コラム  国際交流  2026.02.13

EVのリアルとリフレーミング(その3)

:ユーザー・ペインポイントの方程式(2)

米州 科学技術・イノベーション

前回はユーザーから見たペインポイントの方程式を紹介し、方定式に含まれるf(①)、「快適に安心して走行できる距離」について紹介した。次はf(②)の「充電のしやすさ」について紹介する。

今のところ、テスラがベストプラクティスを提供しているので、テスラを中心に紹介するが、これはテスラを褒め称えているということではなく、テスラが方向性を示してくれたことによって、「追いつけ追い越せ」が得意とされる日本勢に方向性を示すためである。テスラは一社で自ら自前で充電網まで構築したが、日本勢は、特に日本国内では複数社と政府が連携してテスラが示してくれたユーザー中心の方向性で走ることも検討して良いだろう。

あと、この手のテスラについての紹介を日本ですると「でも日本では状況が違う」という反論が来ることが多い。しかし、そう言っているうちに世界では中国勢のBYDと北米はテスラの充電網を他のEVも本格的に使えるようになってきているので、日本がガラパゴス化して国際競争力を失う危険性を著者は危惧している。国内ではニッチ市場だが、これが世界では王道になり、そこに出遅れたら日本企業は現在持っている市場シェアを失うことになり、それを新しく置き換える市場が取れない、というのが最悪のシナリオであり、これだけは避けたい。

そこでユーザーのペインポイントの方程式をもう一度紹介しよう。

ユーザーのペインの度合い=f(①、②、③)

①    快適に、安心して走行できる距離・時間

②    充電のしやすさ

③    今までの自動車では解決できなかったペインポイントを解消


今回は②に焦点を当てる。

② 充電のしやすさ

テスラはユーザーにとっての「充電のしやすさ」にこだわり、それまでの自動車産業では考えられなかった規模の充電インフラを自前で作り、様々な工夫を行った。いかにもシリコンバレーのアップル経験者などが開発の初期段階から携わったような作りで、かなり努力して一般的な既存のモノづくり企業(日本でもアメリカでも)によくある提供側のフレーミングに陥るトラップを避けている。(例えば日本のテレビのリモコンのボタン数とアップルやアマゾンの極端にボタンが少ない様子を思い浮かべよう。ある程度ボタンが増えると、それ以上増やすことで逆に使い勝手が悪くなるが、ほとんどのメーカー側のフレーミングだと足し算しかできず、引き算が非常に難しい。アップルは社内でいかにボタンの数を減らすかを真剣に協議する。)

話を戻すが、「充電のしやすさ」にはいくつかのコンポーネントがあり、これは方程式の①の「快適に、安心して走行できる距離」と被っているものがいくつもある。主なものを並べあげると次の通りである。

「充電のしやすさ」の主なコンポーネント
a)    チャージャーを見つけやすい
b)    チャージャーがシンプルで使いやすい
c)    チャージャーの課金方法と料金形態が分かりやすい
d)    チャージャーの状況が事前に分かり、よっぽどのことがない限り想定外の待ち時間が発生しない
- そもそも待ち時間が発生しにくく、発生してもあまり長くない
e)    チャージャーの設置場所が便利なところにある
- そもそも行きたくないところ(治安、環境など)にはあまり設置されていない
f)    チャージャーの周辺に何があるかが事前に見える
g)    これらの多くの項目を実現するため、充電スポットの数が豊富にある



これらの項目はチャージャーの特徴であり、EV自体の特徴ではないと考える業界関係者はいるかもしれないが、ユーザーの視点から見るとEVに乗るということはチャージャーが生活の一部になることなので、両者は切っても切れない関係である。

アメリカにおけるテスラユーザーにとっての長距離移動は全くと言って良いほど充電に困らない。ナビに入れると目的地に辿り着くための充電スポットが全て表示されることは前回紹介した通りだ。しかし、いざ充電スポットに辿り着いても、非常に面倒な作業だったらペインが徐々に積み重なっていく。

ここで大事なのは、一度でも非常に高い「充電のしやすさ」を体験すると、元には戻りたくないという心理である。(近年のイーロン・マスクの政治に関与する行動や言動に嫌気がさし、テスラではないEVを検討したい人も、一度テスラの充電のしやすさを体験すると、なかなか他を考える気になれないという感覚が逆にシリコンバレーでの多くのユーザーのペインポイントだった。)

a)    チャージャーを見つけやすい

チャージャーを見つけやすいというのは前回紹介した通りで、常に車の大画面で確認できる写真を紹介した。それに加え、数年前からスマホのアプリにも自分の車がどこにあるのかを確認する機能が加えられ、その画面にスーパーチャージャーが見えるようになっている。車からもスマホからも確認できるので、見つけやすい。しかも空いている数を示しているのでユーザーにとって大事な、稼働していて、空いている、すなわち「今すぐ使えるチャージャー」が見つけやすいわけである。

