メディア掲載  外交・安全保障  2025.10.27

ニュージーランド陸軍小隊の韓国派遣に見る国連軍司令部機能の新たな活用法

笹川平和財団IINA2025107日)に掲載

朝鮮半島 外交安全保障

はじめに

2025年7月30日に韓国・烏山(オサン)空軍基地にニュージーランド空軍所属のC−130輸送機が到着した。機内から35名の同国陸軍所属の兵士が降り立つとすぐに輸送機の前に横並び広がって、ラグビーなどの国際試合でよく見られるニュージーランドのマオリ族の民族舞踊「ハカ(Haka)」を披露した[1]。今回彼らの訪韓目的は韓国との単なる親善目的の軍事交流を図るためだけではない。ニュージーランド陸軍小隊は、818日から10日間の日程で実施された米韓合同軍事演習「ウルチ・フリーダム・シールド(UFS: Ulchi Freedom Shield)」などの合同演習または訓練に参加するためにはるばる太平洋を渡ってきたのである。

ニュージーランドは朝鮮戦争(1950年〜53年)において韓国を救援するために、米国をはじめとする自由主義陣営で構成された国連軍に参加した戦力派遣国(Sending States)の一国である。当時、朝鮮半島に陸海軍合わせて約6,000名の兵士を派遣し、33名が戦闘で犠牲になった[2]19537月に停戦が成立すると、韓国に駐留していた同国軍部隊は段階的に撤退し、1957年に朝鮮半島から完全撤退した。その後、同国は停戦監視委員会などにスタッフを送ることで朝鮮半島の平和に貢献してきたとされるものの、他の多くの国連軍関係国と同様に少人数の軍要員による限定的な関与が主であった。今回の陸軍小隊の派遣は、これまでの流れとは異なるものである。本稿では、こうした変化がもたらされた背景について、ニュージーランド陸軍の動きと韓国内政の変化の2つの点から検討する。

韓国に派遣されたニュージーランド陸軍小隊の動き

今回派遣されたニュージーランド陸軍部隊は即応戦闘歩兵小隊(combat-ready infantry platoon)で、90日間の予定で国連軍司令部の指揮の下に、韓国に駐屯する米第2歩兵師団に配属され、UFS演習以外にも、米軍と韓国軍とさまざまな軍事演習を行うことを予定していると報じられた[3]

実際に、米韓軍事演習に参加した後に、922日〜26日にかけて、韓国軍の陸軍科学科訓練団(KCTCKorea Combat Training Center)での、韓国陸軍との合同訓練に参加した[4]。こうした合同軍事訓練は珍しいことでないように捉えられるが、そもそも米軍以外の外国軍が韓国軍の特定の演習場にとどまらず、韓国各地の演習場などで訓練を行うこと自体が異例なことである。

ニュージーランド陸軍がKCTCでの韓国軍との合同訓練に参加したことについて、ニュージーランド国防軍陸上部隊司令官は「今回の訓練は戦闘即応力および連合部隊としての統合の強化に役立ち、貴重な経験を積み、韓国軍および米国軍の要員と共に活動し、韓国の精鋭部隊が使用する世界最高水準の戦闘訓練施設を利用できる素晴らしい機会である〔〕3か月後には、我々の部隊は、相手部隊の技術や戦術に慣れ、連合軍での戦闘環境に迅速に統合できる能力が高まっているだろう」とメディアに答えている[5]。また、ニュージーランドの韓国駐在武官は、「今回の派遣の目的は、3つの部隊間〔米・韓・NZ〕の小隊レベルでの協力と理解を促進することだ」と述べている[6]

国連軍司令部関係国との合同訓練の活発化

あまり表だって語られることはないが、これまで韓国政府は中国に不必要な刺激を与えないために、韓国国内における外国軍との陸軍種間の演習は、あくまで北朝鮮からの脅威に共同で備える米陸軍および海兵隊との演習に留めてきた経緯がある[7]。ところが2000年代に入って以降、拙稿で論じたように国連軍司令部機能の再活性化が図られるのと並行して[8]、国連軍司令部関係国の軍人が夏の米韓合同軍事演習の指揮所演習に、国連軍司令部所属という肩書きで少人数ながら参加するようになっていた。

