メディア掲載  国際交流  2026.03.19

中国による台湾武力統一、米国のイラン攻撃で 当面の危機は回避へ

トランプ大統領の予測不能性が「究極の曖昧戦略」を体現

JBpress(2026年3月18日)に掲載

米州 欧州・英国 中国 中東 国際政治

欧州滞在中に実感したイラン攻撃の影響

2月28日に開始された米国・イスラエルのイラン攻撃に対して、イラン側からの反撃はイスラエル、中東全域に及び、各地の米軍基地等が被害を受けている模様である。

しかし、その被害状況については中東各国および米国において情報管制が敷かれているようで、詳細な内容は報道されていない。

この戦争は筆者の2月22日から3月15日までの米国欧州出張中に始まった。欧州の友人たちから彼らの同僚や知人が中東の空港で足止めされて困っている話を耳にした。

EUの入出境時の安全確認も強化されているようで、筆者自身も3月5日に米国のワシントンD.C.からベルギーのブリュッセルに入る入国手続き、14日にドイツのフランクフルトから東京に戻る際の出国手続きではそれぞれ1時間半以上かかるなど、いつもの2倍以上の時間を要した。

特に、フランクフルトでは搭乗予定の飛行機の搭乗時間に間に合わなくなる旅行客が続出し、出境審査のための長い行列に横から割り込む人が増えた。

それを巡って乗客同士の言い争いが生じるなど、普段では見られない険悪な状況になっていた。期せずしてイラン戦争の影響を実感することになった。

米国欧州諸国の専門家、政治家の反応

米国とイスラエルによるイラン攻撃以降、筆者が面談した米国および欧州の有識者は全員がこれを国際法違反であると批判した。同時に、この攻撃を高く評価する有識者・専門家はほとんどいないと思うと語った。

ただ、一部の有識者は、全面的な批判ではなく、次のような留保条件を付言した。

  • イランが核保有に向かうリスクは世界中の多くの国々が強く懸念していた問題だったため、この攻撃によってリスクが軽減されることはありがたいという部分がある。
  • イラン国内で本年1月8日、9日に行われた反政府デモ参加者の3000人以上が当局によって殺害されたとイラン政府が発表した。こうしたイラン政府の非人道的行為を考慮すると、今回のイラン攻撃を全面的に批判するのは難しい。

この間、欧州主要国の首脳も米国に対して厳しい批判を表明することを避けている。国際法に違反していると厳しく批判したのはスペインのペドロ・サンチェス首相だけである。

仏エマニュエル・マクロン大統領、伊ジョルジャ・メローニ首相とも国際法の外にあるというマイルドな表現での批判にとどめたほか、独フリードリッヒ・メルツ首相、英キア・スターマー首相は国際法違反に関する明確なコメントを避けた。

欧州はウクライナを侵攻し続けるロシアに対抗するために米国の軍事支援の継続が不可欠である。そのためにトランプ大統領を不愉快にさせるような批判を避けているようだ。

トランプ政権の予測不能性・非整合性の実態

今後2028年、29年までに、さらに大規模な戦争勃発リスクが指摘されている。一つは中国による台湾武力統一、もう一つがロシアによる欧州攻撃である。

米国政府は昨年12月に国家安全保障戦略(NSS)、本年1月に国家防衛戦略(NDS)を発表し、その中で西半球重視の方針を掲げた。

日本ではこれらの方針によって、米国の基本戦略姿勢がモンロー主義に近づき、中国等から重点が移ることを懸念する見方が多い。

しかし、米国や欧州の国際政治の専門家の見方は異なる。

ドナルド・トランプ米大統領はそれらの文書を読んでいないし、内容に関する報告を受けていても、自分が判断を下す時にそれを考慮することはないと指摘する。

トランプ大統領の特徴は、予測不能、不確実、非整合であり、就任以来その特徴は全く変わっていない。

しかも、トランプ大統領を取り巻く閣僚級の幹部は、トランプ大統領の決定の内容が政府が発表した政策方針と矛盾している、あるいは整合的でないことを認識してもトランプ大統領の決定に反対する人はいないと言われている。