アプリの画面でチャージャーをクリックすると価格などの情報が出るほか、「send to car」というボタンで、車のナビに目的地として送信できる。これは自宅やレストランなどの外出先から、車に乗る前から操作が可能なので、充電しやすい。そして近くにあるチャージャーもリストアップしてくれる。

アプリの画面で空いているチャージャーが確認できる

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余談だがアプリのこれらの画面は最初から付いていたわけではない。ある日突然、自分の車がどこにあるのか、という「Location」というボタンがアプリ内に現れた。そしてそれから1、2年後にアプリ内の地図にチャージャーを表示させるボタンが現れ、リアルタイムでチャージャーの空いている数が見られるようになった。そしてそれから少しして、チャージャーの表示にタッチすると詳細が出るようになった。これは定期的にユーザーがアップデートするのではなく、ある日突然新しい機能がついていた、という流れだった。

下記のアプリのスクリーンショットでは、アップル本社の近くにあるCupertinoのチャージャーがいっぱいで、5分弱の待ち時間が発生しているという表示がある。これを見たら、ユーザーとしては、今すぐ充電したいならまずそちらには行かずの別のところへ行くという選択肢が事前にあるわけだ。(最も近いのは11台空いているという表示がある)

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あるいは、急いでいなくてもここのチャージャーの近くに用事がある場合は、別の機会に行くかもしれない。または、今そこにどうしても行きたくて、どうしてもそこで充電したい場合は、多分5分弱の待ち時間が発生するということを事前に知ってから行くわけである。どのくらい遠いところから行くのかによっては、近づいた頃には空きが出るかもしれない。でも、絶対に起こらないのは「あれ、辿り着いたらいっぱいだった!しかも待ち時間がどのくらいなのかが分からない!」というEVユーザーにとって非常に深いペインポイントである。

著者はテスラに乗り始めてから6年になるが、テスラのチャージャーに辿り着いても想定外に満車だったということを体験したことがない。でも、もしそんな体験を多くしたらユーザーは「EVの課題」と感じるかもしれない。しかし、それはあくまで「EVチャージャー網の課題」と「チャージャー網とEVとの連携の課題」である。もちろん、ユーザーから見ると両方が課題だが、自動車メーカーが「EVの性能だけが管轄で、充電網は領域外」というフレーミングだったら、ユーザーとしてはEVのペインポイントが深いのは当たり前である。

b)    チャージャーがシンプルで分かりやすい

これまでテスラが世界に設置した8千箇所、7万5千台以上のスーパーチャージャーのほぼ全てが本体には画面もボタンもなく、充電用ケーブルがあるだけのシンプルなものである。(ヨーロッパで先行しているサードパーティーが使えるスーパーチャージャーには小さな画面が付いているものがユーザーによって発見されているが、それでもシンプルな作りとなっている。)

72kWのUrban charger、主にショッピングセンターやスーパーの駐車場に設置

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150kWと250kWのバージョンがあるv3

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2023年に正式発表されたv4は依然としてシンプルだが、小さな液晶画面とICチップ入りのクレジットカードが読み取れる。325kWと500kW版がある。

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使い方だが、ユーザーが行うべき行動はケーブルを手に取り、車に近づけて充電ポートを開け、差し込むだけである。それで充電が開始する。これ以上シンプルで分かりやすい使用方法はないというぐらいシンプルで分かりやすい。

チャージャーのケーブル先端をポートに近づける。

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親指のところにあるボタンを押すと車側が認識してポートが自動的に開く。

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あとはポートに刺すだけで、他には全く何の操作も必要がない。

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充電が終わったらケーブルの手を持つところのボタンを押してリリースし、ケーブルをもとに戻して走り去るだけである。支払いは、車を買った時点で作ったテスラのアカウントに登録されているクレジットカードにチャージされる。

テスラはチャージをするプロセスの全てがユーザーにとってこの上なくシンプルなのである。プラグを指すだけで充電が始まり、チャージャーのボタンを押して車がプラグをリリースしたらそのままプラグをチャージャーに戻して走り去るだけである。このユーザー・エクスペリエンスに慣れると、他のEV充電設備やガソリン車の給油プロセスは面倒でしょうがないという感覚を毎回覚える。

