メディア掲載  外交・安全保障  2026.02.16

装備移転 生産連携の視点で

安全保障政策の課題(下)

日本経済新聞【経済教室】(2026年2月6日)に掲載

外交安全保障

<ポイント>

  • 輸出は供給持続性を左右する戦略要素に
  • 国内需要依存は防衛力の持続性を損なう
  • 完成品輸出を縛る5類型は見直しが必要



防衛装備移転をめぐる議論は、完成品輸出をいわゆる5類型(救難・輸送・警戒・監視・掃海)に限定してきた制度の再設計という局面を迎えている。この問題はこれまで武器輸出の是非という理念的な観点から論じられてきたが、国際環境の変化や日本の安全保障戦略が示す方向性を踏まえると、検討すべき論点はより広い射程を持つ。

近年、防衛産業の基盤強化が各国で重視される背景には、現代の戦場の性格変化が大きく影響している。とりわけウクライナ戦争は「過去・現在・未来」の戦争の様相が混在した形で長期化し得ることを示した。

火力中心の陸上・航空戦闘という従来型の戦争が続く一方、精密誘導兵器やミサイル・無人機を用いた現代戦の要素が前面に現れ、宇宙・サイバー・電磁波領域や民生技術を組み合わせた多様な戦闘が加わっている。今後起こる紛争でもこうした「時代の混在」が常態化する可能性は高い。

このような戦場環境では、多様な需要に柔軟に対応できる生産方式が戦略的な価値を持つようになる。

さらに、比較的安価なローエンド技術が戦場の姿を大きく変えつつある。無人機や民生技術の転用などはその代表例である。戦場の変革には先進国だけでなく、途上国や新興国を含む多様な主体が関与する状況が生まれている。

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こうした戦場の変化は、武器の国際移転の構造にも影響を与える。武器移転は長らく平時の調達計画と結び付いた市場取引として理解されてきた。しかし近年は、戦時の供給持続性を左右する戦略的要素としても位置付けられている。

ウクライナ戦争では砲弾・迎撃ミサイル・無人機・部品・火薬といった限られた分野に需要が集中し、先進国でも在庫不足に直面した。ここで明らかになったのは、完成品を輸出できるかどうかよりも、生産ラインを拡張できるか、部品や技術を融通できるか、整備や改修を継続できるか、といった点が戦略的な意味を持つことである。

日本の安全保障戦略はこうした国際環境の変化を踏まえ、同盟国・同志国との連携とともに、防衛力の持続的な強化が不可欠であると位置付けている。防衛力には装備の性能だけでなくそれを支える防衛生産・技術基盤、サプライチェーン(供給網)、人材、研究開発の持続性が含まれる。

この観点から防衛装備移転は、生産・技術基盤を中長期的に維持・強化するための制度的手段と位置付けることができる。量産効果による調達単価の抑制、供給網の維持、研究開発投資の継続は、装備移転や国際共同開発・生産と切り離しては考えられない。国内需要のみに依存することは、長期的には防衛力の持続性を損なうリスクを伴う。

日本の防衛装備移転は、こうした問題意識を背景に段階的な調整を重ねてきた。近年の運用指針改正では部品移転の一般化、修理・整備といった役務提供の拡大、ライセンス生産品の提供の拡充が進められ、装備移転は単なる売買から、国際的な生産網への参加へと性格を変えつつある。

こうした制度運用が、具体的な成果を生み始めている点も確認したい。2023年のフィリピンへの警戒管制レーダー移転は、地域の安全保障環境と日本の戦略的関心が重なり合う分野において防衛装備移転が機能し得ることを示した。

またオーストラリアの次期汎用フリゲート艦の計画で、日本の「もがみ」型護衛艦を基にした共同開発・生産が選定されたことは、装備移転の射程が設計・建造・改修・運用といったライフサイクル全体に及び得ることを示している。

ただし完成品移転に関してのみ5類型という用途規制が残る点は、制度全体との関係で再検討を要する。現在は完成品でも掃海艦・輸送艦に搭載される機関砲など、本来業務の実施や自己防護に必要な武器搭載が認められており、用途規制が実質的なリスク管理を担っているとは言いがたい。

一方で移転制度全体は、仕向け先や最終需要者の適切性、技術的機微性、第三国移転の可能性、現に戦闘が行われているか否かといった要素を複合的に審査する方向へと進化してきた。

このような制度的発展を踏まえると、完成品のみを用途ラベルで区分する構造は制度全体の整合性という観点から、再検討の段階に来ていると考えられる。

フィリピンなどの事例は日本の防衛装備移転が一定の成果を上げつつある一方、なお発展の余地が残されていることも示している。完成品移転への心理的・制度的ハードルは低下しつつあるが、研究・開発、共同生産、さらにはライセンス付与を通じた生産能力への総合的な関与については、必ずしも十分に体系化されているとは言い難い。

国際的に見れば、防衛装備移転は完成品の引き渡しで完結するのではなく、研究開発段階からの協力、生産工程の分担、運用・維持を通じた継続的関与を含むことが一般的である。とりわけ戦時の供給持続性や平時の技術革新を確保する観点からは、ライセンス付与を含む形で生産能力を共有し、相互に補完し合う関係の構築が重視される。

これに対し、日本の装備移転は完成品移転を中心に議論が先行し、生産全体への関与を戦略的に設計する段階には至っていない。研究・開発への関与、生産工程の分散、ライセンス付与を通じた市場との接続を組み合わせる視点は、今後の制度設計でより明確に位置付けられる必要がある。

この文脈で注目されるのが防衛装備移転を「生産能力連携」としてとらえ直す視点である。防衛装備移転を通じて同志国と生産能力・技術・供給網を結び付けることは、日本にとって望ましい戦略環境の形成にも役立つ。同志国の防衛力底上げで地域の抑止力は高まり、日本の防衛産業基盤も維持・強化される。供給網の共有は危機時の相互依存と予見可能性を高め、事態悪化のリスクも低減する。

生産能力連携の第一の要素は、需要集中分野における需要の束ね方である。同志国が共同で需要を提示し、複数年契約や共同調達を通じて、企業に増産投資の合理的な見通しを与えることが重要となる。

第二の要素は、ライセンス供与と分散生産である。設計主導権と品質保証を確保しつつ、同志国にライセンスを付与し、現地生産や共同生産を行うことは、供給網の冗長性を高め、継戦能力を底上げする。

第三の要素は移転後の統治である。最終用途管理、再移転規制、違反時の供給停止や制裁を、契約と制度の両面で整備し、供給に責任を持つ体制を構築する。

5類型見直しは、武器輸出の是非を問う議論ではない。国際武器移転の構造変化と日本の安全保障戦略が要請する現実を踏まえ、責任ある供給国として、同志国とともに生産能力を構築できるかを問う制度設計の問題である。平和主義の理念を尊重しつつ、具体的な制度と実務にどう反映させるのか。その答えを模索する過程に位置付けられる。