こうした国連軍司令部機能の再活性化という文脈を捉えると、ニュージーランド陸軍の韓国でのさまざまな「初」の訓練が報じられ、「インド太平洋」重視の姿勢ばかりが注目されているが、ニュージーランド以外の国も韓国軍と合同訓練を行うケースが増えている。例えば、202211月には英国陸軍一個小隊がKCTCでの韓国軍と合同訓練を行い[9]2023年夏のUFS演習には豪州軍がこれまでで最も多い一度に26名の要員を派遣したことを公開した[10]。さらに、202410月には豪州陸軍第3旅団隷下の一個小隊がKCTCにおいて韓国陸軍との合同訓練に参加しており、両軍は最新のドローンなどを持ち寄って、韓国陸軍旅団長の指揮下に豪州軍が入るなどの高度な訓練を実施したとされる[11]

李在明大統領の国連軍司令部に関する立場も実用的に変化?

今回のニュージーランド陸軍小隊をめぐる動きについて、李大統領の反応も意外なものであった。北に融和的であり国連軍司令部に否定的とされる李在明大統領も与党「共に民主党」の指導部からも、現時点で本件に対して否定的な発言はなく、米韓合同軍事演習についても同様である。韓国では、この夏の酷暑などを理由に一部の演習が9月に延期された点を「北への配慮」と報道されているが、表向きはこれまで通りの体裁を保っている。

現在の李大統領はかつて北朝鮮と接する京畿道の知事を務めていた(任期:20187–202110月)。当時は北朝鮮の平昌オリンピック参加からの南北融和の機運に乗って、李在明知事は北朝鮮への支援物資を送ることに注力していた。しかし南北の軍事境界線を管理する国連軍司令部が支援物資の通過を認めなかったために両者の間で軋轢が生じていた。さらに自身の副知事の一人を「平和副知事」として任命し、南北境界線近くの展望台に平和副知事のオフィスを開設して、開城工業団地再開を促そうとしたところ、国連軍司令部に拒否されたため、平和副知事が一人で南北軍事境界線近くの臨津閣(イムジンガク)に臨時の執務室だとしてテントを張って、そこで43日間滞在しながら国連軍司令部に対して抗議するという政治的パフォーマンスを行っていた[12]

国連軍司令部の機能拡大に関しても、当時の野党である「共に民主党」をはじめとした革新(進歩)勢力は否定的な立場をとってきた。2023815日に尹錫悦前大統領が光復節演説の中で、「国連軍司令部は「一つの旗の下」大韓民国の自由を堅固に守るのに核心的な役割を果たしてきた国際連帯の模範」、「日本が国連軍司令部に提供する7カ所の後方基地の役割は、北韓(北朝鮮)の南侵を遮断する最大の抑止要因である」などと発言すると、当時の野党「共に民主党」幹部が「韓米日軍事協力強化が北・中・露と対立する新冷戦構図を呼び起こす恐れがあるという憂慮が大きい」、「我が国が対中国牽制の最前線に立つことは刃の上に立つこと」などと反応した[13]

このような一連の国連軍司令部に関する過去の言動は、与党に返り咲いた「共に民主党」を率いてきた李氏による政権発足後の外交姿勢と大きく異なるものである。実際に政権の座につくと、北朝鮮・中国・ロシアが連帯するという厳しい安全保障環境を背景に、国益最優先の実用外交の中で国連軍司令部の存在価値の大きさを容認せざるをえないのだろう。

