高市早苗政権が発足した。所信表明演説では強く豊かな日本を目指すとし、エネルギー供給においてはまず第一に「安定的で安価」であることが不可欠だと述べた。これを実現するためには菅義偉首相が所信表明演説で2050年までにCO2排出実質ゼロを目指すと宣言して以来、岸田文雄・石破茂政権が継承したグリーントランスフォーメーション(GX)計画を抜本的に見直さねばなるまい。
ガソリン暫定税率の廃止が与野党で合意され、ガソリン代は25円下がることとなった。これによる年間1兆円の税収減について代替財源を探すのか、あるいは国債を発行するのか、国会で議論されるもようだ。
だが一方では巨大なステルス増税が見逃されている。すでに再生可能エネルギー賦課金は年間3兆円強に上っている。のみならず政府のGX計画では令和5年からの10年で官民合わせ150兆円のグリーン投資を制度的な規制や補助によって実現するとしている。これも結局は年間15兆円もの国民負担となる。
このGXの一部として政府は大企業に対しては来年度から排出量取引制度を本格的に導入する予定で現在、制度の詳細を検討している。中小企業に対しては、化石燃料賦課金を新たに導入する。いずれも企業のコストアップとなる。
すなわち政府はいま、一方では国民負担の低減としてガソリン減税をしながらも、その3倍の負担をもたらす再エネ賦課金についてはなんら対策を取っていない。のみならず、15倍もの巨額の国民負担をもたらすGX計画の制度化を着々と進めている。
高市政権は歴代の自民党政権の下でかかる欺瞞が進行してきたことを国民に正直に告白し、GXには大鉈を振るわねばなるまい。
石破政権で交渉された日米の貿易・投資協定では80兆円(5500億ドル)の対米投資が合意されたが、いまだ全容は不明である。高市政権になって日米首脳会談で発表された覚書「日米間の投資に関する共同ファクトシート」では日米企業の協同による、米国の電力およびAIインフラへの総額60兆円(4000億ドル)の投資についての関心を示す声明があった。
一連の投資が日本企業にとってのビジネスチャンスになるならば結構だが、それにしてもなぜこの投資の対象は日本ではないのか、と思わざるを得ない。米国ではAI産業の爆発的成長により電力需要が急速に伸びている。米国の電力は天然ガス火力を中心とし、原子力に加え石炭火力も活用していて日本に比べて電気代が安い。AI産業もこの恩恵を受けている。
翻って、日本はCO2を理由に火力発電を悪者扱いし、電気代を高騰させる再エネを最優先するGXを推進している。日本でもAIブームに期待する声はあるが、安価な電力供給がなければ、新たな産業の立地も進まない。
再エネ最優先をやめ、天然ガス火力はもとより、石炭火力に対する規制および賦課金などを悉く廃止して、電力を安価にすべきだ。そうすれば、AI、半導体、自動車、それに加えて従前から日本が強みを有してきた素材・部品産業など、あらゆるエネルギー多消費産業が育つことになる。
高市首相は総裁選中に「これ以上私たちの美しい国土を、外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対」「補助金制度の大掃除をして、本当に役に立つものに絞り込む」と発言していた。
政府は早速メガソーラー立地規制の強化の動きを見せているが、これに留まらず、GXを抜本的に見直すべきだ。
大掃除が必要な補助金は一般会計だけでなく、特別会計にもある。エネルギーに関しては後者が多い。そして補助金に留まらず、GX全体の大掃除が必要だ。補助金の原資となっている賦課金や税に加えて、再エネ導入の義務化などの規制措置もコストアップを招き、実質的な課税となっている。
これまで、自民党政権はGXによって経済成長するとしてきたが、これは完全な虚構である。太陽光発電、風力発電、アンモニア発電、水素利用などは、いずれも光熱費を高騰させる一方である。
洋上風力発電についても、三菱商事グループが撤退を表明したことで、これが極めて高コストであることが改めて露呈した。
脱炭素で先行してきた英独は光熱費高騰と産業空洞化にあえぎ、政権与党の人気は地に墜ちた。支持率に勝る保守系の野党は脱炭素の放棄を公然と主張しており、両国の政策変更も時間の問題となった。
米国のゼルディン環境保護局長官は、バイデン政権時までに導入されたCO2規制を悉く撤廃し、史上最大の「1兆ドルの規制緩和」を実現すると表明した。
日本も、GXを大掃除することで「150兆円の規制緩和」を実現するべきだ。これなくしては、強く豊かな日本を造る「サナエノミクス」は画竜点睛を欠くことになる。