。普通の火力発電や原子力発電であればこれは10円前後であるから3倍にもなる。
これでは光熱費は高騰し経済は疲弊する。政府は脱炭素により「グリーン成長」すると唱えるが成長などするはずがない。
海外はどうか。
米国はエネルギーを安全保障戦略の柱に位置付ける。すなわち昨年11月付の「国家安全保障戦略」では、エネルギーこそ、産業振興、AI等の科学技術における優位性の確保、そして経済成長と防衛力強化といった国力の根幹にあると認識されている。
米国はいま日本の4倍の電力を消費しているが、今後10年ほどの間にあと日本1つ分の電力消費が増える見込みとされる。AIのための電力消費が莫大になるためだ。この大半は安価な天然ガス火力発電で賄われる。
他方で中国は1年間で5千万キロワットもの石炭火力発電所を建設している。これは日本の石炭火力設備の合計に匹敵する。つまり何十年もかかって日本が建設してきたのと同じ規模の石炭火力を毎年建設しているのである。
米国は天然ガスで、中国は石炭で、安定的で安価な電力を豊富に供給することで、AI競争に勝とうとしている。
米国は脱炭素を続ける欧州に対して、気候危機説には科学的根拠がない上に、自滅的な経済政策であり、中国等の敵を利するだけの「破滅的なイデオロギー」であるとして、明確に否定している。
日本も国家安全保障戦略において、その柱としてエネルギーを位置付けるべきだ。今後10年程度でAIのために電力供給を増やすには、火力発電に頼る他にないのは日本も同じである。火力発電を滅ぼす政策を続けるのでは、電気は不足し高騰して、日本は投資不適格となり、AI競争に負ける。
いま政府はCO2を排出しないエネルギー供給を実現するためとして、規制や補助金によって10年で150兆円に上るグリーン投資を実現するとしている。
だがその対象は再エネなどの高価な技術ばかりで、補助が切れると自立できずに消滅する。そもそもエネルギー供給におけるイノベーションは実現が困難である。すでに成熟した火力発電等の技術と競合するからだ。それよりもエネルギーは火力発電を筆頭に確立した方法で安定的かつ安価に供給することで、AI等の他の技術のイノベーションを実現する方が現実的だ。これがエネルギーとイノベーションのあるべき関係である。
化石燃料の海外依存が問題にされることはあるが、これは供給源の多様化や備蓄によって対処可能な問題である。太陽光や風力などの再エネの導入は、供給が不安定であるのみならず、光熱費が上昇し産業が空洞化するため、国家安全保障に逆行する。
政府は、排出量取引制度などの脱炭素政策の強化を直ちに停止すべきだ。そしてエネルギー政策を、国家安全保障の柱に据えた上で、真に成長戦略に資するよう、抜本的に見直すべきだ。