NSS、NDSはともに西半球を重視する方針を明記しているが、一方で中国に対する優位性を保持すること、台湾は米国の安全保障戦略上の重要な位置を占めていることを明記している。

日本では上記2つの国家戦略が公表されて以降、米国の安全保障戦略の重点が西半球重視にシフトしたとの見方が増えていたが、米国や欧州の専門家の間ではそうした見方は少なく、大きな変化はないという見方が大半だった。

実際にイランを攻撃するというのは、西半球重視のモンロー主義戦略と合致していないうえ、短期で戦争を終結させるという方針が実現するのは難しいとの見方が多い。

トランプ大統領は過去に米国がイラクを攻撃したことを批判していたが、その立場とも矛盾していると指摘されている。

米国内でトランプ大統領を支持するMAGA(Make America Great Again)に属する人々の一部でも、米国外の課題に力を入れるのは「米国第一」の方針に反するという批判的な見方が出てきている由。

このように公表されている国家戦略やトランプ大統領自身の過去の言動とも矛盾する政策が実際に実行されている。

この事実が上記のNSS、NDSの方針発表が安全保障戦略に影響しないことを裏付けていると指摘されている。

しかも、イラン攻撃の前にはベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を拘束するために米軍が首都カラカスを攻撃し100人以上が犠牲になった。そのうち約半数が一般市民だったと発表されている。

また、イラン攻撃では、国家元首のハメネイ師とその家族、政府の重要幹部を殺害している。

このように、トランプ政権は相手国を攻撃する時には国家指導者を直接狙うという、これまでの常識では考えられなかったことを平気で実行している。

中国の台湾武力統一への影響

以上を前提に米国、欧州では、中国が台湾の武力統一に動くのは難しくなったとの見方が増えている。

米国は従来、中国の台湾武力統一を牽制するために曖昧戦略を採用していた。

それは中国が台湾に対して武力侵攻する場合に、米軍が軍事介入してそれを阻止するかどうかを明確にしないというものである。

この米軍の不確実性は、中国にとって、台湾を武力統一するうえでの大きなリスクとなるため、武力侵攻を抑制する効果をもつ。

一方で、台湾に対しては、独立に向かおうとする場合に、米国が支援してくれる保証がないため、独立に動きにくいという効果をもつ。

このように、米国が曖昧な姿勢を維持することによって、中国も武力侵攻を思いとどまり、台湾も独立を思いとどまることによって、台湾の現状維持を確保する効果があることが期待されてきた。

しかし、ジョー・バイデン大統領はこの曖昧戦略を何度も否定し、中国が台湾を武力侵攻すれば、米軍が軍事介入すると明言した。

これに対して、トランプ大統領は第2期政権発足以来、従来の曖昧戦略の立場に戻っている。

3月31日から4月2日にかけて米大統領の訪中が予定されており、中国側がトランプ大統領に対して、従来の米国の台湾に関する立場である「台湾の独立を支持しない」という表現を変えて、「台湾の独立に反対する」と表現に変えることを要望する可能性が指摘されている(編集部注:トランプ大統領は16日、訪中を1カ月ほど延期する考えを明らかにした)。