充電プラグの大きさも重要である。テスラが独自開発した規格はアメリカで同社が桁違いに多く普及させたこともあり、勝手にNorth America Charging Standard (NACS)と名付けてその規格をオープンにして正規の規格団体の当初の反対を押し切って規格にした。ユーザーにとってプラグが小さくて持ちやすいのは、それまでの規格と比較すると非常にわかりやすい。テスラが作った規格は設計上、高速充電はそれまでの規格よりも遥かに早いもかかわらず、とても小さなプラグになった。2026年に北米で発売されるEVのほとんどはこのNACSチャージャーに対応する。

CHAdeMO

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CCS

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NACS

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テスラの充電ポートの話に戻ろう。実はこの充電ポートの開け方は複数ある。1) チャージャーのケーブルを車の後部ライトの下に隠れている充電ポートに近づけ、ケーブルの先端部分にあるボタンを押す。すると車の充電ポートが自動的に開き、ケーブルを差し込む。モーター式なのである。ケーブルは手に持つところがちょうどボタンの配置になっているのでとっても簡単である。

この方法に加え、2)車内の画面表示からも、3)スマホのアプリからも開けられる。さらに、4)充電ポートのふたに直接手を触れて少し押し込むとフタのモーターが稼働して開く。

車内の画面

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スマホアプリの画面

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この感覚に慣れると、ガソリン車は給油口を開くために専用のレバーがあり、これがメーカーや車種によって異なるところに設置してあり、慣れてない車に乗ると探さなくてはならなかったり、床などの届きにくい所にあるのがユーザーにとってペインポイントであるという感覚になる。

面白いことに、ハードでは徹底的にシンプル化を図り、色々なところでコストも下げているテスラが充電ポートの蓋をモーター式にしている。蓋の閉め忘れは絶対に起こさないという、もしかしたら安全面の考えもあるかもしれないが、ユーザーにとって、ワンステップ手間が省けるわけで、この観点でも「充電しやすい」と言えよう。そして充電の回数はガソリン注入の回数よりかなり多いので、ユーザーにとってペインポイントをできるだけ下げるのがより重要となる。

ちなみにテスラのチャージャーポートのカバーは小さく、上に開く。他社のチャージャーポートは、ガソリン注入口のカバーと同じような形状になっているため、かなり大きく感じる。ガソリンスタンドではカバーの蓋が多少出っ張っていても全く気にならないが、EVの場合、特にゆっくり充電する立体駐車場などでは何時間もチャージャーを挿入した状態になり、しかも、狭い駐車スペースで横を抜けて充電器の操作に向かう人の流れを考えると、出っ張っている蓋は心配になってしまう。うっかり隣の車や自車のチャージポートに体や洋服、リュックやカバンなどを引っ掛けるのが怖い、という感覚を覚える。こういう小さなペインも、実はテスラの小さな充電ポートのカバーが本体からほとんど出っ張らないから始めて気づき、一旦それに慣れると他のチャージャーポートがユーザーにとってペインとなる。

チャージャーポートの出っ張り具合が心配になってしまう

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テスラのチャージポートのカバーは小さく、上に向かって開くので引っ掛ける心配が少ない

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左の車のチャージャーポートは大きく開くため、両者の間を抜けようとすると体や持ち物で引っ掛けてしまうのが怖いという感覚を覚える。

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他社のチャージャーと比較すると分かりやすい。

EV自動車の性能や使い勝手がいくら良くても、ユーザーのEV体験には充電も含まれるので、EVへの不満をユーザー調査などした結果では、ユーザーの充電体験が不満の多くを引き起こしていた。 この場合、ユーザーの充電体験のペインポイントを取り払ったEVメーカーが強いのは当たり前といえよう。この発想をテスラは最初から導入した。

c)    チャージャーの課金方法と料金形態が分かりやすい

EV充電の料金体系は分かりやすい方がユーザーにとってのペインは低い。当たり前に聞こえるが、実はアメリカの場合、テスラ以外のチャージャーは料金体系がかなり複雑で、ユーザーにとって料金とは別軸のペインポイントとなっている。それぞれ充電網オペレーター、例えばChargepoint, EVgo, Electrify AmericaやPowerflexはそれぞれ専用のアプリがあり、料金形態やメンバーシップ、サブスクリプションなどの形態がそれぞれ異なるが、相互に使えるものもある。それぞれにはメンバーシップがあり、クレジットカードを登録してメンバーになると少し安くなったり、通勤用のサブスクリプション制度があるものもある。そしてこれらの充電網オペレーターのアプリをまとめて見られるPlugShareというアプリもある。これはテスラのスーパーチャージャーを含め、上記の会社全ての充電器が見えて、支払いもできるはずとなっているが、充電器によってはPlugShareに加入してないところもある。

