メディア掲載  エネルギー・環境  2025.09.09

地球温暖化で砂浜の6割が消失するという偽情報

アゴラ2025820日)に掲載

地球温暖化

「地球温暖化で海面が上昇すると、日本の砂浜が大きく失われる」という話は、昔はよく報道されてけれど、最近はさすがに少なくなってきた。後述するように、単なる誤情報だからだ。

それでもまだ、以下のような記事の見出しがあった。

2050年に砂浜半減も 夏のレジャー、海水浴は少数派(2025年8月3日 5:00

全国の砂浜は地球温暖化が響き2050年には半分近くが消えるとの予測もある。・・・

それで、政府はどのような情報を出しているか調べてみた。以下は、環境省所管の国立環境研究所のホームページの図だ。

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1 出典:国立環境研究所ホームページ


これを見ると、いかにも地球温暖化で砂浜の62%が失われるかのようだ。これのもう少し詳しい図は国土交通省の資料にも出ている:

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2 出典:国土交通省資料


この一番左のグラフを見ると、海面上昇がゼロなら砂浜消失もゼロで、海面が上昇すると砂浜が大規模に失われる、と言う計算になっている。けれど、これは全然正しくない。

この計算はBruunルールと言う、割と簡単な式によっている。海面が上昇すると、それに応じて砂浜が水没する、というもの。詳細は省くは、下図が概念図だ。

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3 Bruunルール
出典:Cooper, J. A. G., & Pilkey, O. H. (2004). Sea-level rise and shoreline retreat: time to abandon the Bruun Rule. Global and Planetary Change, 43(3–4), 157–171.


だが、この式で予測しても、全然当たらないことは沢山の例で既に実証済みで、ここのBruunルールは破棄すべきだ、という論文がすでに20年も前に出ている。図3で引用した論文だ。

Sea-level rise and shoreline retreat: time to abandon the Bruun Rule

要は、砂浜は図3よりももっとずっと複雑なのである。砂の粒はいろんな大きさがあるし、沖合に流れたり、逆に浜に堆積したり、砂浜に沿って流れたりする。これから、人工的に堤防などの護岸工事をすると砂の動きが変化する。ダムを作って川から砂が入らなくなっても砂浜はなくなる。日本の場合、とくにこの人工的な改変が大きく効いた。

実際の所、過去1世紀余りで、日本の砂浜は大きく失われてきた。下図を見ると、90年間で砂浜の面積は572平方キロメートルから278平方キロメートルまで半減している。かつては川や海岸の崖から大量に砂が供給されていたが、それがダムや護岸工事などで供給されなくなった。そのため、一方的に浸食されるようになり、砂浜は失われた。

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4 日本の砂浜消失
出典:有働恵子、気候変動の我が国の砂浜への影響、2019年


このような大幅な砂浜消失という現象は、もちろん、図2の「海面上昇だけ」を考慮したモデルでは全く再現できない。確かに砂浜が失われてきたけれど、理由は海面上昇などではなかった(なお、図4の著者である有働氏も、Brunnルールは破棄すべきだという図3Cooperの結論については論文中では言及している)。

なので、図2のような極端な砂浜消失の予測は、現実には用いられていない。砂浜については、人間活動に重要かつ浸食の激しい地点をピックアップして「順応的な管理」、つまり様子を見ながら対策を打っていく、ということになっており、このことは環境省も国土交通省も上述の資料の続きで説明している。

ということで、Bruunルールに基づいた「日本の砂浜が海面上昇で失われる!」という計算は、現実から大幅に乖離している。しかしそれでも、図1のように、いかにもそれっぽく環境省が「情報提供」をして徒に危機を煽っている。だがこれではほぼ偽情報ではないか。

環境省はフェイクニュース対策に乗り出すという報道があったが、まずはこのような情報提供の仕方こそ止めるべきだ。