メディア掲載  エネルギー・環境  2025.10.27

英国保守党も脱・脱炭素へ 日本はいつまで続けるのか

エネルギーフォーラム20251010日発行)に掲載

地球温暖化 エネルギー政策

英国保守党が、明確に脱・脱炭素を党の方針として打ち出した。10月2日付けで発表された「気候変動法の廃止」という文書だ。(まだ公式の保守党HPには掲載されていない。筆者はこのサブスタックから入手した)。

イギリスの「気候変動法」は、2050年CO2ゼロ(同国ではネットゼロという)に向けて、直線的に5年ごとの国全体の排出枠を決めて割り当てるなど、ネットゼロの根幹を成してきた法律だ。それを廃止するということは、ネットゼロを放棄することである。

サマリーを邦訳しよう:(全文の機械翻訳はこちら

気候変動法の廃止

要約:2025年10月2日、保守党は気候変動法の廃止計画を発表した。

  • 気候変動法は機能していない。この法律は閣僚に、国民を貧困化させ、家庭や企業のエネルギー料金を上昇させ、英国の産業を衰退させる政策を採用させている。
  • だからこそ、われわれの努力にもかかわらず、世界の排出量は増加している。機能しないものは機能しないと認めるべきだ。だからこそわれわれは気候変動法を廃止し、安価なエネルギーを最優先とするエネルギー戦略に置き換える。
  • これは気候変動対策の放棄を意味しない。安価なエネルギーに焦点を当てた戦略で同法を置き換え、家計に合えば排出削減可能な電気製品を採用できるようにし、自然を保護し、世界的な排出削減につながる製品を革新する。これが地球規模の気候変動に与えるわれわれの最大の影響だからだ。
  • 労働党は実現計画もなく目標を掲げ、国民を貧困に陥れる。改革党は見せかけだけの政策しか提案しない。明確な計画を策定する困難な作業に取り組んでいるのは保守党だけだ。


英国は現在、労働党政権だが、支持率はわずか19%しかない。支持率1位はブレクジット運動の後継にあたる新興政党「改革UK」で何と31%もある。この改革UKはScrap Net Zero、つまり脱炭素を潰せ、と明言してきた。なお支持率の数字は
politicoによるもので、9月18日現在のもの。

今回は、これに加えて、議席数では今なお最大野党であり、伝統的な二大政党の一つだった保守党が、はっきりとネットゼロ廃止に舵を切ったことになる。なお保守党の支持率は凋落して今は17%とどん底に落ちている。

もうこの段階で、ネットゼロは、もはや国民の多数の支持を受けているとは言い難くなったことが判明した。

英国は、もはやネットゼロを放棄するか否かではなく、いつするのか、という問題だ。

左傾化で支持率急落 保守党と重なる自民党の現状

ただし、労働党はなおもネットゼロを掲げており、29年まで英国では総選挙は無いので、表立った政策変更には時間がかかるかもしれない。

なおこの保守党の文書では、気候変動対策は実施しないのではなく、原子力発電の推進を行い、電気代を安くして、家計や企業が自発的に電化することで排出削減を行う、ただし数値目標の強制はしない、としている。以下に該当箇所を訳する:

Q: これは排出量削減計画を全て放棄するということか?

われわれは人々の財政と生活水準を最優先することを躊躇しません。排出量を削減する最善の方法は、よりクリーンで信頼性の高い原子力発電を増やし、電気代を安くすることで、人々が電気自動車や電気暖房を購入できる環境を整えることです。これにより節約と生活の質向上を実現するのです。政府の目標達成のためだけに強制するのではありません。英国の排出量は世界のわずか1%に過ぎません。気候変動を単独で解決することはできませんが、ネット・ゼロ政策は英国国民の生活を悪化させ、貧困化を招いています。

また、パリ協定については、離脱するのではなく、枠組みに留まって、英国の立場を説明してゆくとしている。これも該当箇所を訳しよう:

Q: これは気候変動に関するパリ協定からの離脱を意味しますか?

パリ協定は国内法における法的拘束力のある気候目標を必要としません。協定は明らかに機能していませんが、われわれは協定から離脱しません。英国が協定を順守している数少ない国の一つであるのは不公平です。

われわれは協定に留まる利点は依然あると考えており、気候問題への最善の対処法についてわれわれの主張を提示してゆきます。


日本も、国内の温暖化関連法を、2050年CO2ゼロという目標を含め、ことごとく廃止した上で(すでに以前にそのような「
脱・脱炭素法案」を筆者は提示したことがある)、パリ協定には留まるという選択肢が存在するだろう。

英国保守党は、ネットゼロのような左傾化した政策を取り続けた結果、岩盤支持層を改革UKに奪われて、消滅の危機まで落ち込んだところで、ついにこのネットゼロ撤回に舵を切った。

左傾化して少数与党に落ち込んだ自民党とその姿が重なる。自民党も高市政権が新生したのを機に、早いところ脱炭素を撤回したほうが良いのではないか。