そしてクレジットカードを登録しておく場合、事前に15ドルや20ドル単位のプリペイド枠で登録する必要がある。さらに、先日、著者の受信フォルダーにはChargepointからメールが入っており、新しい料金体系には「繋げるだけで$0.25」という新しいチャージが課せられるという通知だった。

ユーザーから見たら、繋げるだけで料金を取られるよりも、使った電力の分だけチャージされた方が気持ち良い。繋げるだけで料金が取られるのであれば、無意識にも繋げる回数を減らしたくなってしまう。でもそうすると、たまたま生活の動線上にあるチャージャーに迷わず繋ぐのではなく、結構電力を消耗してから一気に充電しようというインセンティブとなる。しかし、それではチャージャーに繋げる時間が長くなり、バッテリーの残り電力が少なくなってから慌てて探さなくてはいけない状況が増えてしまう恐れがある。もちろん、Chargepointは会社として充電器の運営で成り立っているので、こうした繋げるだけで利益になる料金体系は経営側にも株主側にも喜ばれる。しかし、ユーザーは全く嬉しくない。

しかも料金表示に「1kW $0.30」、或いは「1時間$4」と書いてあっても、実際には繋げるだけで料金が発生するとユーザーに取って面白くないだけではなく、それを機械側で明記していないこともある。

そしてEVgoのPlusMaxというサービスでは、毎月$12.99払えばkWごとの料金が最大30%安くなり、接続料金もかからない。毎月$6.99のプランだとkW単位の料金が15%引きになる。サブスクリプション無しだと、割引もなく、繋げるたびに$0.99の料金がかかる。

EVGoの充電サブスクリプションのメニュー。注意すべきなのは、「月最大30%」という表記で、実際にkWごとに30%引きになるとは限らないが、それらしい表記になっていることで、もっと掘り下げて詳細を見ないと分からないということがユーザーに取ってペインポイントである。

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ユーザーからすると、オプションと料金形態があまりにも多すぎて、いつどう変わるか分からないので、その理解がペインポイントである。

しかし、テスラの場合は繋げた分だけkW換算での料金となり、事前に車内の画面やアプリでどのチャージャーの情報もいつでも見える。この上なく分かりやすい。

著者のオフィスに最も近いチャージャーは$0.53/kW。夜9時以降から午前8時までは$0.30に下がるが、これが一目で見える。スーパーとスタバの隣にある。

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こちらはパロアルトのダウンタウン、ビジネスやレストランが並ぶところの立体駐車場(無料)の中にある。混み具合によっては$0.53まで行くが、$0.35まで下がることもあり、午後3:51の時点では$0.47だった。

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イースト・パロアルトのスーパーチャージャーはIKEAや大型ホーム
センターの隣にあり、平日の日中は料金が$0.35と安くなっている。

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上記のように、時間で値段が変わるところと混み具合によって値段が変わるところがある。これは比較的最近導入されたスキームで、昨年の途中までは全てが時間による料金設定だった。どこかのタイミンングで繁華街や大型店舗があるエリアでは混み具合に沿った料金に変更された。でも、どちらであってもユーザーには一目で分かるのが大事である。(このダイナミックプライスのおかげで、著者のようなユーザーだったら、用事を済ませる時に近くのチャージャーが最も安い料金になっていたら「お!ちょっと寄って得しよう」という気分にまでなり、充電というものが楽しくなってしまうぐらいである。溜まったメールと書くべきコラムの原稿はいくらでもあるので、ちょっと寄って空調がかかった空間で充電中に一仕事するのもありの世界で、これは上記のEVペインポイントの方程式での③、「今までの自動車では解決できなかったペインポイントの解消」で、自動車がモバイルオフィスとして使える空調空間になる例だ。)

むしろガソリンスタンドでは、どのガソリンスタンドがいくらなのかを事前に調べるのはGoogle Mapなどのアプリを使えば分かるが、通常の車の車内ナビなどには料金まで入っておらず、頻繁に変動するため、テスラのEVチャージャーを使う方がガソリンを注入するよりも値段がわかりやすく、ペインポイントが低いと言えよう。

ちなみに、ユーザー視点から見て大事なポイントだが、分かりやすい価格と料金形態は「変えてはいけない」ということではなく、変えても分かりやすく、理解しやすいということである。

「充電のしやすさ」はまだ日本では広く体験できないので、ポイントd)から先は次でさらに紹介する。

つづく