米中の大国間競争が世界の人々を不安に陥らせている。8月19日の『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙掲載の寄稿文の表題「ハーバード大の中国人学生を帰国させよ」に驚いている。著者は連邦議会下院中国特別委員会長を務めたマイク・ギャラガー氏。彼は中国人が同大学を隠れ蓑にしていると非難した。また中国の研究者が祖国のため、軍事転用可能な米国最先端技術を窃取している点も指摘した。更には交流を通じ米国の自由思想を中国に伝える事を“時代遅れ”と評したのだ。
◇ ◆ ◇
彼の意見に対する筆者の考えはYES&NOだ。YESである理由は安全保障問題。人民解放軍(PLA)将校がアナポリス(海軍兵学校)やウェストポイント(陸軍士官学校)で学ぶ事を禁止する事自体当然だ。ハーバードでも、米軍の高級将校と研究者が交流する機会に溢れているため、機密上の問題が発生する。
NOである理由は、中国人“全員”が祖国のために米国にいるわけではないからだ。中国の人々に米国の価値観を伝える事は非常に難しい。この難題に最初に取り組む人は米国で学んだ優れた中国人なのだ。
米国にとってもNOと言える。第一に優秀な中国人は米国先端技術開発にとり不可欠だ。もし、彼等が祖国や別の国で研究すれば、米国の技術優位が損なわれる。第二に中国を知るには米国人が訪中するか、それとも米国内で中国人と“米中両言語”で交流するしか方法はない。
最新海外情報は、情報に鋭い感覚を持つ人を通じてのみ知る事ができる。自国言語のみの情報では頼りない。まさしく敵を知り、己を知る事は難しい。
歴史は遡るが太平洋戦争時、山本五十六元帥や栗林忠道大将は米国に住んで米国の真の力を知っていた。米国海軍のニミッツ提督も、東郷平八郎元帥と言葉を交わし、元帥の葬儀にも参列している。また提督の情報主任参謀レイトン大佐は山本元帥を個人的に知っていたし、ミッドウェー海戦前に帝国海軍の暗号解読に活躍したロシュフォート大佐も東京生活の経験を持つ。翻って帝国海軍の富岡定俊作戦部長は頭脳明晰ではあったが、フランス留学組で、直接的体験を通じた米国の知識はなかった。
◇ ◆ ◇
さて、外国人が参加できる研究分野の選定、そして外国人の選別や活動の審査をどうすべきか。
全米経済研究所(NBER)は6月発表の冊子『起業家精神、イノベーション政策、そして経済』の中で、国防関連科学技術に必要な人材に関する論文を掲載した。これによると米国国防産業の外国人労働依存率は19%。博士号取得者に限ると55%だ。また電子部品分野の国防産業における博士号・修士号取得者で見た外国人依存率は60%だ。
技術の発達で科学技術情報は瞬時に地球を駆け巡る。この現状を考えれば、国益を損なわずに中国を含む外国人を研究から排除する事は困難だ。しかもこの政策課題は米国だけでなく、日本にとっても重要だ。
かくして今、グローバル化する科学技術とグローバリズムを警戒視する米国科学技術政策に関し、内外の友人たちと意見交換をしている。