コラム  国際交流  2026.01.09

『東京=ケンブリッジ・ガゼット: グローバル戦略編』 新年号 (第201号・2026年1月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない—筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

欧州・英国 国際政治

謹賀新年、2026年最初の海外情報を読者諸兄姉にご報告する。

世界情勢を俯瞰してみた時、年初から平和と繁栄の貴重さを痛感する。英Financial Times紙の社説は12月30日、“The Human Cost of a World Without Rules”と題し、現在の乱れた法秩序の下で多くの人々が苦しんでいる事態を報告している。世界に“親切心”や“愛情”が多くの人々の心に再び満ちてくるよう、一人ひとりが自らの得意とする分野で努力を続けなければならない。

小誌前号でも触れた12月初旬開催の「2025国際ロボット展(International Robot Exhibition (iREX2025)」は最新のロボット関連技術—humanoid robotsやAI-enabled robots—を垣間見る良い機会だった。673の出展者が参加し(そのうち海外からはiREX史上最多の140社・団体)、累計来場者は約15万6千人だった。12月4日最後のパネル討論会は午後4時半開始だったが、来場者席が殆ど満席で、司会を務めた筆者はホッと胸をなでおろした次第だ。3日夕刻に開催されたレセプションでは、経済産業省(METI)や日本ロボット工業会(JARA)の方々に加えて、中国からの参加者、更にはフランクフルトから訪日した国際ロボット連盟(IFR)のスザンネ・ピーラー事務局長と言葉を交わす事が出来て喜んでいる。

12月20日、Stanford大学から或る情報が届いた—書籍(The Digitalist Papers: The Economics of Transformative AI, Volume 2)の公表である。Transformative AIとは政治経済社会の変革を誘導するAIだ。2023年7月18日、国連安全保障理事会でAIの初会合が開催されて、司会を務めたジェイムズ・クリヴァリー英国外相は、AIが「人の生活のあらゆる側面を根本的に変える(fundamentally alter every aspect of human life)」と語り、「AIは国境を認識しないが故に、変革を誘導する技術に関するグローバルな統治を早急に形づくる(shape the global governance of transformative technologies because AI knows no borders)」必要性を強調した。現実的な話として、軍民両用技術(DUT)でもあるAIは各国の間で開発競争が進んでいる。その証拠に2023年7月23日、米空軍は3時間に及ぶAI無人戦闘機(XQ-58A Valkyrie)の飛行実験に成功している。

米国史に詳しい人なら直ちに理解出来るが、The Digitalist Papersの名は、建国時にマディソン等が憲法成立に関し、ペンネーム(Publius)で著したThe Federalist Papersに因んでいる。2024年9月に公表されたThe Digitalist Papers第1巻に続いて、第2巻ではStanford大学のブリンニョルフソン教授をはじめ、Toronto大学のアジェイ・アグラワル教授やMITのディヴィッド・オーター教授等が著した21論文が掲載されている(参考までに、論文のタイトルのリストを小誌PDF版に示している)。

日進月歩であるAI・ロボット技術に関し、先月も引き続き悲観論・楽観論の両論が混在していた。筆者は技術者ではないが、当該技術の社会実装を考案・設計・提案する事に関し、多様な分野の専門家と議論している。従って悲観・楽観に関する判断は差し控える一方で、如何なる組織・制度がAI・ロボット技術を導入していくか、という視点から考察を加えている。こうした視点に立ち、先月議論した情報を分類すると、概ね次の7つの分野に分ける事が出来る(PDF版2を参照)。

経済の領域では①AI・ロボットが労働市場に与える影響、②AIがバブルであるか否か、またバブル崩壊は近いか否か、③AI・ロボットが企業組織を如何に変えているか、という3分野。次に技術の領域では④米中間の技術開発競争の将来、⑤Humanoid robotsの技術は既に社会実装可能な水準に到達したか否か、⑥欧州諸国の技術開発上の問題、⑦DUTであるroboticsが既に実戦配備の水準に達している状況、という4分野。⑦に関し12月にウクライナ軍が、厳重警戒下のノヴォロシスク露軍港内に停泊中の潜水艦を水中drone (UUV ‘Sub Sea Bay’)で撃沈したとの報道は衝動的だった(PDF版2を参照)。

12月5~17日、仏独英の順に訪問し、政治経済そして技術政策に関して友人達と意見交換を楽しんだ。

最近は海外との情報交換がonline中心になったが、やはりワイングラス片手に親密な(tête-à-tête)形で行うと情報交換の質量共に一段と向上する。加えて出張先の書店に立ち寄り、日本では発見しづらい本を見つける事が出来るため、情報収集の成果が格段と上がる。