おわりに

今回のニュージーランド陸軍の参加は、わずか35名の小隊レベルでの参加ということもあり、韓国国内で報道はされているもののほとんど注目されていないのが現実だ。最近、筆者が訪韓した際に本件について多くの専門家に話を振ってみても、ほぼ認知もされていないことがわかった。しかしながら、現実は朝鮮半島を含む東アジア全体の安全保障環境がより厳しくなるにつれて、国連軍関係国の中で英・豪・NZ以外にも、加・仏といった国々が同様の動きを見せる可能性は十分に考えられる(すでにNZ陸軍は来年に韓国海兵隊と共同訓練することを決定しているようだ)。また同時に、関係国が韓国側の反応を注視しながら、徐々に小・中隊レベルから大隊以上にと訓練規模を拡大する可能性を否定できない。

昨今の韓国をめぐる動きは米トランプ政権による米軍の軍事プレゼンス再検討に注目が集まりやすい。在韓米軍の兵力削減が予測される中、国連軍司令部関係国の間では、少数の軍要員の派遣というレベルから変化し、合同訓練などが行われるようになり、少しずつではあるが活性化が続いていることを見逃してはならない。

最後に日本との関係についても述べておきたい。現時点では、李大統領は日米韓安保協力を重視する姿勢を明確にしている。その推進力を図る一つのバロメーターとして、米軍以外、英・豪・NZとの交流の軸となっている国連軍司令部に対する李在明政権の態度もその一要素として考えられるのではないか。具体的には、1つには中国からの反発を覚悟して(あるいは配慮して)国連軍司令部関係国との軍事協力レベルを上げ(下げ)することで中国との距離感を確認できる。2つには、日本の国連軍司令部後方基地の役割を表立って(あるいは水面下で)評価するかどうかであり、尹錫悦前政権のように自国の安全保障における日本の重要性を明確にすることで、日本との協力の本気度を測ることができる点にも注目していく必要があるだろう。インド太平洋における日本の安全保障政策を考える上でも、韓国と各国の軍との交流の促進について今後も注目していきたい。


脚注

“NZ Army combat-ready infantry platoon deploys to the Republic of Korea,” Defense Force, New Zealand Government, July 28, 2025.

“Korean War Introduction,” New Zealand History, New Zealand Government, Accessed October 3, 2025.

イ・ジョンヒョン「ニュージーランド陸軍、朝鮮半島初の派兵…韓米連合訓練参加」『聯合ニュース(韓国語版)』2025年8月1日。

イ・ジョンヒョン「国際科学化戦闘競演大会…「世界最精鋭将兵と競う」」『聯合ニュース(韓国語版)』2025年8月1日。 KCTCとは韓国陸軍の最も近代的かつ、世界的にも稀有な旅団レベルでの訓練が可能な大規模演習場であり、軍の能力開発のために最新技術を駆使して訓練を評価する役割も果たしている。 “부대소개(部隊紹介),” Korea Combat Traning Center, Accessed October 6, 2025.

「ニュージーランド軍部隊、国連軍司令部で韓国軍、米国軍部隊と訓練を実施」『Indo-Pacific Defense Forum』2025年8月18日。

6 同上。

Bill Paterson, “Australia and South Korea can and should have closer defence ties,” Australia Strategic Policy Institute, August 20, 2020.

「国連軍司令部機能の再活性化」については、拙稿「アメリカ主導による在韓国連軍司令部強化と韓国の懸念」国際情報ネットワーク分析 IINA、2019年8月22日を参照のこと。

「陸軍、英国軍中大級初連合KCTC訓練実施」『聯合ニュース(韓国語版)』2023年10月20日。

10 “Australia supports security exercise on Korean Peninsula,” Australia Government Defence, August 21, 2023.

11 チョ・ムンジョン「陸軍、オーストラリアと初の科学化戦闘連合訓練…双方交戦で連合作戦遂行能力強化」『ニューデイリー』2024年10月25日。

12 京畿道平和副知事による活動の詳細は、キム・チャンホ「臨津閣で「43日」…京畿道平和副知事はなぜ執務室を移したのか」『京郷新聞』2021年1月10日を参照のこと。

13 イ・ジョンソク「尹大統領「日本の国連司令部後方基地」言及に「批判」と「期待」が交錯」『Liberty Korea Post』2023年8月17日。