背景と問題意識
日本政府の気候変動・エネルギー政策は、「なぜ社会全体で取り組むべきか」という根本的議論が不足しており、2050年カーボンニュートラル達成という数値目標や具体策が先行している。欧米では気候変動を「社会全体の課題」として多角的に議論してきた歴史があるが、日本では産業競争力重視のGX政策が中心となり、気候変動の社会的影響や他の課題との関係性が十分に検討されていない。
欧米の主要なナラティブにみられる「向き合い方」
欧米や国際社会では、気候変動がどのような問題であり、なぜ社会全体で取り組むべきか、すなわち気候変動への「向き合い方」について、多様なナラティブが展開されてきた。その一部を例示する:
- 「環境問題」を超え、安全保障、経済、世代間倫理を含む社会全体の課題(“Climate Security”, existential threat, “Fridays for Future”, poly-crisis, threat multiplier など)
- 社会生活や経済活動の基盤としての地球システムの保護(Planetary Boundary論など)
- 経済成長の両立、経済を犠牲にしない/活性化させる気候変動対策(Green Growth, Green Economy, 米Inflation Reduction Act、EU Clean Industrial Deal)
これらに対しては、問題の過度な焦点化による、他の社会課題や民主的意思決定プロセスの軽視、根本的な社会構造改革の欠如など、様々な批判も存在する。
日本の現状と課題
GX政策は実質的に産業政策であり、環境省などの他省庁政策との連携が不十分である。そもそも日本では以前から環境政策が構造的に弱く、対処療法的な技術導入に偏りがちであることが指摘されている。
「世界と足並みを揃えて排出削減」そして「産業競争力強化」を前提とする向き合い方を続けることには、いくつかの問題が考えられる。いずれも、日本について繰り返し指摘されてきた課題である。
- GX産業に関わる企業以外にとって、諸政策の意義が不明瞭
- 国際社会の足並みが崩れたときの指針喪失
- グリーン開発競争での敗北リスク
- 重要な社会的価値を守る能力の欠如
- 排出削減対策の副作用(格差の拡大や、自然・文化・生活への負の影響)への対応の遅れ
- 縦割りの取り組みによる非効率性
- 技術開発の自己目的化
本プロジェクトの目的
本プロジェクトは、日本社会の文脈で「気候変動がなぜ、どのように日本社会にとって問題なのか」を考える実験的・試験的な試みである。エネルギー・気候変動分野の若手専門家を中心に、「文系的」知見も学びながら、多角的に気候変動の問題性を再考する。本プロジェクトの成果として、以下が期待される:
- 気候変動を「排出削減問題」に限定したり、数値目標や競争的論理に囚われたりすることなく、日本社会の多様な課題との関係性の中で捉え直すような大局的な議論の呼び水となること。
- 社会の分断や排除、社会的弱者への偏った影響等の観点で、日本の気候変動・エネルギー政策の社会的受容性を改善するための示唆を得ること。
- 日本の気候変動・エネルギー政策の有効性や長期的な安定性を改善するための示唆を得ること。
- 様々な専門分野と気候変動の関わりについて、知見を深めること。
- 専門分野に関わらず重要な論点や共通する論点を明らかにすることで、専門性に関わらず、市民社会として議論すべき論点について示唆を得ること。
具体的な活動計画
1.若手研究者・有識者による研究会/ワークショップ
- オムニバス形式で多様なテーマを検討
- 主催者や外部講師による情報提供とディスカッション
日英両言語での成果の発信
2. デジタルコンテンツ(動画やパンフレット)の作成
- 気候変動をめぐる欧米や国際社会の議論や、日本社会で考えるべき問題を解説
- 専門性に関わらず理解できるような表現を目指す
- 各国の気候変動政策の背景にある歴史的経緯や価値観、議論の紹介
主要テーマ(暫定)
- 気候変動にまつわる表現と言葉の問題
- 知識・研究・専門性のあり方
- ジェンダー問題との関わり
- 「環境」の位置づけ(環境に対する価値観、権利、風土論の視座)
- 世代間倫理や長期的意思決定の問題
- 「責任」の定義
- 国家と経済(金融や公共事業と世代にまつわる問題)
- 認証や信頼性・保証の問題
- 各国(欧州、米国、中国、ロシア等)の気候変動問題への向き合い方
コンセプトペーパーを読む
気候変動とそれに関係する諸課題に、日本社会はどう向き合うべきか
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