Parisでは生誕百年・没後30年の哲学者ジル・ドゥルーズの本を見つけ、Berlinでは没後50年のハンナ・アーレントの本や浮世絵師の北斎を敬愛した生誕150年の詩人リルケの本を発見した。またLondonで生誕250年のジェーン・オースティンや今月没後50年を迎えるアガサ・クリスティの書籍を発見して喜んでいる。こうした書籍は最新ではないが、友人達との会話の中では重要な役割を果たす。

またドイツでは書店で発見した次の近刊書に関し、面談した際に友人達の解説・評価を聞く事が出来た(紙面の制約上、書名だけを記す)。①ミュンヘン連邦軍大学(UNIBW)教授が著したロシアによるウクライナ進攻の展望(Wenn Russland Gewint: Ein Szenario; 仮訳「ロシア勝利の時: シナリオ」昨年3月発売。米Foreign Policy誌は同書の英訳版をChristmas Seasonに読む事を推奨)、②NATO国防大学(NDC)調査部長・欧州安全保障研究所(EUISS)副所長を務めた専門家による展望(Szenario: Die Zukunft steht auf dem Spiel; 仮訳「シナリオ、将来は非常に危険」昨年11月)、③革新的政治家とHumboldt大学教授が著したドイツの現状分析(Der große Umbruch: Ein Gespräch über Krisen, Konflikte und Kompromisse; 仮訳「大変革: 危機、対立、そして妥協」昨年10月)、④歴史学者による国内東西分裂史(Die Übernahme: Wie Ostdeutschland Teil der Bundesrepublik wurde; 仮訳「吸収合併: 如何にして東独は西独の一部となったか」昨年7月)、⑤ロシアによる侵攻作戦まで「武力行使は弱さの証拠」と筋金入りの平和主義者であったウクライナ系のドイツ人ジャーナリストによる戦況報告(Für euch würde ich kämpfen: Mein Bruch mit dem Pazifismus; 仮訳「君達のために戦う、平和主義との決別」昨年10月)(紙面の制約上、その他の本は省略する)。

米国政府が12月4日に公表した安全保障戦略は欧州諸国で大々的に報道された。独Frankfurter Allgemeine Zeitung紙は直ちに、欧州に関連する部分を全訳して読者に伝えた。一方、欧州の友人達は米現政権の“America First”戦略として不本意だが甘受する考えを示している。だが、小誌11月号でも記した通り、欧州最強国のドイツは現在の経済状態の下で、軍事的に強くなれるかという疑念がある(これに関し、PDF版2のForeign Affairs誌の“Can Germany Be Afford to Be Europe’s Protector?”を参照)。また筆者は友人達に対し次の様に質問した—「2007年ミュンヘン安全保障会議(MSC)でメルケル首相(当時)は露大統領の真意を感知したと、自伝に記している(小誌2025年1月号参照)。その時に伝統的“東方政策(Ostpolitik)”である“貿易を通じた変革(Wandel durch Handel (WdH))”の破綻は予見されていたのではないか?」。友人達の返答は次の通り—「聡明な彼女は覚悟していた。だが、ロシアのエネルギーを必要とする産業界と一般大衆がWdHの継続を望んだのだ。仕方がないよ」。

英国出張時、日本・欧州の経済と終戦80周年を迎えた第二次大戦に関し友人達と意見交換を行った。

London及びOxfordでは、日本及び欧州諸国のinnovation policiesについて議論した。17日に帰国した後も、AI・ロボット技術を念頭にして昨年11月28日に公表されたOECDの報告書(“Artificial Intelligence and the Labour Market in Japan”)を中心に議論した。同報告書は国際的・国内的な比較をする際、英国滞在の様々な国の友人達と議論するのに役立った。ただ、報告書の内容は日本にとって必ずしも芳しくない。AIを使用する従業員比率を国際比較すると日本は著しく低い。先導的役割を果たす金融・保険分野において、また製造業分野においても国際的に著しく低い。日本国内の地域別に見ると、南関東・近畿は比較的高いが、北海道が驚くほど低い(PDF版の図1~3を参照)。今後は、国内の友人達と共にAIの普及のために新しい解決策を議論する事にしている。

12月11日、独連邦統計局(Destatis)が人口動態統計を公表した。日本と同様、高齢化と人口減少が問題視されている(PDF版2を参照)。友人は、英国は幸いにも人口増加傾向を維持している。しかし、それは移民の寄与に依ると同時に、それを起因とする深刻な社会問題が顕在化している事—特にEU圏以外の人々の流入急増による賃貸住宅問題と英国民との文化的摩擦—も追加的に語った。

