国際政治経済システムが激変している。主因は間違いなく米中大国間競争だ。これを我々は軽視してはならない。米国の関税政策と中国のレアアース輸出管理政策が世界の通商システムに困難な隘路を生み出した。この制度的激変で欧州は厳しい状況に陥っている。
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こうした中、10月30日、ベルリンにあるシンクタンク、国際政治安全保障研究所(SWP)は報告書を公表した。報告書のタイトルは「重要性が高まる安全保障、その影響下にある市場メカニズム」とでも翻訳すべきか、と考えている(ドイツ語では、メア・マハト、ヴェーニガー・マルクト)。そしてサブタイトルは「地経学上の転換点での思想と行動」だ。
発表日にドイツの中道右派系メディア『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)』紙が報告書に触れ、「EUのアキレス腱」という表題で報告書を紹介した。同紙は研究所所属の22人の専門家が、経済に対して支配力を強める安全保障政策の重要性を強調したと記した。地殻変動とも評すべきこの動きは非常に重大だ。なぜなら世界経済はかつてないほどに複雑に絡み合ったグローバル・サプライ・チェーンを内包しているからだ。
こうした状況下、政策担当者や経営者は安全保障と経済の双方を同時に観察する能力、すなわち「両眼視能力」をそなえなくてはならないと報告書は記している。政治と経済を両眼視する事で、米中大国間競争下の環境を立体的かつ奥深く眺める事ができ、「政治と経済が融合した姿」で観察できるとしている。
SWPの研究者は、ドイツ・EUにとり中国に依存している原材料が欧州の「アキレス腱」だと指摘した。そして報告書は昨年5月に発効した「欧州重要原材料法(CRAM)」に触れ、政策担当者と経営者が協力し、安全保障の観点から市場メカニズムを慎重に管理する必要性を強調している。
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報告書の2人の編著者のうちの一人は、筆者が所属するキヤノングローバル戦略研究所で以前講演してもらった友人のハンス=ギュンター・ヒルペルト氏。
先月末に公表されたドイツ語で書かれた百ページを超える報告書を、「牛歩の歩み」で筆者が読んでおり、12月には議論できると電子メールを送った。そうしたところ、可能ならばベルリンで仲間達と共に議論しようとの快諾をもらった。しかも現在、英訳に取りかかっているらしい。筆者の拙い独語では、知的な話をドイツ人が早口で語ると理解できる部分が限られてしまう。英語ならば討論の時に内容に集中できるから安心だ。
報告書の提言を要約すれば次の通り。第一に地経学的戦略立案のためにサイロ構造をしている部門間の障壁を除去し、包括的アプローチをとる事。第二に、組織間で情報交換と協調的行動に注力する事。第三に国際協力を活発化する事。以上3点だ。この3点全てが「言うは易し、行うは難し」である事は言うまでもない。
地経学上の「アキレス腱」に関し、ドイツ及びEUに対するSWPの提言は、程度の差があっても、日本に関しても当てはまる。このため来月のベルリンでの知的情報交換を楽しみにしている。