これについてトランプ大統領がどのように対応するかは、トランプ政権内部の幹部さえ誰も予想できないと言われている。

もしトランプ大統領が表現の変更に同意すれば、中国は台湾の武力統一に動きやすくなるとの見方が多い。

しかも、現在はイラン攻撃に多くの戦力を投入しなければならなくなったため、中国に対する防備は手薄になっていると言われている。

東アジア近海に配備されていた空母エイブラハム・リンカーンが中東海域に向かい、真偽不明だが、ミサイルを被弾したとの報道もある。

こうした状況から、中国にとって台湾武力統一に動きやすい環境になってきているとの見方がある。

しかし、筆者が面談した米国や欧州の国際政治の専門家は、上記のトランプ政権の動向が中国の台湾武力統一にとって新たなリスクになっているとして次のように指摘した。

最近の米軍によるベネズエラ、イランへの攻撃を踏まえると、トランプ大統領自身がどのような行動をとるかということが予測不能であることがより顕著になった。

このため、中国政府としては台湾の武力統一に動きにくくなったという見方である。

トランプ大統領の予測不能性こそ「究極の曖昧戦略」を体現するからである。

中国の軍事力は近年急速に増強され、中国周辺の領域に米軍が近づくリスクが大幅に高まったのは事実である。

しかし、実践経験という面では、米軍は毎年のように戦闘の実践経験を積み重ねてきており、多数の兵士の命も失われている。

これに対して中国はそうした実践経験が少ない。このため、机上の作戦では台湾の武力統一の戦略遂行を描くことができても、米軍が介入した場合、実践経験が豊富な米軍と戦って確実に勝てる保証はない。

中国には従来から孫子の兵法にある「戦わずして勝つ」という考え方がベースにあり、確実に勝てる戦争以外は戦わないのが基本方針であるとの見方が多い。

こうした中国の姿勢を考慮すれば、最近の一連の米軍の予想外の展開を目の前にして、米国を安全保障面で刺激する行為のリスクは以前の想定に比べて格段に高まったと見ざるを得なくなった。

それを前提とすれば、少なくともトランプ政権の存続中は台湾武力統一の可能性が低下するのではないかと指摘されている。

これは日本にとっては好ましい方向の変化である。中国が台湾武力統一に動かなければ、日本が存立危機事態に巻き込まれるリスクも低下する。

欧州域内の危機感とアジアにおける日本の進路

現在、ウクライナ、イランを中心とする中東全体の戦争が続いており、欧州諸国はすぐ近くで2つの大きな戦争が同時進行している状況に置かれている。

このため、フランス・ドイツ・英国・イタリアなど主要国を中心に強い危機感が共有されている。

そうした事態に対処するため、ドイツでは、軍需産業の生産力を急速に向上させつつある。

つい最近まで、ドイツ国内で軍需産業企業は肩身の狭い立場にあり、武器の生産を行うのも対外公表は控えめにしていた。

しかし、現在はそうした企業が堂々と武器生産の増強に注力する姿勢を公表できるようになった。これがドイツ経済復活の新たな柱になることも期待されている。この変化にドイツ人自身が驚いている。

これに関して、欧州内には2つの見方がある。

欧州の国際政治の専門家によれば、経済面ではフランス等の軍需産業企業はドイツの競合メーカーが競争力を高め、それによって市場シェアが奪われることを懸念している。

しかし、欧州全体の安全保障戦略面では、自立的防衛力強化が急務であるため、ドイツの軍需産業の急速な拡大は歓迎されている。

ロシアが2029年に欧州侵攻を開始するとの見方が広がっているため、欧州域内の軍事力を強化し、安全保障面での米国依存の不確実性を低下させ、防衛力の自立性を高めることが急務となっている。

このように米国も欧州も足許および将来の戦争に備えて本格的に動いている。

その中でアジア域内はこうした戦争リスクが比較的小さいほか、上記のようにトランプ政権の予測不能性が中国の軍事行動を抑制する効果を持てば、リスクが一層軽減される。

以上のような難しい世界情勢の中で、高市早苗総理の訪米が行われる。

安全保障面では日米同盟の結束強化が最重要課題である一方、日本経済の安定的回復の維持も重要である。日本では、軍需産業を日本の産業発展の新たな柱にしたいという考え方は少数派である。

日本としてはアジアを中心にいかに平和を維持するかを米国とともに考え、実現したい。そのためにも、米国と並んで中国との首脳対話のルート回復も急務である。今後の高市総理の外交手腕に期待したい。