友人達に対し筆者は次の様に述べた—「ボクも少子高齢化は以前から指摘してきた問題だが、それよりもinnovation strategiesの方がより一層深刻な問題だ」。そして碩学吉川洋東京大学名誉教授の著書『人口と日本経済』を引用しつつ、“一人当たりの所得”を高めるinnovationこそ重要である、と語った。余談だが、吉川先生は本の中で、1931年、東京帝国大学で河合栄治郎先生や東畑精一先生と共にシュンペーター先生が映っている写真に触れておられる。筆者は、学生時代にシュンペーター来日に関し高田保馬先生の記述だけしか知らなかったため、興奮した事も語った。吉川先生は同書の中で「人口が減っていく日本国内のマーケットに未来はない、という声をよく耳にするが、超高齢社会に向けたイノベーションにとって、日本経済は大きな可能性を秘めているのである。残念ながら、現状では日本企業は退嬰的だ」と記されている。

そして筆者はシュンペーター先生が著書(Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung)の初版で述べた言葉を引用した—「既存の働き方の枠内だけで自由な意識的選択が行われ、単に理性的と考えられる行動が存在する。こうした方法では“新しいもの”は決して創造されない(Nur innerhalb dergegebenen Arbeitsmethoden herrscht völlig freie bewußte Wahl und liegt einlediglich vernunftgemäß zu begreifender Handlungsspielraum. Auf diese Art wirdnie "Neues" geschaffen.)」(初版(1912)。巷間知られているのは1926年の改定された第2版とその英訳)。即ち我々が“新しいもの”を生み出すために、静態的立場からは一見非理性的に映るinnovation processを開始する時、ケインズ先生が語る“animal spirits”を必要としているのだ。

英国最後の日、St. James Squareに在る海軍・陸軍将校用会員制クラブ(the Naval and Military Club、通称the In & Out)で友人と会食した。The In & Outに向かう直前、近くに在るFortnum & Mason本店に入ったところ、不景気など全く感じられないspending spreeを目撃して、まさしく英国版K-shape Christmasを体感した(米国版の“Happy K-shape Christmas”については、PDF版2のFinancial Times, Dec. 21を参照)。

The In & Outはチャーチルが頻繁にお酒を楽しんだ所だ。友人とは、チャーチルの鋭い戦略眼と悲惨な作戦計画立案能力を語り合った。チャーチルはヒトラーとの対決に備えてスターリンと同盟を組み、“悪魔とさえ手を結ぶ”戦略を採った—しかも大戦後のスターリンの勢力拡大を危惧し、欧州大陸での砦となる国としてフランスを—1940年の敗戦後Vichy Franceが枢軸側であったにも拘らず—戦勝国側に入れたのだ。一方、彼の作戦家としての能力は絶望的だ—大英帝国参謀総長(CIGS)のアランブルック元帥はチャーチルを「彼は(専門知識の)詳細を知らず、(作戦の)全体像の半分しか頭に入らない(He knows no details, has only got half the picture in his mind)」と表し(小誌第92号(2016年12月))参照)、そして英国の防空担当のダウディング空軍大将は、the Battle of Britain直前、首相の指示に猛反対して撤回させている。またアイゼンハワー元帥に対するチャーチルの行動に関し、或る歴史家は「軍事問題に関する最悪の素人的介入(amateur meddling in military affairs of the worst sort)」と評している。

次に今年3月、Harvard University Pressから発売予定の書籍(Tojo: The Rise and Fall of Japan's Most Controversial World War II General)に関する話題に移った。筆者は同書を未だ読んでいないため、読了後にメールで感想を述べる事を約束した。その代わりに、東條首相の幼馴染である駐独大使の大島浩陸軍中将について語り合った。英国諜報部の資料に依ると、大島大使は、当時の帝国軍人の中でもすこぶる陽気で、独軍将校と仲良くしていたらしい。だが、独軍の優れた将官の記録から大島大使に関して好意的な描写を筆者は未だ発見していない。

