メディア掲載  エネルギー・環境  2025.09.05

米国は「脱炭素」政策撤廃で1兆ドル経済効果、日本は愚かな再エネを続けるのか

週刊フジ2025823日)に掲載

エネルギー政策

北海道・釧路湿原国立公園周辺で大規模太陽光発電所(メガソーラー)建設が進むなど、日本では全国各地で太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの大規模開発による環境破壊が懸念されている。こうしたなか、トランプ米政権は今年夏、近年流布されてきた「気候危機説」を科学的に全否定して、「脱炭素」からエネルギー安全保障へ大きく舵を切った。莫大な経済効果・経済成長も見込まれている。エネルギー政策に詳しいキヤノングローバル戦略研究所研究主幹、杉山大志氏が緊急寄稿した。

米国では、トランプ政権と、上院・下院を同時に制した共和党が、エネルギー政策の大転換を進めている。合言葉は「エネルギー・ドミナンス(優勢)」だ。すなわち、「脱炭素」を最優先するというバイデン前政権の路線を全否定して、安価で安定した電力を確保し、産業と雇用を取り戻し、世界における米国の優勢を確立する、という現実路線である。以下では重要な動きを3つ紹介しよう。

1に、バイデン前政権の下で成立し、太陽光発電などの再エネや電気自動車への実質的な補助金の根拠となってきた「インフレ抑制法(IRA)」が実質的に撤廃された。すなわち、74日に成立した包括的な財政法(通称「One Big Beautiful Bill」)において、手厚く措置されてきた各種の税額控除の廃止や縮小が盛り込まれた。

試算によれば、これによって、向こう10年の財政負担の軽減は約5400億ドル、円換算ではおよそ86兆円にも及ぶと試算されている。

2に、気候作業部会(CWG)報告の公表である。2025723日に米エネルギー省の委託を受けてまとめられたこの報告は、近年流布されてきた「気候危機説」を、科学的に点検したもので、要点は以下の通りだ。

  • CO2増加には作物の収穫が増加するなどの正の側面もあるが、これまでは無視ないし軽視されてきた。
  • 気候モデルは過去を再現する能力すらなく、将来にわたる予測は信頼できない。その一方で危機を煽るために非現実的な将来予測がなされ、政策形成に影響を及ぼしてきた。
  • 大雨や台風などの異常気象が激甚化・頻発化してきたという主張は、観測データに照らすと否定される。
  • 拙速な「脱炭素」は、光熱費の高騰やエネルギー供給不安を招くことになり、特に社会的弱者に打撃を与えるもので、有害無益である。


「気候危機説」の全否定である。

3に、この気候作業部会の知見を受け、環境保護庁(EPA)が09年の「危険性認定(Endangerment Finding)」を撤回する規則案を729日に公表した。この「危険性認定」とは、米国において温室効果ガスを大気汚染物質として規制するための法的な根拠になってきた。

これを見直すことで、一連のCO2規制根拠を失うため、その撤廃が可能になるとされる。特に、事実上の電気自動車導入義務付けであった、バイデン前政権時代に制定された自動車のCO2規制の廃止もこの規則案に盛り込まれた。EPAのゼルディン長官は、プレスリリースで、これは「米国史上最大の規制緩和」であるとしており、累計で1兆ドル規模、つまり150兆円もの経済効果がある、と述べている。

なお上記のいずれも、一定の揺り戻しはあるとみられている。CWG報告は92日まで、EPA規則案は15日までパブリックコメントを受け付けている。EPAはこれを踏まえ規則を正式に決定することになるが、米国ならではの訴訟の嵐が予想されている。

さて、このような政府の動きに関連して、興味深いイベントがあった。「ペンシルベニア エネルギー&イノベーションサミット」である。

これは257月、ピッツバーグのカーネギーメロン大学で開催され、トランプ大統領をはじめとして、政権の閣僚や主要企業が一堂に会した。総額920億ドル規模(14兆円)の投資が発表され、天然ガス火力、原子力、水力などの発電インフラと、AI用のデータセンターの整備が同時に進められることとなった。

背景には、データセンター電力需要の急増がある。サミットでは「AI競争に勝つには膨大な電力が必要」として、太陽光発電や風力発電ではなく、ペンシルベニアが豊富に産出する天然ガス・石炭による火力発電や原子力発電を重視する姿勢が鮮明に示された。

まとめると、米国のエネルギー政策は、科学的知見を見直して「気候危機説」を覆すことからはじめて、「脱炭素」に関する補助や規制を大幅に撤廃することで1兆ドル規模の経済効果をもたらし、火力発電も活用して安定して安価なエネルギー供給を実現することで、AIをはじめとする産業を振興し国力を高める、という方向性を明確にしている。

これに対して、日本ではどうか。

菅義偉政権から石破茂政権に至るまで、政府は「グリーントランスフォーメーション(GX)」を銘打って、50年までにCO2をゼロにするという「脱炭素」政策に邁進し、その制度化を進めてきた。その一環として、26年度には排出量取引制度が本格的に導入され、28年度には化石燃料賦課金が課される見通しとなっている。

政府は官民合わせて10年間で150兆円のGX投資を実現することで「グリーン経済成長」を達成するというおとぎ話を続けているが、太陽光発電などの高コストな技術にばかり投資するのでは、光熱費が上がり、産業競争力は下がり、国民生活は疲弊する。経済成長などするはずがない。

米国の共和党では、「2050CO2ゼロ」など実現不可能であるし、科学的にその必要もなく、「脱炭素」政策など有害無益だという認識は幅広く共有されている。CWG報告についても、決して突然に現れたものではない。CWG報告にまとめられた情報は、これまでも、米国の科学者たちが、議会の公聴会などで繰り返し示してきたからだ。

日本も、科学的知見を見直して「気候危機説」を覆し、GX関連の法案を撤廃し、安価で安定したエネルギー供給を実現すべきだ。このままでは米国との経済格差はますます開き、日本は衰退する一方である。これまでのところGXに異議を唱える政党は参政党と日本保守党しかなかったが、どの与野党も、GXがいかに愚かな経済政策であり日本国民を害しているか、本気で考えるときだ。