COP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)は、大した盛り上がりもなく終わった。交渉内容について詳しくは有馬純氏による解説に譲るとして、本稿では、いよいよ見えてきた「COPの壊れ方」に話を絞ろう。
先進国側は、出来もしない約束を二つもして、にっちもさっちもいかなくなった。すなわち、「2050年までにCO2をゼロにする」という約束をして、途上国にも押し付けようとするが、途上国は猛然と反発する。化石燃料については、今回の最終文書では言及することすらできなかった。もう一つの出来もしない約束は「年間3000億ドル(45兆円)の途上国への支援」である。これも出来るはずがないが、今回その相場は1兆3000億ドル(195兆円)以上にさらに膨らんだ。毎年COPを開催するたびにこの金額は膨らんでいく。もとより、先進国に支払うことができるはずもない。
この構図は、ここ2、3年何も変わらない。先進国は出来もしないことを約束し、途上国は排出削減目標の深掘りを拒否する一方で、先進国の責任を追求し、支援の金額を釣り上げ、それを拒否する先進国を批判する。
さらに、今年になり米国バイデン政権がいなくなったことで、欧州は単独で途上国と向き合うことになった。指導力があるフリをするためには、とにかく合意をしないといけないから、途上国の要求を丸呑みする形になった。
来年のCOP31はトルコが議長国となって開催され、再来年のCOP32はエチオピアで開催されるという。いずれの議長国も途上国の意見を尊重してまとめることになるだろう。先進国には居心地の悪い状態が続く。
COPは毎年同じ構図で続けられ、議題の選択も交渉成果の文書もますます途上国側が支配するようになる。こうなると先進国のリーダーは誰も行かなくなる。COPは形骸化していくだろう。
すでに年々、COPへ出席する首脳は減っている。今年は、米国はもとより中国、ロシア、インド、日本などの大国は大統領や首相を出席させなかった。英独仏などの首脳はCOPに出席したが、彼らはいずれも非常に支持率の低いレームダックの政権である。ウクライナでの敗戦が明らかになるにつれて、彼らの支持基盤はますます弱くなっている。ヨーロッパが政権交代して右傾化すれば、新しい指導者はCOPに行かなくなるだろう。
途上国がアジェンダを支配するようになって形骸化した例というのは、先例がある。国連のUNCTAD(貿易開発会議)は、かつては貿易と投資の促進に関する枠組みであった。しかし、途上国がアジェンダを支配し南北問題を持ち出すようになると、先進国は形式的にしか参加しなくなった。その代わりに新しく先進国側がテコ入れして造った枠組みがWTO(世界貿易機関)であった。
形骸化については、もっと手近な前例もある。京都議定書である。京都議定書は実はまだ存続していて、CMP(京都議定書締約国会議)もCOPの一部として毎年開催されているが、誰も知らないし、ましてそれに束縛されるとは全く思っていない。かつて、第2約束期間の数値目標を日本が提出しなかったことで、事実上の消滅をしたわけである。
パリ協定も既にそうであるように、諸国が新しい約束をしなくなったり、既存の約束のレビューを拒否したりすることが続いていけば、やがて事実上消滅するということになる。
今年のCOPに関して、「世界が分断されている時に世界全体でまとまって合意をできたことは成果だ」とする論評があるが、私は完全な間違いに思う。COPの場は、世界をまとめるどころではなく、まるで反対で、分断をますます、しかも下手くそなやり方で深めているだけだ。
先進国は、気候危機説という非科学に基づいて、道徳的に不利な立場にわざわざ自分たちを置いている。そして中国をインド、ロシアと結束させ、アフリカの国々や産油国までその同盟に追いやっている。
本当に世界で連携して解決すべき問題などはいくらでもある。エネルギーに関して言えば、エネルギー貧困の問題を協調して解決する方が、よほど切実な問題であり、途上国も先進国も真に協力できる。
なお悪いことに、EUがCBAM(炭素国境調整措置)を導入するということで、南北の分裂はますます深まっている。今後、CBAMの問題もCOPで議論されることになるが、そのたびにますますEUと「G77+中国+ロシア+産油国」の亀裂は深まっていくことになるだろう。COP31の議長国トルコもCBAMの影響をもろに受けるから、来年のCOPでも本件は大いに揉めるだろう。
トランプ大統領の後の民主党政権になればCOPは復活するという意見があるが、これもありそうにない。先般のニューヨーク市長選を見ても分かるように、民主党はいま極左と中道で分断されている。それに、仮に民主党が政権を奪回し、米国は今後ネットゼロに継続的に取り組むと言ったところで、いったいどの国が信じるというのだろうか? 京都議定書でもパリ協定でも、民主党政権は合意したが、やがて米国はほごにしたのだ。
そして何より世界の分断は深まっている。世界の四大排出国は、中国、米国、インド、ロシアであり、これだけで世界の半分を占める。だがいずれの国も、自らの経済を犠牲にしてまでCO2の削減に取り組むということは、今後何年にもわたってあり得ないだろう。
欧州は、今の英独仏と欧州委員会の指導者こそネットゼロに熱心だが、彼らはいずれも非常に支持率が低い。ウクライナでの敗戦がますます明らかになるにつれ、それはますます地に堕ちる。ネットゼロに関してCOPで指導力を発揮するということは当面期待できない。
COPが1.5℃目標を見直すといった現実路線になることに期待する意見もあるが、これも望み薄である。COPでの議論は教条的であって合理的ではない。1.5℃を見直すとかネットゼロの達成年を遅らせるなどと言った途端、不道徳だとして集中砲火を浴びるだけで得なことは何もない。中国はじめ途上国にとってはCOPの場は居心地が良い。何もせず先進国を批判しているだけで道徳的に優位に立てるし、支援を受け取ることもできる。彼らには何も現状を変える動機が無い。
これがCOPの壊れ方だ。先進国がどんどん遠のいてゆき、バーンとではなく、メソメソと事実上の消滅をしてゆく。ネットゼロは、そして地球温暖化問題は、世界規模のアジェンダであることもなくなるだろう。
日本は今、GX計画の下、CO2ゼロに向かってまい進している。だが早々に方針を転換しないと、日本だけが経済的な自滅をすることになる。