事実、ヒトラーは1942年1月7日、「我々ドイツ人は日本人に親近感など抱いていない。彼等は文化も生活様式も余りにも我々と違っている(Zu den Japanern haben wir keine inneren Beziehungen. Sie sind uns in Kultur und Lebensform zu)」と語り、シンガポールの戦いの直前、ゲッベルスは「当然の事として総統は白人が東アジアで被る多大なる損失を深く後悔しておられる(Der Führer bedauert natürlich sehr die schweren Verluste, die der weiße Mann in Ostasien zu erleiden hat)」と1月30日の日記に記している。そして2月15日のシンガポール陥落後、或る外交官は「ヒトラー自身は日本軍の大勝利に関し興奮している事はなく、黄色人種を(シンガポールから)押し戻すためにドイツ軍20師団を派遣したい気持ちでいる(Hitler selbst nicht restlos begeistert sei von den Riesenerfolgen der Japaner und gemeint habe, am liebsten würde er den Engländern 20 Divisionen schicken, um die Gelben wieder zurückzuwerfen)」と記した。更にはリッベントロップ外相が絞首刑の前に妻に残した文章の中にも、大島大使に対する親しい言葉が見つからない。日本人としてみれば流暢なドイツ語を話し、1934年以降、ヒトラーやリッベントロップとの親密な交流を日本の人々に自慢した大使だが、1938年の独ソ不可侵条約の時も1941年のバルバロッサ作戦の時も彼等から直前まで知らされる事は無かった。大使がNazi Germanyから単に利用されたこの事実を、筆者を含む外国語の不得手な我々は苦い歴史的教訓として銘記する必要があろう。

ところでケッサクな事に、お酒が絡んだ話になると大使の事がドイツ側の記録に残っているのだ。例えば小誌前号で触れた独空軍が誇るace pilotのアドルフ・ガーランドに関する書籍の中に、大島大使の名前と写真が登場する—1941年夏、彼の独空軍基地訪問の時、「駐独日本大使大島将軍、将軍は蒸留酒(キルシュ)を大量に呑めた(General Oshima, der japanische Botschafter in Deutschland, der General konnte Unmengen schärfsten Kirsch trinken und vertragen)」との記録がある。また建築家で軍需大臣でもあったアルベルト・シュペーアの回想録の中に次の様な記述がある。グデーリアン将軍が1945年1月、東部戦線での撤退をヒトラーに進言した際、総統は即座に却下したが将軍は引き下がらなかったのだ。その時の様子をシュペーアは「グデーリアンは大島大使と面談したために(司令部に)遅れて来た。…恐らくは大島大使と飲んだアルコールの影響で自制心を失ったのであろう(Als Guderian, der sich durch einen Besuch beim japanischen Botschafter Oshima verspätet hatte, . . . Wahrscheinlich befeuert von den Wirkungen des Alkohols, den er bei Oshima zu sich genommen hatte, streifte er alle Hemmungen ab)」と記している。今更言っても仕方がないが、大使には外交官としての戦略眼と、軍人としての戦略眼鋭い作戦家であって欲しかったと思っている(勿論、お酒を或る程度飲むのは結構だが…)。

21世紀型モンロー主義に傾く米国を前にして、日本を含む世界は如何なる戦略を選ぶのか。

Oxfordで2026年の世界経済に関し、Harvard時代の友人達と議論している時、グレゴリー・マンキュー教授の話になった。彼の祖父母はウクライナからの移民だ。彼の叔父も米国に帰化して、第二次世界大戦時、軍人としてノルマンディー上陸作戦の際に戦死している。叔父さんを含む多くの米国将兵を失った事を、マンキュー教授はルーズヴェルト大統領が承認した上陸作戦が準備不足のためだと考え、憤っているらしい。このため教授は、ニクソン時代以来熱心な共和党員であるらしい。しかし、今も彼は“熱心な”共和党員なのだろうか(小誌昨年5月号に、トランプ大統領を批判した教授の言葉を記している)。

さて台湾問題を中心とする西太平洋における緊張関係も全く見通しがつかない状況である。鋭い戦略眼の指導者と作戦・戦術に優れた手腕を発揮する補佐役の活躍を期待している。しかも相手は中国だ。政治戦(political warfare)に関して中国は日本より数段上回る。しかも米大統領の対中戦略が予測不能なだけに最新の情報と知識で対応する必要がある。米戦争省が12月23日に公表した約百ページの報告書(“Annual Report to Congress: Military and Security Development involving the People’s Republic of China”)を読み、①中国は米国に対して如何なる反応を示してくるのか(PDF版の図4参照)、また②アジア諸国の反応は如何なるものか、③日本に対する海外の期待は、といった問題を議論する必要がある。我々は“反中”や“嫌中”ではなく、硬軟相交えた巧みな政治戦を遂行する必要があるだろう。一般的な話として、多くの人々は気分的にスッキリする“威勢の良い”強硬論を好むであろう。だが、我々はde-escalationを念頭にして戦略を慎重に練る必要があるのだ。

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