ワーキングペーパー グローバルエコノミー 2026.01.28
本稿はワーキングペーパーです。
本稿は、国債の無限借り換えに関する理論的分析である。既存の分析では、世代重複モデルにしろ、無限期間タイプのモデルにしろ、国債の無限借り換えの基本的なロジックは有名なDiamond (1967)の論文に基づいている。すなわち、Gを経済成長率、Rを安全金利としたときに、ある条件下では低金利となり、均斉経路上(balanced growth path)でG>Rとなる。すなわち、パレート非最適な均衡が出現する。そのときにのみ、国債の無限借り換えが可能になる。モデルによって様々なバリエーションがあるものの、これが基本的なロジックである。
他方で、McCallum (1987)が39年も前に指摘しているように、実は土地がある経済では、そもそも均斉経路ではG>Rは起こり得ない。なぜなら、G>Rとなると、地価が無限大となり、均衡それ自体がそもそも存在しないからである。言い換えると、Diamond (1967)のように、土地があたかも存在しない仮想的な経済を考え、その仮想経済の均斉経路において、たとえG>Rになったとしても、同じ状況下で、ほんの少しでも土地が入ると、土地の存在それ自体がその条件をひっくり返し、均斉経路ではR>Gとなる。土地がある経済では、均斉経路ではパレート最適になる。これがMcCallum(1987)の主要メッセージである。このことは、土地の存在を考慮に入れない既存の国債の無限借り換えの分析は、土地の存在によってその主要結果が非成立になることを示唆する。言うまでもないが、現実には、土地は常に存在しており、その存在が分析結果に決定的に影響を及ぼす場合には、その存在を無視することはできない。本稿では、土地がある現実の経済を考え、国債の無限借り換えが可能かどうかを理論的に検討する。
本稿の主要メッセージは三つある。一つ目は、土地の存在を考慮に入れると、国債の無限借り換えに関して、有名なDiamond (1967)とは著しく異なる見方が得られる。具体的には、十分な低金利になると地価バブルが均衡一意の結果として必然的に発生し、パレート最適な均衡が達成される。パレート最適にも関わらず、このときに国債の無限借り換えが可能となる。二つ目は、土地がある経済においても、パレート非効率な均衡が存在しえる。McCallum(1987)は実はナイフエッジの一点を見ていることを示す。パレート非効率な均衡が出現する場合であっても、地価バブルが発生しパレート最適な均衡下において、国債の無限借り換えが可能となることを示す。三つ目は、国債の無限借り換えが可能となる土地経済の特徴は、異なるセクターや生産要素が異なる率で成長する不均斉成長経路(Unbalanced growth path)であることを示す。
なお、論文のIntroductionの最後に指摘している点であるが、次の点も言及しておこう。本稿は、標準的で素直なマクロ理論に土地を入れただけが違いで、上の三つの主要結果を導いているが、次のことを否定しているわけではない。すなわち、様々な現実的な要因を入れモデルを複雑にすることで、土地が存在する均斉成長経路であっても、G>Rとなりえる場合があるかもしれない。しかしながら、その場合には、そもそもMcCallum(1987)が指摘する土地の重要な特性が満たされないだけでなく、そもそも国債の無限借り換えが可能かどうかの条件が、既存分析が導いている単純なG vs Rの関係式にはならないだろう。摩擦や市場の分断の入れ方に応じて、国債の無限借り入れの条件がその都度変わるだろう。このことが示唆しているのは、土地が存在しない仮想経済を考えて、国債の無限借り換えが可能かどうかをG vs Rに関係付けても、その結果に一般性はないことを示唆する。一貫した理論構築には、土地の存在を明示的に考慮に入れ、その上で、一般性を持つ結果を導くことが重要になると言って良いだろう。本論文の分析はその方向への最初の一歩と言える。
ワーキング・ペーパー(26-002E)Land, G versus R, and Infinite Debt Rollover